温存手術後の乳房のアンバランスに悩む患者さんに朗報
美しい乳房のシルエットを実現する乳房温存手術用補整下着

取材・文:吉田燿子
発行:2010年7月
更新:2013年4月

  

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近年は、乳がん患者向けの補整用下着の品ぞろえも充実してきた。だが、こうした下着は「全摘手術用」と思われがちで、乳房温存手術後の患者のための商品があることは意外に知られていない。

そんななか、乳房温存手術用のアイテム開発に力を入れているのが、補整用下着の開発・販売を手がけるワコールのリマンマ事業課だ。アドバイザーの岩本法子さんはこう語る。

「以前は、お客様の状態に合わせて、比較的サイズが小さめの全摘用パッドを使用するなど、アドバイザーが工夫しながら補整のご提案をしていました。でも、この方法では、お客様がご自宅に戻ったときに使いこなせるとはかぎらない。お客様のわずらわしさを解消する意味でも、お1人おひとりの状態に合ったものをご提案できないか――リマンマの温存用下着は、そんな思いから生まれたのです」

温存手術の部位や範囲により8タイプに分類

1974年の事業開始以来、リマンマ製品のユーザーは延べ18万人に上る。同社では来社されたお客様の、温存手術後の乳房の状態を細かく分析。手術部位や切除範囲によって8つのタイプに分け、タイプごとに利用できる商品ラインナップを取り揃えている。

同社の温存用下着のなかでも最も汎用性が高いのが、「リマンマブラジャー」だ。これは、カップ部分の裏側に大きなポケットがあり、補整用パッドが入れられるのが特徴。市販のブラジャーより肩ひもや脇の幅などを広くし、しっかりしたホールド感を実現。肌への刺激を避けるため、ワイヤーのないタイプが中心なので、術後や放射線治療中で肌が敏感な患者さんも、安心して使うことができる。また、ソフトワイヤーをカップの表側に付け、肌への刺激を和らげたワイヤータイプもある。

「最近は温存手術の前に化学療法を行うケースが増え、手術による摘出部分も小さくなる傾向にあります。リマンマブラジャーにはカップ部分に厚みのある不織布を使用しているタイプもあるので、左右差が小さい場合は、パッドを入れずにそのまま使うだけでも左右差が目立たなくなります」(リマンマ事業課課長・北川雅博さん)

発泡ビーズを必要な量だけカップ部分に注入・補整

写真:アジャストボリュームブラ
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カップにビーズを注入することで補整が必要な部分のボリュームアップができるアジャストボリュームブラ(税込6,615~7,140円)

同社の温存向け商品のなかでも中核商品といえるのが、「アジャストボリュームブラ」だ。これは、ブラジャーのカップ裏の袋状になった部分にノズルで発泡ビーズの粒を注入し、補整が必要な部分のボリューム増加を図るしくみだ。購入にあたっては実際に試着し、左右のバランスを見ながらビーズの量を調節していく。1人ひとりのバストの状態に合わせて細かくフィットさせることができるので、まさにオーダーメイド感覚で使用することができるのだ。

「アジャストボリュームブラを使ってみたら、手術した部分にビーズがうまく収まり、胸のシルエットもきれいになりました」

「パッドと組み合わせる必要がなく、ブラジャー1枚で事が足りるので、とても便利ですね」

と、実際に使用した乳がん患者さんは感想を語る。

補整に使う発泡ビーズはポリスチレン製。微細かつ軽量で、柔らかくなじみやすいのが特徴だ。購入後のビーズの補充や入れ替えも、リマンマルームや相談会に持参すれば無料でやってもらえる。アフターケアも万全なので、安心して使うことができる。

「アジャストボリュームブラを購入後、少し太ったので、ビーズのボリュームが足りなくなってきたんです。それでリマンマルームに相談したところ、ビーズを無料で補充してもらえたので、とても助かりました」

「“世界に1つしかない私だけのブラジャー”という感じで、とても気に入っています」

など、使用した多くの患者さんから喜びの声が寄せられている。

「このアジャストボリュームブラは、お1人おひとりの左右差に合わせて細かく調整できる点に、最大の特徴があります。ブラジャーだけで補整できるので、パッド類は不要。既製の補整用パッドの形が合わない方や、パッドがずれて不便な思いをしている方に、ぜひ試していただきたいですね」(北川さん)

