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胸膜腔内に直接抗がん剤を灌流する治療法も!

胸水が溜ったがん性胸膜炎は早期発見・早期治療が肝心

監修●坂口浩三 埼玉医科大学国際医療センター呼吸器外科副診療科長
取材・文●半沢裕子
発行:2012年11月
更新:2013年4月

  
坂口浩三さん「悪性胸水の治療を早期に行うことで治療選択は広がります」と話す坂口浩三さん

肺がんを代表とする呼吸器のがんは進行すると栄養状態やQOLを低下させる胸水が出る。早期発見し、早めの治療を行うことで治療計画にも大きな影響を与えるという。

肺の動きを円滑にする胸水

「肺は肋骨や背骨でできたカゴ状の胸郭の中にあり、胸郭の内側も肺の表面も胸膜という中皮の膜に覆われています。胸郭内側の胸膜を壁側胸膜、肺の表面を覆う胸膜を臓側胸膜といいますが、この2つはヘリでつながり、1枚の袋をつくっています。袋の内部を胸膜腔(胸腔)といいます。胸水とはこの胸腔に溜まる体液のことです」

こう説明するのは、埼玉医科大学国際医療センター呼吸器外科副診療科長の坂口浩三さんだ。

胸水は健康な人でも10~20ml程度、胸腔全体に薄く広がり、肺の動きをスムーズにするため生理的に存在する。主に壁側胸膜(肋骨側)の毛細血管から胸腔内に産生されて、臓側胸壁(肺側)から再吸収されるが、病的な状態では産生量が増え、出る量が多すぎたり、再吸収がうまく進まなくなって、胸腔内に溜まってしまう(図1)。

胸水が溜まる原因は心不全、肝硬変、肺炎、膠原病、がんなどとさまざまだが、

「がんに関するのは肺がん、肺や胸膜に転移した他の臓器のがん、中皮腫の3つ。肺がんでは、肺にできたがんが肺の胸膜を破って胸腔内に顔を出し、胸膜にがん細胞が飛んだ状態。中皮腫は胸膜にできるがんで、アスベストが大きな原因の1つとして知られています。肺がんや他の転移がんは最初にがんができた場所の外にがんが広がっているので、病期としては4期です。一方、中皮腫は胸膜が原発であり、悪性胸水がみられても1~2期のこともあります。いずれも胸膜にがんができ、胸水がたまった状態をがん性胸膜炎といい、がん性胸膜炎による胸水を悪性胸水と呼びます」

胸水をつくるのは主に腺がん

悪性胸水といっても、自覚症状は百人百様。肺が圧迫されて重い感じ、息が深く吸えない、軽い咳が出る、歩いたり軽い動作をしたときに息切れがする、といった症状が出ることもある。壁側胸膜を越えて肋骨側に腫瘍が浸潤すると痛みが出てきます。一方、何の症状も出ず、検診などで指摘されて検査を受け、発見されることもある。

「胸水をつくる肺がんの多くは腺がんという種類ですが、腺がんの中でも大量の水をつくるタイプと、あまりつくらないタイプもあります。また、正常な肺の人は、多少溜まっても気づかない人もいれば、喫煙経験があり肺の機能が落ちている場合は、息切れなどが出やすく、症状を強く感じる人もいます。

胸水が溜まり肺が虚脱(しぼんだ状態)すると、呼吸が苦しくなりますし、肺炎も起こしやすくなります。また、胸水には血液中のタンパク質が多く流出するため、栄養状態は悪くなります。症状を感じたら、早めに主治医に相談し、診断を確定し、治療を行うことが大事です」

早めに適切な治療を

■写真2 胸水の溜まった肺のレントゲン写真
■写真2 胸水の溜まった肺のレントゲン写真

右肺に胸水が貯留していることが疑われる

早いほうが良い理由はほかにもある。元気なうちに胸水をコントロールすることが、その後のがん治療を大きく左右するためだ。胸水とよく似た症状に、腹部に体液の溜まる腹水がある。その主な治療は「水が溜まったら抜く」というもの。そのため、胸水の治療も「溜まったら抜く」と思われがちだが、じつは違っていて、胸水の溜まる場所=胸腔をなくす、胸腔癒着という思い切った治療法が行える。胸水貯留を防ぎ、あるいはコントロールすることで栄養状態が改善し、速やかに抗がん剤による治療に取りかかることもできる。

では、診断から治療の流れを見てみよう。胸水の診断は①胸部レントゲン撮影②CT撮影③胸腔穿刺のステップで行われる。

①のレントゲン撮影では、まず立った状態で撮影し、一方の横隔膜が高く、肺が通常より小さく見えたら、寝て横向きの写真も撮る。胸水があれば下に移動して影の形が変わるので確認できる(写真2、3)。

■写真3 右側を下に向けて撮影したレントゲン写真
■写真3 右側を下に向けて撮影したレントゲン写真

患側臥位での撮影。胸水は移動し、胸壁に沿った胸水貯留を確認できる(写真2と同じ症例、同日撮影)

次に②のCTを撮り、胸水の有無とともに腫瘍の有無も確認する。さらに、③の胸

腔穿刺によって胸水を採取し、成分分析やがん細胞の有無を調べる。

穿刺とは針を刺して細胞などをとる検査。座った状態で局所麻酔をし、肋骨の間から採血用の針より少し太めの針を刺し入れ、超音波で胸水を確認しながら抜き取る。

「成分を見る生化学検査なら少量で足りますが、がん細胞の有無を確認するためには、50㏄でも100㏄でも、多めに採取したほうが良いと思います」(写真4)

■写真4 がん性胸水からみつかった腫瘍細胞
■写真4 がん性胸水からみつかった腫瘍細胞

腺がんが原因によるがん性胸水内のがん細胞。腫瘍細胞の一部には粘液産生が見られる。がん細胞とリンパ球と比べるとよく分かる大きさ

成分が大事なのは、原因が特定されやすいため。胸水は大きく①漏出性と②しん出性に分けられ、①漏出性は心不全、肝硬変、低アルブミン血症などから起きることが多い。一方、②のしん出性は感染症や結核が原因のこともあるが、主な原因はがん。

具体的には、胸水のタンパク量/血清のタンパク量が0.5を超える、胸水のLDH/血清LDHが0.6を超える、胸水のLDHが血清LDHの基準値上限の3分の2を超える、の3つの条件のうち、1つ以上を満たすと、しん出性胸水(=がんの可能性が高い)と診断される(図5)。

しん出性胸水にはがんに伴う「悪性胸水」、細菌性の肺炎や結核による「膿胸」、膠原病や非特異的な胸膜炎による乳状のしん出液のみられる「乳び胸」などがある。

■図5 胸水の種類(しん出性胸水と漏出性胸水の鑑別)
  しん出性 漏出性
総タンパク 胸水/血性>0.5  
>3.0g/dl <2.5g/dl
LDH 胸水/血性>0.6または >血性LDH正常上限値×2/3  
>200単位 <200単位
外 観 混濁 透明
比 重 >1.018 <1.015
がんが原因となる悪性胸水はしん出性の胸水となる

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