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あきらめることはない!大腸がんの再発治療

監修:畠 清彦 癌研究会付属病院化学療法科部長
水沼信之 癌研究会付属病院化学療法科医局長
取材・文:菊池憲一
発行:2004年11月
更新:2019年3月

  
畠清彦さん 癌研究会付属病院
化学療法科部長の
畠清彦さん
水沼信之さん 癌研究会付属病院
化学療法科医局長の
水沼信之さん

大腸がんは早期に発見し、手術すれば根治も可能で、比較的治りやすいがんといえる。

その一方で再発する患者も少なくない。再発をきたし、手術で病巣を取れない場合は、放射線や抗がん剤治療などを行う。

一昔前には、大腸がんが再発した場合の予後は厳しいものであるとされてきたが、抗がん剤治療は日進月歩で進化し効果は飛躍的に向上した。最近登場した分子標的薬なども話題となっている。

再発大腸がん治療の今を癌研究会付属病院で聞いた。

再発がん治療に力を注ぐ癌研究会付属病院

癌研究会付属病院化学療法科の外来治療センターには毎日120人以上のがん患者が訪れる。大半は再発がんの患者で占められ、北海道、九州などの遠方から訪れるがん患者も1日数人はいる。120人以上のがん患者のうち、約70人は25台のリクライニングチェアーで横になりながら抗がん剤の点滴治療を受ける。時間は1~3時間。備え付けのポータブルテレビを楽しみながら治療を受けることができる。

Aさん(66歳・女性)も外来治療センターで治療中の再発がん患者の一人だ。2000年10月、近所のM病院で腸閉塞の開腹手術を受けた際に、大腸がんと診断された。術後はテガフール・ウラシル(商品名UFT)の服用を続けた。しかし、2001年11月、肝転移、肺転移が見つかった。Aさんは呆然とした。『大腸がんで再発したらもうアウト。再発大腸がんに有効な抗がん剤はない。効果的な治療法もない』と思っていたからだ。M病院には再発治療に精通した腫瘍内科医はいなかった。Aさんは腫瘍内科医のいる病院を探し求めていた。

知人から「癌研なら再発がん治療をしてもらえるらしい」と聞いて、2002年2月、初めて外来治療センターを受診した。Aさんは、外来治療センターの腫瘍内科医からいくつかの化学療法の説明を受けた。そして、イリノテカン(商品名トポテシンもしくはカンプト)の少量分割治療(当時、治験中)を選択した。同年3月から週2回、外来治療センターに通院し、1回1時間ほどの点滴治療を受け続けた。

外来治療センターでは化学療法科部長の畠清彦さん、医局長の水沼信之さんを含め合計8人の腫瘍内科医が治療にあたる。処方・投薬ミスがないように、処方医の記載を確認医(他の医師)がチェックする。さらに、専属の薬剤師がチェックし、無菌室で薬剤師が抗がん剤をつめる際も投与量などの確認を行う。最後に、外来患者に対応する看護師がチェックする。4人のプロのチェックを経て、がん患者に抗がん剤が安全に投与される。

[治療前]
CT写真:治療前
[治療後]
CT写真:治療後
CTで肺転移巣の縮小を認める

「もし、投与前にミスが発見された場合、ミスしたスタッフはレポートの提出が義務付けられ、月1回の安全評価委員会に報告されます。安全のために厳しいシステムが確立されています」と水沼さん。

Aさんの場合、治療開始時の腫瘍マーカー(CA19-9値)は53.9だったが、4カ月間の治療で4.7に低下した。その後も腫瘍マーカーは低い値を維持し、肝転移、肺転移も著しく縮小した。幸い、治療中、抗がん剤による副作用はほとんどなかった。化学療法を始めてから1年後、イリノテカンに耐性が生じたため、イリノテカン以外の抗がん剤を使い始めた。

Aさんは、再発時、「余命1年以内」と宣告された。しかし、再発してから3年近く、化学療法を始めてから2年半が経過した現在も元気で、ご主人と一緒に海外旅行を楽しむほどである。

「Aさんの受けた再発治療は、現在では第一選択の抗がん剤治療とは言えません。それでも、抗がん剤治療は有効でした。最近、欧米先進国では再発大腸がんに対して新しい抗がん剤や分子標的薬が次々に承認されて、使われています。近々日本でも、Aさんが受けた再発治療より有効率も延命効果も高い化学療法が受けられるようになると思います。再発してもあきらめないでほしい」と水沼さん。

新薬の登場で効果が飛躍的に向上

従来、化学療法は再発大腸がんに対してあまり有効ではなかった。「再発・進行がんに対するがん薬物療法の有効性の分類」(国立がん研究センター中央病院内科)では、いろいろながんをAグループ(治癒が期待できる)、Bグループ(延命が期待できる)、Cグループ(症状の緩和が期待できる)、Dグループ(効果の期待が少ない)の4つに分けている。

大腸がんはCグループに入り、がん薬物療法単独では治癒が得られないがんで、延命効果は得られるが、その割合はBグループに比べると少なくなり、症状緩和、QOL(生活の質)改善も重要な治療目標となる―とされている。

実際、これまでは、再発大腸がんに化学療法を行っても有効率は20パーセントほどで、生存期間も化学療法をやらない無治療群に比べると、5~6カ月延びる程度だった。

しかし、最近、欧米先進国では新しい抗がん剤や分子標的薬が使用され始めて、有効率と延命効果が飛躍的に向上した。世界的には再発大腸がんはCグループからBグループにランクアップし、化学療法で延命が期待できるようになりつつある。現在、再発大腸がんの化学療法は、革命的な事態が進行中なのだ。

劇的な効果をもたらす3つの薬剤

再発大腸がんの化学療法で革命的な役割を発揮しているのは、次の3つの薬である。

(1) オキサリプラチン(予定商品名エルプラチン)=2004年1月、米国で結腸または直腸の転移性がんの第一選択の治療薬として販売承認された。日本でも今年末から来春までに承認される見込み。オキサリプラチン単独投与の治療成績は、1年生存率43パーセント、治療開始から半数の患者が死亡するまでの期間(生存期間中央値。MST)は338日(11カ月)だ。白金系抗がん剤である。

(2) ベバシズマブ(商品名アバスチン)=2004年2月、米国食品医薬品局(FDA)がフルオロウラシル系の化学療法との併用で、転移性大腸がん患者の第一選択の治療薬として承認した。遺伝子組み換えヒト化モノクローナル抗体で、がん組織から分泌される血管内皮増殖因子(VEGF)を標的にする分子標的治療薬。VEGFと結合して腫瘍の血管新生を防ぐ血管新生阻害剤である。

再発大腸がんの患者を対象に、ベバシズマブを投与した場合としない場合で治療効果を比較したところ、投与した場合のほうが生存期間が4カ月も延びて20カ月に達したという臨床試験がある。日本は未承認。

(3) セツキシマブ(商品名エルビタックス)=2004年2月、FDAが体の他の部分に転移した進行した直腸、結腸がん患者の治療薬として認可した。モノクローナル抗体で、がん細胞の表面にある上皮成長因子受容体(EGFR)と呼ばれるたんぱく質をターゲットにする分子標的治療薬で、EGFRと結合して腫瘍の増殖を抑えると考えられている。セツキシマブとイリノテカンの併用療法で患者の22.9パーセントで腫瘍が縮小し、約4.1カ月腫瘍の成長を遅らせたというデータがある。日本は未承認。


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