がんとの共存生活を支える新薬など登場
分子標的薬が変える腎がんの治療地図
北海道大学大学院
医学研究科准教授の
篠原信雄さん
2008年4月から転移性腎がんに新しい分子標的薬が使えるようになった。
インターフェロンなどのサイトカイン治療が効かなくなると、もはや打つ手がなかったこのがんに希望の灯がともった。
副作用も比較的穏和で、がんと共存しながらも、普通の生活を送れる。その新薬がネクサバールだ。
サイトカインが効かなくなった患者さんを救う新しい薬
2008年4月から、腎がんの治療に新しい薬が使われるようになっている。期待されて登場してきたのは、分子標的薬のネクサバール(一般名ソラフェニブ)である。腎がんの治療薬としては、日本で承認された最初の分子標的薬だった。
新しい薬の登場は、腎がん治療に変化をもたらすことになった。腎がんの根治的治療法は手術だが、根治手術ができない場合や、すでに転移がある場合、これまではインターフェロンやインターロイキン2によるサイトカイン(免疫)治療が広く行われていた。そこに分子標的薬が加わることになったのだ。
北海道大学大学院准教授の篠原信雄さんは、分子標的薬の登場を次のように評価している。
「インターフェロンなどによる治療は、それなりの効果をあげてきましたが、効果が持続する期間にはどうしても限度がありました。そして、インターフェロンなどが効かなくなってしまったら、もう打つ手がなかったのです。
ところが、ネクサバールのような新しい薬が登場してきたことで、1つの武器がだめになっても、まだ戦う武器が残っているという新しい状況が生まれてきました。当然、効果が持続している期間も長くなります。ここが新しい薬が登場したことで変わった最大のポイントです」
ネクサバールは内服薬で、副作用が比較的穏やかだと言われている(副作用について詳しくは後述)。そのため、日常の生活を送りながら、腎がん治療を続けることも可能なのだ。
インターフェロンが効かなくなった患者さんにもソラフェニブは効果を示した
普通の生活を送りながらがんとの延長戦に
従来なら、インターフェロンなどの治療を受け、それが効かなくなったところで、がんとの戦いには決着がついてしまっていた。しかし、ネクサバールが登場したことによって、腎がんとの戦いは、そこから延長戦に突入することになったのだ。
延長戦で行われる治療が、副作用による強い苦痛を伴うものなら、たとえ期間が延長しても、患者さんにもたらされる恩恵は必ずしも大きくはないだろう。しかし、ネクサバールは副作用が比較的軽く、QOL(生活の質)を低下させずに維持することができる。そのため、患者さんは普通の生活を送りながら、がんとの延長戦に挑むことができる。
実際、臨床試験の段階からこの治療を受けている患者さんの中には、先のサイトカイン治療が効かなくなった後に、このネクサバールに切り替えてすでに2年以上経過している患者さんもいる。
腎がんの分子標的薬としては、スーテント(一般名スニチニブ)も新たに承認され、いよいよ治療の現場で使えるようになる。延長戦を戦うための武器が、また1つ増えたことになると考えればいいだろう。
細胞の増殖を抑え血管新生を阻害する
ネクサバールの標的は、大きく2つに分類することができる。1つは、がん細胞の増殖に関わるシグナルの伝達経路だ。そこを遮断する働きを持っているので、がん細胞の増殖が抑制されることになる。
もう1つの標的は血管新生を促す因子で、この働きを阻害することにより、血管新生が起こらないようにしている。がんは自分が増殖するために、酸素や栄養を運んでくる血管を作る指令を出すのだが、その指令が伝わらないようにして、血管新生を防いでいるのだ。血管新生が起こらなければ、十分な酸素と栄養が提供されないため、がんは大きくなることができなくなる。
腎がんの治療に大きな変化をもたらした分子標的薬だが、この薬だけで腎がんの治療ができるようになったわけではない。そこを勘違いしないように、と篠原さんは指摘する。
「新しい分子標的薬が登場すると、あたかも“魔法の薬”のように表現するマスコミがありますが、それは違います。その薬だけですべてが解決するわけではありませんし、腎がんの治療にはこの薬しかない、というわけでもありませんからね」
これまでにも“魔法の薬”のように紹介された薬は少なくない。デビューしたばかりの新薬を、正しい治療につなげるためには、正確な情報が提供される必要があるはずだ。
- 対象:腎細胞がんの患者さんのうち、手術ができない患者さんや、転移がある患者さん
- 服用方法:1回2錠(400mg)を、1日2回計4錠服用。食前・食後を問わない。十分な水(またはぬるま湯)と一緒に服用して下さい
- 飲み忘れたときは、次回まで待って、1回分のみ服用して下さい。2回分まとめて飲まないように
- 飲む量を間違えたら、すぐに医師、看護師、薬剤師に連絡して下さい
- 他に使用しているお薬がある場合や他の病気を治療している場合は、医師、看護師、薬剤師に伝え下さい
- 服用によりアレルギー症状があらわれたり、なにかおかしいと感じた場合は、医師、看護師、薬剤師に伝え下さい
- 胎児に影響を与えるおそれがあるので、女性の患者さんは、妊娠しないよう十分気をつけて下さい
- 投与初期に高血圧、消化酵素上昇、手足症候群がみられるので、自覚したら医師に相談してください
- 高血圧:家庭血圧計で毎朝計測してください
- 腹痛など感じたら医師に相談を
- 手のひら、足の裏など異常が見られたら医師に相談、常に清潔にし、ハンドクリームなどを塗布してください
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