手術、肝動脈塞栓術、化学療法……、ベストな治療を選びたい!
あきらめないで闘い続ける再発肝がんの治療
「再発肝がんの治療は
集学的治療が大切」と語る
野見武男さん
肝がんの再発率は高い。とはいえ、手術で再切除が可能なら、根治を目指せるし、切除できない場合でも、肝動脈塞栓術、ラジオ波焼灼療法など、さまざまな治療がある。
がんの状態や肝機能に応じて、適切な治療を選んでいくことが大切だ。
再発と闘い続けるのが肝がん治療
肝細胞がん(以下、肝がん)は初めての治療で肝切除をした後、2年のうちに4~5割、5年で7~8割の患者さんが再発する。再発率が非常に高く、再発した患者さんのうち、9割以上が肝臓以外の臓器への転移が少ないことも特徴だ(図1)。
この理由を奈良県立医科大学消化器・総合外科助教の野見武男さんは次のように説明する。
「肝がんの原因は、B型、C型肝炎ウイルス、アルコール多飲等であり、肝臓がある程度傷んだ段階でがんが出てきます。こうした状態の肝臓は、あちこちに肝がんの芽のようなものがあります。そのため、がんの切除手術によって腫瘍部分を取り除いても、別の場所にあるがんの芽が出てきて、肝臓の中で何回も再発するのです」
さまざまな再発時治療で治癒に近い状態に
- 肝切除術
- 肝動脈化学塞栓術
- 肝動注化学療法
- ラジオ波焼灼療法
- 経皮的エタノール注入療法
- 化学療法
- 放射線治療 etc.
ただ、たとえ再発を繰り返したとしても、治療には肝切除術や肝動脈塞栓療法、局所穿刺療法、化学療法といった方法があり、がんの個数、肝機能などを考慮のうえ、最適な治療法を選択することが可能です(表2)。
「再発率が高いのにもかかわらず、肝がんの生存率は5年で65%程度と、比較的良好です。つまり、再発時に治療をしっかり行えば治癒または治癒に近い状態を得られるのです。肝がん治療は再発と闘い続けること。あきらめないことです」と野見さんは強調する。
可能ならば切除が第1選択
再発肝がんの治療はエビデンス(科学的根拠)に乏しい場合が多いですが、おおむね初めての治療に準じて行います(図1参照)。
再発の場合でも、切除が最も治療成績が良好である。腫瘍数が3個以下で肝臓以外への転移がなく、肝機能が良く保たれている患者さんでは、まず再切除術が選択される(図3)。これは初発の場合と同じだ。野見さんは、「この条件に合致する患者さんが再切除術を受ければ、初回肝切除とほぼ同等の効果が得られます」と話す。
再発時期も再切除の治療成績を左右する要素だ。再発までの期間が短い場合より、術後2年目以降の再発のほうが再切除の成績が良い。この差は再発形式の違いによる。
肝がんの再発形式には2種類ある。1つは、肝臓内に新しくがんが発生するもので、「多中心性発生」と呼ばれる再発形式だ。一方、もともとのがんが進行して肝臓内に転移するのを「肝内転移」という。
「術後2年以内の再発は肝内転移であることが多いです。一方、2年以降になると多中心性発生が増えると言われています。両者の見極めは困難ですが、2年以降に出てくる場合は新たながんと考えて、初発と同じく肝切除で良い成績が得られるわけです」(図4)
手術では肝機能をなるべく残す
具体的な手術の方法は、大きく分けて2つだ。「系統的肝切除」という肝臓を区分けしてその区域ごとに大きく切除するものと、がんとその周辺だけを切り取る「部分切除」だ(図5)。
「そもそも肝がんの患者さんは肝機能が低下しているうえ、初回の肝切除により、ある程度、肝機能が低下しています。したがって、再切除の際には、肝臓の予備力をきっちりと評価して、切除できる肝臓の容量を算出しなければなりません」
また、最近では腹腔鏡による手術が導入されるようになった。従来の肝切除では、40㎝程度の皮膚切開が必要だったが、腹腔鏡下肝切除は、皮膚に1㎝程度の穴を5~6カ所開けて行う。出血も少なく、術後の傷の痛みも断然少ない。術後の入院期間も平均8日程度と、回復が早いのが特徴だ。
現在のところ、がんの位置や大きさなどで適応を限定しているが、今後、急速に普及していく手術であると思われる。
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