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ASCO2006 大腸がん編 次々に出てくる新しい大腸がんの化学療法。が、副作用や経済的問題点も

監修:久保田哲朗 慶應義塾大学包括先進医療センター教授
取材・文:松沢実
発行:2006年8月
更新:2019年7月

  
久保田哲朗さん 慶應義塾大学
包括先進医療センター教授の
久保田哲朗さん

2006年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)における消化器がん分野の報告では、前年に引き続き、進行・再発大腸がんの化学療法でめざましい成果が発表された。しかし、一方では、副作用や医療経済面での問題点も明らかにされた。慶應義塾大学病院教授の久保田哲朗さんに消化器がんの最新の治療法とその動向についてうかがった。


奏効率60%の時代。しかし、生存期間の延長では伸び悩み

注目の分子標的薬や新しい治療法

写真:ASCO2006会場

今年のASCOで発表された消化器がんに対する新たな治療法の中でもっとも注目されたのは、進行・再発大腸がんの化学療法である。現在の標準治療となっているFOLFOX療法に、新しい分子標的治療薬アービタックス(一般名セツキシマブ)を加えた多剤併用療法や、FOLFIRI療法(カンプトまたはトポテシン+5-FU+アイソボリン)にさらにエルプラット(一般名オキサリプラチン)を加えた新しいFOLFOXIRI療法などの優れた治療成績が発表され、最近めざましい発展を遂げている大腸がん化学療法において一里塚を築いた。

アービタックスとは、がん細胞の表面に顔を出している上皮成長因子受容体(EGFR)と呼ばれるタンパク質を抗原として狙い撃つ抗体医薬だ。EGFRは血液中の上皮成長因子と結合してがん細胞に「増殖せよ」との指示を出すが、アービタックスはその前にEGFRと結合してがん細胞の増殖を止める作用がある。

「今回のASCOでは進行・再発大腸がんに対して、FOLFOX療法(エルプラット+5-FU+アイソボリン)にアービタックスを加えた多剤併用療法の治療成績が3つの報告によって明らかにされ、いずれも奏効率は60数パーセントという優れた治療成績だったことが報告されました」

と慶應義塾大学病院包括先進医療センター教授の久保田哲朗さんは語る。

[FOLFOX+アービタックス療法の奏効率]
図:FOLFOX+アービタックス療法の奏効率

FOLFOX+アービタックスの奏効率60%

ご存じのように、かつては進行・再発大腸がんに対する抗がん剤は5-FUしかなかった。が、1980年代後半から5-FUの効果を高めるロイコボリンと5-FUの併用療法が始まった。90年代前半にはイリノテカン(商品名カンプト、トポテシン)、90年代後半にはエルプラットが登場し、従来の5-FU+ロイコボリンにカンプトやトポテシン、あるいはエルプラットを加えた多剤併用療法が試みられるようになった。

5-FU単独の奏効率は約10パーセントにとどまっていたが、5-FU+ロイコボリン併用療法は約25パーセント、5-FUの持続静注は約35パーセントへと向上した。さらにFOLFIRI療法とFOLFOX療法は約50パーセントに達し、両者にアービタックスを加えたところ60パーセントというかつてない高い奏効率を示したのである。

[大腸がんの化学療法での奏効率の進歩]
図:大腸がんの化学療法での奏効率の進歩

「実は、昨年のASCOでFOLFOX療法にアービタックスを加えた多剤併用療法が、81パーセントという驚異的な奏効率を示した報告が発表されました。しかし、追跡調査をしていくと治療成績が落ちていくのが一般的なパターンで、今回の3つの報告を見るとFOLFOX療法+アービタックスの併用療法の奏効率は60パーセント前後で落ち着くのではないかと考えられます」(久保田さん)

[FLFOX4+アービタックスの効果]

EGFRを標的としたIgG1モノクローナル抗体
EGFR陽性、切除不能転移性結腸直腸がん、前治療なし43例
PDとなるか容認できない副作用が出現するまで継続
評価可能42例
CR(完全寛解) 4例 10% PR:81% 病状コントロール
98%
PR(部分寛解) 30例 71%
SD(安定) 7例 17%
PD(憎悪) 1例 2%
アービタックス〔400mg/㎡(2h)1x/w、その後250mg/㎡(1h)weekly〕FOLFOX4併用

アバスチンとアービタックスは米国の標準薬に

進行・再発大腸がんに効く分子標的治療薬としては、アービタックスのほかにアバスチン(一般名ベバシズマブ)がある。昨年のASCOで発表されたE3200と呼ばれる無作為化比較試験で、FOLFOX療法にアバスチンを加えた患者グループの生存期間中央値(生存期間順に並べたうちの中央の人の生存期間)が12.9カ月で、FOLFOX療法の10.8カ月より2カ月も上回っていたことで大きな注目を集めたのはまだ記憶に新しい。

アバスチンはがん細胞が分泌する血管内皮増殖因子(VEGF)を抗原として狙い撃つ抗体医薬だ。がん細胞はVEGFを周囲の血管に放出して呼び寄せ、新たな血管=栄養補給路をつくって自己増殖していく。しかし、アバスチンはVEGFと結合してその働きを失わせ、がん細胞の増殖を止めてしまう。

進行・再発大腸がんに治療を行わない場合の生存期間は4~6カ月だが、5-FUの単独投与による治療で10~12カ月、5-FUの持続静注で生存期間が17.4カ月、5-FU+ロイコボリンの併用療法で生存期間が19.4カ月に延びる。そして、FOLFOX療法やFOLFIRI療法は21.5カ月へと延ばしてきたが、FOLFOX療法にアバスチンを加えた多剤併用療法はさらにそれを上回る生存期間の延長(20.7~27カ月)を可能とする道を切り拓いた。

[5-FUをベースにした化学療法による生存期間の進歩]
図:5-FUをベースにした化学療法による生存期間の進歩

もっとも、先述したように、奏効率が大きな飛躍を見せているのに比べ、生存期間の延長は延びてはいるが、最近ちょっと頭打ち気味になっていることが気がかりなところだ。奏効率の高さが必ずしも生存期間の延長に結びついていないようなのだ。今後は、この頭打ち状態をいかに打破するかが化学療法の課題である。

「とはいえ、いまや進行・再発大腸がんの治療にアバスチンやアービタックスを使用するのは標準的治療法として確立され、米国NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインではすべての大腸がんの化学療法にかならずどちらかの分子標的治療薬が含まれています」(久保田さん)

日本では来春にアバスチンが厚生労働省から承認されると予想されており、アービタックスについても早期承認に向けての動きが期待されている。


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