この他、発泡ビーズを使った「ビーズパッド」も近々販売される予定だ。

「ビーズパッドは、ビーズでブラジャーの形やボリュームを手軽に整えられるから、手術前に使っていたお気に入りのブラジャーがそのまま使えて、嬉しいです」とは、開発に協力した患者さんの声だ。

写真:ビーズパッド
写真:ビーズ


ビーズパッドは直径の大きさやビーズの量が違う4サイズを用意。補整したい形に自分で整えて、手術前に使っていたブラジャーでも使える(左) 補整に使う発泡ビーズ。微細かつ軽量のポリスチレン製(右)

摘出量が多い人向けの温存用シリコンパッド

写真:RP241
写真:アモエナ・バランスRP271

アモエナ・バランスRP271(下)、RP241(上)。乳房に近い重さや柔らかさをもつシリコンパッド。RP241は手術部位が小さい場合に向いている

ところで、温存手術と一口に言っても、その治療方法はさまざまである。手術による摘出量が多くなればなるほど、左右の乳房のバランスの差も大きくなりがちだ。そんな場合にお薦めなのが、リマンマのシリコンパッドである。これは乳房に近い重さや柔らかさがあるのが特徴。人体に近い感触や形状が得られるだけでなく、適度な重みが得られることもメリットの1つである。

一方、手術部位の大きさが比較的小さい方にお薦めなのが、「アモエナ・バランス RP241」。こちらはサイズが小さめなので、手術部位が小さい場合の補整に向いている。逆に、摘出量が多く摘出範囲も広い場合は、本来は全摘用のパッドであるが「アモエナ・エッセンシャル RP363」「同 RP367」が適している。このパッドは適度なボリュームと重みを持つため、左右のバランスを保ちやすいというメリットがある。

このシリコンパッドは、サイズや厚みによって複数のタイプが揃う。薄型シリコンパッド「アモエナ・バランス RP271」は、パッド全体が薄めなので、温存手術後の補整に最適。また、バスト全体を覆うデザインなので、補整後は滑らかな胸のシルエットが実現できる。

「RP271」を購入した2人の患者さんは、その使用感についてこう語る。

「今まで使っていた市販のパッドだと、軽いためか左右のバランスが取りにくく、ブラジャーがずれてしまうのが悩みの種でした。でも『RP271』は重みがあるので、ずれにくく、左右のバランスも取りやすくなりました」

「私の場合、ウレタン製のバストパッドではボリューム感が足りず、かといって、全摘用のパッドだと厚みが出すぎるんですね。その点、この製品は適度な厚みと柔らかさがある。おかげさまで、自然なシルエットを手に入れることができました」

図:アモエナ・バランスRP271
アモエナ・バランスRP271はパッドは薄めだがバスト全体を覆うデザインなので滑らかな胸のシルエットが実現できる

ファッション性の高い下着を提供していきたい

これ以外にも、患者のニーズに合わせてさまざまなアイテムを提供。ウレタンフォーム素材の「バストパッド」は、一般のブラジャーでも使用することができ、左右差が小さい人の補整用に適している。また、他のパッドと組み合わせれば、バストラインの自然な丸みを出すのにも役立つ。

「温存手術をされた患者さんの状態は千差万別です。患者さんのニーズに合った多様な商品を取り揃え、カウンセリングで各々のメリットとデメリットも伝えながら、その方にとってベストな商品をお薦めできるよう心掛けています」(岩本さん)

来年には、夏向きのブラジャーの発売も予定している。パッドを使用している患者さんのなかには、夏場のムレに悩む人も少なくない。こうした患者さんの悩みに応え、通気性をよくしたムレにくい商品を目下、開発中だという。

「今後もつけごこち、快適性、シルエットの3点に常に配慮し、お客様のニーズにピンポイントにお応えできる商品をご提案していきたいですね」と北川さん。最後にこう抱負を語ってくれた。

「今春からリマンマでは一部のブラジャーにペアショーツも初めて登場し、スリップやキャミソール(市販)と組み合わせて下着のコーディネートも楽しめるようになりました。補整機能を重視するのはもちろんですが、それだけでなく、女性らしい下着選びの楽しみも味わっていただきたい。

ワコールならではのファッション性が高い術後用ブラジャーを、きめ細かく提供していきたいと考えています」


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