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病気の状態と患者さんのニーズに合わせて治療法を選択
"長期寛解"を目指す低悪性度リンパ腫の最新治療法

監修:石澤賢一 東北大学大学院医学系研究科血液分子治療学准教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2012年4月
更新:2013年4月

  
石澤賢一さん
ゼヴァリン治療で完全寛解の
状態を長期間維持できる
ことがあると話す
石澤賢一さん

進行はゆっくりだが、完治させることが難しい低悪性度の悪性リンパ腫。再発後の早い段階で腫瘍の量が多くなければ、分子標的薬と放射線療法を組み合わせた治療薬「ゼヴァリン」を使うことで、長期間にわたって病気を抑えることが期待できる。

分子標的薬の登場で治療成績が向上した

悪性リンパ腫では、進行度による分類がよく使われる。年単位で進行するのが低悪性度、月単位で進行するのが中悪性度、週単位で進行するのが高悪性度。これはあくまで進行の早さによる分類で、病気の治りやすさとは関係がない、と東北大学大学院医学系研究科血液分子治療学准教授の石澤賢一さんは言う。

「低悪性度というと、治りやすい病気だと思われがちですが、違います。進行はゆっくりですが、このタイプは治癒が難しいのが特徴です」

ここでは低悪性度リンパ腫の治療について、解説していきます。

低悪性度リンパ腫の初回治療は、標準的治療法が確立しておらず、医療機関によって患者さんの状態に応じてさまざまな治療方針がとられている。東北大学病院血液・免疫科の場合、発病後の初回治療は、年齢、全身状態、腫瘍の量、病気の広がりなどを考慮し、患者さんと相談しながら治療法を決めている。

選択肢としては、①無治療経過観察、②放射線療法、③免疫化学療法という3つがある。

腫瘍の量が少なく、症状もない場合には、無治療経過観察が可能になる。定期的な検査を継続していくが、とくに治療は行わない。

放射線療法は、病変が狭い範囲に限られている場合の治療法である。進行して全身の治療が必要な場合には、免疫化学療法となる。抗体を利用した分子標的薬と従来の抗がん剤による治療である。

「無治療経過観察になると、早く治療したほうがいいのでは、と心配する患者さんがいます。一般的には"早期発見早期治療"がよしとされますが、悪性リンパ腫では、当てはまらないこともあります」

再発後の治療は選択肢が多い

[イブリツモマブチウキセタンの作用メカニズム]
イブリツモマブチウキセタンの作用メカニズム

低悪性度リンパ腫の場合、1次治療で病気を抑え込めても、また病気が現れてくることが多い。これが再発で、再発時の治療薬には、①リツキサン、②ゼヴァリン、③抗がん剤(フルダラ、トレアキシンなど)という選択肢がある。

リツキサン()は、悪性リンパ腫の多くが持っているCD20という抗原を標的とする抗体薬。標的を持つリンパ腫細胞を探し出して結合し、免疫の力で攻撃する。副作用が軽いのが特徴で、1次治療で使っている場合でも、ある程度の効果が期待できる。

ゼヴァリン()は、リツキサンと同じCD20を標的とする抗体に、イットリウム90という放射性物質を結合させた薬である。標的を持つ細胞に結合し、放射線で攻撃する。

[イブリツモマブチウキセタンで長期間の奏効が期待できる条件]
イブリツモマブチウキセタンで長期間の奏効が期待できる条件

「ある条件がそろっている患者さんに使うと、完全寛解()の状態を長期間維持できることがあると報告されています」

東北大学病院では、7年間効果が持続している例がある。

どのような人に適しているかというと、腫瘍径が5㎝未満、LDH()の上昇がなく、腫瘍量が少なく、ゼヴァリン単独で完全寛解が見込める患者さんだという。

フルダラ()、トレアキシン()などは、従来の抗がん剤に分類される。再発時には、患者さんの状態、それぞれの薬剤の特徴を考慮しながら、治療法を選択していくことになる。

リツキサン=一般名リツキシマブ
ゼヴァリン=一般名イブリツモマブチウキセタン
完全寛解=画像上腫瘍が消失した状態
LDH=乳酸脱水素酵素。細胞が障害されると血液中に増える。
フルダラ=一般名フルダラビン
トレアキシン=一般名ベンダムスチン

病気のない状態を長く維持するための治療法

患者さんの状態によっては、ゼヴァリンによる治療で、完全寛解の状態を長く維持できることがある。しかし、ゼヴァリンは放射性物質を用いる特殊な薬なので、治療できる医療機関は限られている。こうした事情があるため、東北 大学病院には、東北各地から患者さんが集まってくる。

「患者さんの地元の病院と連携し、ゼヴァリンの投与はこちらで行いますが、その後の副作用管理はお願いする形をとっています」

ゼヴァリンの投与には、10日間ほどの入院が必要になる。副作用は白血球減少などの血液毒性が主で、口内炎、脱毛、しびれなど、その他の副作用が問題になることは少ない。

「投与後は毎週血液を調べます。場合によっては輸血などが必要になることもありますが、投与後2カ月余りでだいたい回復します」

ゼヴァリンによる治療で長期の完全寛解を得るには、条件のそろった適切な時期に治療する必要がある。時期を逃さないためにも、主治医とよく相談するとよいだろう。


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