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肝臓がん治療のベストチョイス
早期がんのベスト治療は手術か、ラジオ波焼灼療法か!?

監修:高山忠利 日本大学医学部消化器外科教授
取材・文:常蔭純一
発行:2008年5月
更新:2019年7月

  
高山忠利さん
日本大学医学部
消化器外科教授の
高山忠利さん

肝臓がんに対する治療法は実にさまざまある。このように、選択肢がたくさんあることは、患者さんにとってはうれしいが、反面、悩むところでもある。そのなかで、どの治療法がベストなのかを探ってみた。

再発、転移しやすいがん

[切除した肝がん]
写真:切除した肝がん

肝臓がんの治療法は多様だ。

比較的、症状が軽い場合を見ても、手術、エタノール注入療法、さらに最近ではラジオ波焼灼療法などの選択肢があるし、症状が重くなった場合にも肝動脈塞栓療法、肝動脈注入化学療法(肝動注)、また場合によっては肝移植という治療手段もある。そうしたなかで自らのがんには、どんな治療がもっともふさわしいのか。肝臓がんの治療法の選択には、がんの進行とは別に、もともとの肝機能の状態についても、把握しておく必要がある。

「肝臓がんはほとんどの場合B型肝炎、C型肝炎ウイルスなどによる慢性肝炎、さらにそれらが悪化して生じた肝硬変が原因して起こっています。肝臓がんはもともと再発、転移しやすいがんですが、これらの病気が進行し、肝機能が低下している人ほど、再発しやすいことも分かっています。そのことを考えると、肝機能の状態も、当然、治療法を選択するうえでの重要なファクターとなるのです」

と、指摘するのは手術による肝臓がん治療の第一人者、日本大学医学部消化器外科教授の高山忠利さんである。高山さんは同じ肝臓がん治療の専門家と協同して、『肝癌診療ガイドライン』を作成してもいる。そのガイドラインに沿って、各治療の特長、対象となる肝臓がんの範囲を見てみよう。

[肝機能の重症度分類(Child-Pugh分類)]

臨床所見・生化学検査 危険増大に関する点数
1 2 3
血清ビリルビン値(mg/dL) 1~2 2~3 >3
血清アルブミン値(g/dL) >3.5 2.8~3.5 <2.8
腹水 なし 軽度 中程度
脳症 なし 1~2 3~4
プロトロンビン時間(秒延長) 1~4 4~6 >6
(%) >80 50~80 <50
各項目の点数の合計で病期を判定(グレードA=5~6点、グレードB=7~9点、グレードC=10~15点)
Pugh RNH,et al.Br. J.Surg.,60,646-649,1973を一部改訂

[肝細胞がん患者の肝障害度]

項目 肝障害度
A B C
腹水 ない 治療効果あり 治療効果少ない
血清ビリルビン値(mg/dL) 2.0未満 2.0~3.0 3.0超
血清アルブミン値(g/dL) 3.5超 3.0~3.5 3.0未満
ICG R15(%) 15未満 15~40 40超
プロトロンビン時間(%) 80超 50~80 50未満
2項目以上の項目に該当した肝障害度が2カ所に生じる場合には高いほうの障害度をとる

精度が飛躍的に向上した肝臓がん手術

手術

[肝がんの区域切除術]
図:肝がんの区域切除術

胃がんや大腸がんなど他の消化器がんに比べると、肝臓がんの外科治療の歴史はきわめて浅い。たとえば胃がん手術の場合には150年の歴史があるが、肝臓がんのそれは60年ほどにすぎない。それは肝臓がん手術の難しさを物語っていると高山さんはいう。

「肝臓がんは発見された時点で、すでにかなり進行していることが多いことに加え、肝臓そのものが血液の塊りのような臓器で、手術には大量出血の危険がともないます。そのために手術は現実の治療法として定着せず、手術が始められてからも、なかなか成績は上がりませんでした。それが1985年に肝臓を8ブロックに分けて、それぞれの部分だけを切除する区域切除術が行われるようになって、治療成績は飛躍的に向上したのです」

これは当時、国立がん研究センターに在籍していた幕内雅敏さんが考案したもので、幕内術式とも呼ばれる。この区域切除術が定着してからは、それまでは5~6000ccにも達していた出血量が平均1000cc程度に減少し、手術による死亡率も80年代で15パーセント、90年代で5パーセント、現在では1パーセント前後にまで減少している。高山さんが在籍している日本大学付属板橋病院消化器外科では、手術にともなう平均出血量は、献血量と同程度の400cc前後で、この数年間は手術による死亡は0に抑えられているという。

手術が占める割合は30%

ちなみに肝臓がんは、がんの進行度や肝機能の状態によって治療内容が変わるため、単純な比較はできないが、参考として過去のデータから治療後の5年生存率をみると手術の55パーセントが最も高い。とはいえ当然ながら、手術が適応されるのは、一部の症例に限られる。肝臓がん治療の中で手術が占める割合は約30パーセントといったところだ。では、どんながんに手術が適応されるのか。

「肝臓の障害度は、A、B、Cと3つのレベルに区分されます。これはビリルビンの値を含め5種類のデータを計算したうえで分類されますが、わかりやすくいえばAが慢性肝炎か軽度の肝硬変、Bが中程度の肝硬変、Cが重度の肝硬変を患っている状態と考えればいいでしょう。そのなかで手術が適応されるのは、A、Bの段階に限られます。肝障害がA、Bの段階で単発のがんの場合は、完全にがんを取りきれる手術がベストチョイスになります。また、がんが複数であってもがんの大きさが3センチまでで3個以内の場合は、障害度がAであればやはり手術がもっとも好ましい治療法と考えられます」(高山さん)

現実にはこの基準がクリアされていない場合でも手術が行われることもある。しかしがんの個数が4個以上の場合には、がんが血管内などに入り込んでいる可能性が高く、手術を行っても再発・転移の危険がつきまとう。手術はもっとも確実ながんの治療法といえそうだが、それはもともとの肝機能やがんの個数、大きさなどの条件が満たされている場合に限られることを知っておく必要があるだろう。


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