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造血幹細胞移植を受けるにあたって知っておくべきこと
造血幹細胞移植―適応は、移植時期は、どの方法でやれば最善の選択か

監修:石川淳 大阪府立成人病センター血液・化学療法科副部長
取材・文:増山育子
発行:2008年9月
更新:2013年4月

  
石川淳さん
大阪府立成人病センター
血液・化学療法科副部長の
石川淳さん

私たちの体の中を流れている血液は全て骨髄の中に存在する造血幹細胞によってつくられている。急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病などの血液のがんに罹っている患者さんにとって造血幹細胞移植はいわば最後の選択ともいえる。
では、その選択をいつどのような方法でするのが最善なのか、また、移植にあたっての副作用、移植後の問題点など、大阪府立成人病センター血液・化学療法科副部長の石川淳さんに聞いた。

造血幹細胞移植とは?自家移植と同種移植

私たちの体の中を流れている赤血球、白血球、血小板などの血液細胞は、全て骨髄の中に存在する造血幹細胞から生じる。骨髄では造血幹細胞が盛んに増殖と分化を繰り返し、成長して血液細胞がつくられるのだが、抗がん剤を投与されると造血機能が低下し、白血球、赤血球、血小板の減少が認められ、抗がん剤の投与量を制限する1つの因子となっている。

造血幹細胞移植は、まず、超大量の抗がん剤を投与し、大線量の放射線を照射して、がん細胞を死滅させる。それによって骨髄は大きなダメージを受けるが、そこに正常な造血幹細胞を移植して造血機能を回復させるというものである。つまり、造血幹細胞移植をすることで、より強力な化学療法・放射線治療の実施が可能となるというわけだ。造血幹細胞移植は、移植に用いる細胞、すなわち造血幹細胞の由来によって「骨髄移植」「末梢血幹細胞移植」「さい帯血移植」の3つに分類される。

また、造血幹細胞移植には「自家移植」と「同種移植」がある。自家移植とは、患者さん自身の造血幹細胞をあらかじめ採取し、冷凍保存しておいて移植する方法。これに対して、同種移植とは他人の正常な造血幹細胞を移植する方法だ。

同種移植の場合は、基本的にはHLAという白血球の型が患者と幹細胞の提供者(ドナー)とで一致していることが必要であるとされている。HLAが一致した兄弟がドナーとなるものを「同胞間造血幹細胞移植」、親子などの血縁者であれば「血縁者間同種造血幹細胞移植」、骨髄バンクを通じてHLAの合うボランティアドナーから提供を受けるものを「非血縁者間同種骨髄移植」、またさい帯血バンクから提供されるものを「非血縁者間さい帯血移植」という。

大阪府立成人病センター血液・化学療法科副部長の石川淳さんは「ドナー選択の順序としては、まずHLAのあった同胞あるいは血縁者間移植を、ご家族にHLAのあった方がいらっしゃらない場合、骨髄バンクを通じた非血縁者間移植、さらにはさい帯血バンクからのさい帯血移植という順位が基本と思われます」という。

また、「それぞれメリット・デメリットがあり、ドナーの条件や患者さんの病名・年齢、全身状態などをふまえて、移植をするのがよいのか、いつするのがよいのか、どの方法がよいのか選択していかなければなりません。そこが移植医療の難しい点です」と指摘する。

急性骨髄性白血病・急性リンパ性白血病の移植適応とは?

急性骨髄性白血病細胞
急性骨髄性白血病細胞

最近では予後因子の研究が進み、診断時に行う白血病細胞の染色体・遺伝子検査によって病気の経過を予測できるようになってきた。

たとえば、急性骨髄性白血病では、t(8;21)、inv(16)、t(15;17)といった染色体異常があれば予後(治療後の見通し)が良好、複雑な染色体異常のあるタイプやFAB分類(世界標準の白血病分類)でM0(未分化型骨髄芽球性白血病)、M6(赤白血病)、M7(巨核芽球性白血病)にあたる症例などは予後不良と考えられる。

石川さんは「ひとくちに急性骨髄性白血病といっても、その病状は多彩で予後はさまざまです。患者さんの年齢や、染色体・遺伝子異常のタイプ、寛解(治療によって病状が落ち着く)までにかかった期間などから、予後を予測して治療方法を選択していくわけで、移植を考える際にも参考になります」という。

急性骨髄性白血病で移植を考えるのはどのような場合か、日本造血細胞移植学会のガイドラインによると、高リスク(予後不良)と標準リスク(予後中間)の患者には、第1寛解期(治療により病状が落ち着いたとき)に、HLA適合同胞移植を「積極的に移植を勧める」、非血縁者間移植も「考慮するのが一般的」、低リスク(予後良好)群では「標準治療とはいえず、臨床試験として実施すべき」となっている。

HLA適合同胞の移植を「積極的に勧める」のは第2寛解期まで。第3寛解期と再発早期では「考慮するのが一般的」となる。再発進行期では「考慮するのが一般的」、または「標準治療とはいえず、臨床試験として実施すべき」とされている(表1)。

[表1 急性骨髄性白血病の移植適応]

病気 リスク 同種移植 自家移植
HLA適合同胞 非血縁
第1寛解期 t(15;17) CRP NR R/CRP
低リスク CRP CRP R/CRP
標準リスク D R R
高リスク D R CRP
第2寛解期   D R CRP
第3寛解期以降   R R CRP
第1再発早期   R R/CRP NR
再発進行期/寛解導入不応期   R/CRP R/CRP NR
D : 積極的に移植を勧める場合
R : 移植を考慮するのが一般的な場合
CRP :標準的治療法とは言えず、臨床試験として実施すべき場合
NR : 一般的に認められない場合

急性リンパ性白血病の場合はどうだろうか。

「国内、海外のこれまでのデータを総合すると、全体的には第1寛解期の同種移植を強く推奨するデータは、化学療法との比較において乏しいとされています。ただ、年齢30歳以上、初診時白血球数3万以上、ph1染色体など予後不良の染色体をもつなど、予後不良因子が1つでもある場合、第1寛解期での移植が推奨されます。成人症例では多くが予後不良因子を有していると思います。日本造血細胞移植学会ガイドラインの標準リスク群はT-ALL(T細胞急性リンパ性白血病)など限られた症例です」(表2)

[表2 急性リンパ性白血病の移植適応]

病気 同種移植 自家移植
HLA適合同胞 非血縁
第1寛解期 (標準リスク群) CRP CRP CRP
(高リスク群) D/R D/R CRP
第2以降の寛解期 D D CRP
再発早期 R R NR
再発進行期/寛解導入不応 R/CRP R/CRP NR
高リスク群は予後不良因子を有する症例。予後不良因子として、例えば予後不良の染色体異常(t(9;22)、t(4:11)、t(1:19)、+8など)、年齢(30歳以上)、寛解までに4~6週異常、診断時白血球>30,000/μlなどが挙げられている


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