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最初にきちんとした治療をしっかりやることがいかに大事か
乳房温存療法――あなたがまだ知らないその真実

監修:神尾孝子 東京女子医科大学第2外科准教授
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2008年7月
更新:2013年4月

  
神尾孝子さん
東京女子医科大学
第2外科准教授の
神尾孝子さん

もはや乳房温存療法を知らない患者さんがいないくらい、今や乳房温存療法は広く一般的になった。 しかし、その内実となると、まだ知らない人が多い。

今回は、乳房温存療法の実態と、術後の治療がいかに大事かにスポットを当て、まとめる。

乳房温存療法ができる条件とは

乳がんの手術では、乳房を温存できるかどうかが、患者さんにとって最初の大きな関門といえるかもしれない。

乳がんとその周囲の乳腺組織だけを取り、女性のシンボルである乳房を残す治療法は、乳房温存療法と呼ばれ、欧米に始まった。わが国には1980年代後半に導入され、今や乳がん治療の大きな柱に成長している。日本乳癌学会の最新の統計によれば、乳房温存手術の数は乳房切除術を超え、50パーセントを超えている。病院によっては、乳房温存手術の割合が8割、9割を誇っているところもあり、マスコミはこういった病院を「いい病院」と持ち上げている。

[乳房温存療法の推移]
図:乳房温存療法の推移

こうした風潮に異論を呈しているのは、東京女子医科大学第2外科准教授の神尾孝子さんだ。

「乳房温存手術の割合の高さだけで病院を評価するというのは、疑問ですね。乳房温存手術の割合は、何を目指すかによって変わってくるからです。私たちも、乳房温存療法自体は積極的に勧めています。ただその内容は、外科的にがんをしっかり取り切ること、そしてそれによって極力再発を抑えるという立場です。それに対して、がんをある程度取り残しても、後は放射線と薬物療法で再発を抑えるという考え方もあり、これだと当然ながら温存率は高くなります」

がんを取り切る手術というのは、切除断端(切除した端)を陰性(がんがない状態)にするということだ。陽性の場合は、追加切除するか、乳房を全摘する。そうすれば、乳房温存手術の割合は下がる。東京女子医大では、手術前の適格な画像診断と、手術後の詳細な病理検査によって、乳房温存手術ができる条件(適応)を厳格に絞り込んでいる。だから乳房温存手術率はそんなに高くない。全国平均よりも低い、35パーセントだ。しかし、そのほうが再発をよりよく抑えられるのだという。

「乳がんは、乳管の壁に発生し、そこから乳管に沿って連続的に広がっていく性質を持っています。この広がり具合をよく見極め、乳房温存手術ができる条件に合うかどうかをしっかり見定めていく必要があります。このうえでがんをしっかり取り切る。そうすれば局所の再発を極力防ぐことができるのです」

乳房温存療法後、どのくらい乳房に再発が起こるかは、一般的には年間1パーセント程度といわれている。だとすれば10年で10パーセント、20年で20パーセント。断端陽性の場合には、10年で14.1~27.4パーセントとの報告もある。けっこう高い数字である。これに対して東京女子医大では、局所再発に関してはほとんどゼロ近くまで抑えられているという。

乳管内にがんが広がっているかどうか

では、その乳房温存手術ができる条件とは、どういうものか。「乳房温存療法ガイドライン」に則ってはいるが、神尾さんの見解はこうだ。

まず、がんの大きさが直径3センチ以下であること。

第2に、乳管内にがんが広がっていないこと。乳がんはしこりとして触れるよりも、広く広がっていることがよくある。

「ただし、がんが乳房の外側にあったり、乳房全体のボリュームが大きい場合はその限りではなく、がんがもっと大きくても乳房温存術が可能な場合もあります。逆に、しこりが非常に小さくても、超音波検査で広い乳管内進展が見つかったり、マンモグラフィなどの画像検査で石灰化(白い粒として見える)が広がっているのが見られる場合は、乳房温存療法の適応にはなりません」

非浸潤がんでは、乳管内に広がっているケースが割合多く見られる。それがある程度の範囲内にとどまっていて取り切れれば、乳房温存療法はできるが、そうでなければ、乳房の全摘が勧められる。非浸潤がんは転移しない乳がんで、ステージ0の早期がんである。折角そうした早期がんを発見できたのに、乳房を全摘しなければならないのは解せないという患者さんもいるようだ。

「しかし、乳房にがんを残して再発すると、もともと非浸潤がんだったのが浸潤がんになり命に関わるリスクを負ってしまう場合もあります。それを避けるために、しっかりがんを取る必要があるのです」

写真:超音波でとらえられた早期の微小乳がん(0.5cm)
超音波でとらえられた早期の微小乳がん(0.5cm)
写真:しこりがなく、石灰化が発見された乳がん

しこりがなく、石灰化が発見された乳がん(矢印の部分が石灰化)


脚光を浴びている術前化学療法は?

では、がんが大きく広がっている場合は、乳房の温存をあきらめなければならないのだろうか。最近では、そうした場合も、術前化学療法といって、大きながんを抗がん剤で縮小させ、手術できるまで小さくなった時点で乳房温存手術をするという方法がすでに実施されて脚光を浴びているが、神尾さんはそれには否定的だ。

「確かに化学療法でがんは小さくなることが多いのですが、薬が効いたと思われる部分にがんがパラパラと残るケースもしばしばみられるのです。抗がん剤に感受性のないがんが残る、つまり、再発の種を残すことになってしまいます。これまでのデータによると局所再発率は2.7~45パーセント(48~124カ月)であり、長期の観察では、かなり高い再発率の報告もみられます。予後に関してもまだしっかりしたデータはなく、現状ではお勧めしていません」

適応条件の第3に、がんが多発していないこと。

「ただし、がんが近くに2個あるような場合なら、温存手術の適応があります。これに対して2個のがんが遠くに離れていたり、3個以上多発している場合は、温存手術は避けるべきです」

第4に、放射線治療が可能なこと。

第5に、患者さんが希望していること。

そしてもう1つ付け加えるなら、ガイドラインでは、乳がんの生じた場所に関係なく、乳房温存療法ができるとしているが、神尾さんによれば、がんが乳頭直下にある場合や乳頭まで乳管内進展がみられる場合は、避けるべきだという。

「乳頭直下のがんは乳頭の中にがんが入り込んでいることが多く、乳頭を残すと、放射線をかけても、後に乳頭から再発してくることがあるからです」

さらに高度のリンパ管侵襲やリンパ節転移も再発、とくに炎症性乳がん型再発のリスク因子となるため注意が必要であるという。

このように、局所の再発を極力抑えるという観点から、乳房温存療法の適応を絞り込んでいった結果が温存率35パーセントになったというわけだ。

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