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痰を伴わない咳や息切れ、発熱などが出たら、すぐに医師に相談しよう
時には命にかかわる「間質性肺炎」。早期の自覚症状を知っておこう

監修:大田 健  帝京大学医学部付属病院呼吸器・アレルギー内科教授
   長瀬洋之 帝京大学医学部付属病院呼吸器・アレルギー内科准教授
取材・文:半沢裕子
発行:2011年11月
更新:2013年4月

  
大田健さん 帝京大学医学部付属病院
呼吸器・アレルギー内科の
大田健さん

間質性肺炎は、1度症状が出ると治療計画に変更が求められるだけでなく、万一、急に重い症状を発症すると、命への危険が及びかねない病気です。あらゆる抗がん剤で起こりうる副作用でありながら、その発症メカニズムは、現在のところ明らかにはされていません。重症化や慢性化を防ぐために、患者さんに期待されているのは、自覚症状による早期発見です。
まずは、この病気を知って、もしやというときに備えましょう。

間質性肺炎はほとんどの薬剤で起こりうる

2002年、世界に先駆け日本で承認・販売され、マスコミに「夢の治療薬」と報道された、非小細胞肺がんの分子標的薬イレッサ()。しかし、重篤な副作用について十分広報されず、服用後に亡くなる患者さんが相次ぎ、薬害訴訟につながりました。その重篤な副作用とされたのが、間質性肺炎です。このため、「間質性肺炎=イレッサ」といったイメージが広がりました。

しかし、実際のところは、「間質性肺炎は、ほとんどの薬剤によって起こりえます」と、帝京大学医学部付属病院呼吸器・アレルギー内科教授の大田健さんは語ります。事実、日本で使われている医薬品の中で、薬剤性肺障害(多くは間質性肺炎)を副作用として記載するものは、1200品目以上あるともいわれます。

よく知られているのは、リウマチの薬(メソトレキセート()など)や不整脈の薬(アンカロン()など)。さらに、漢方薬(小柴胡湯など)や風邪薬(アスピリン()など)でも起こりうるというから驚かされます。その点、作用が強い抗がん剤では、すべての薬で間質性肺炎が起こりうると考えたほうがいいといえます。

イレッサ=一般名ゲフィチニブ
メソトレキセート=一般名メトトレキサート
アンカロン=一般名アミオダロン
アスピリン=一般名も同様

肺の末端にある肺胞を包む間質が炎症を起こす

では、そもそも間質性肺炎とはどのような病気なのでしょうか。風邪などで起こる肺炎とはどのように違うのでしょうか。

肺は目の細かいスポンジのような臓器で、口や鼻から吸い込まれた空気は気管支を通り、気管支から細かく枝分かれした細気管支を通り、末端にある袋状の肺胞に届きます。この肺胞を包む壁の部分(スポンジでいうと、実質の部分)を間質というのですが、間質には毛細血管が網の目のように張り巡らされ、肺胞内の酸素を取り込む役目をはたしています。取り込まれた酸素は動脈血液中のヘモグロビンと結びつき、全身に供給されます。

[図1 肺炎による酸素の不供給]
図1 肺炎による酸素の不供給

間質性肺炎とは、この間質に炎症が起こり、肺胞の中の酸素が毛細血管に取り込まれなくなる病気です(図1)。主な症状は、痰を伴わない乾いた咳(「乾性咳嗽」という)や息切れなど。息は吸えるのに酸素が体に取り込まれないため、重症の場合は大変な息苦しさを覚えます。症状が急激に出る場合と、少しずつ出て慢性化する場合があり、急性の場合は突然、呼吸が苦しくなり、意識を失うこともあります。

一方、炎症が慢性化すると肺胞の壁がだんだん厚く、固くなります。すると、肺が十分ふくらまなくなり、肺活量が落ち、酸素の吸収率がさらに下がります。進行すると、間質が線維のかたまりのようになり、その部分での呼吸機能が失われてしまいます(図2)。このような状態を肺線維症といいます。肺線維症は、間質性肺炎だけでなく、膠原病や塵肺などからも引き起こされます。

[図2 肺胞の線維化]
図2 肺胞の線維化

ちなみに、一般に肺炎と呼ばれるのは、細菌やウイルスの感染によって起こる感染性の肺炎です。空気と一緒に取り込まれた細菌やウイルスが肺胞で増え、これと闘うために出てきた細胞や、細胞と一緒に出てくる浸出物で肺胞が覆われ、酸素が取り込めなくなります。

薬の毒性で起こるものと免疫反応で起こるもの

間質性肺炎が起きる原因として、関節リウマチや強皮症などの膠原病、アスベストの吸入、放射線治療などが明らかになっていますが、原因不明の間質性肺炎も少なくありません。原因不明の間質性肺炎を特発性間質性肺炎と呼びます。薬物によって起きる間質性肺炎も、そのメカニズムには不明なものが多いのです。

「薬剤によって起こるメカニズムは2通りと考えられています。1つは薬剤そのものが毒性をもち、細胞に対して障害性を示すもの。もう1つは、薬剤に対する体の免疫反応として起こるものです。ただし、両方がまじりあったケースも少なくなく、マウスによる実験の結果などを見ても、血液を凝固させる因子が働いたり、免疫反応の抗体がつくられたり、さまざまなことが起きています。抗体が出ていない場合でも免疫が関与していないとは言い切れず、明快に分けられるものではありません」

[図3 間質性肺炎を特に起こしやすい抗がん剤]

 ●イリノテカン
 ●エベロリムス
 ●エルロチニブ
 ●ゲフィチニブ
 ●ゲムシタビン
 ●シクロホスファミド
 ●テムシロリムス
 ●パクリタキセル
 ●ブレオマイシン
 ●マイトマイシン
 ●メトトレキサート

つまり、実際には「間質性肺炎」という1つの病気があるのではなく、さまざまな病態を総称したものなのです。2002年に欧米でつくられた特発性間質性肺炎の分類でも、通常型間質性肺炎、びまん性肺胞障害、剥離型間質性肺炎など7つに分類されています。このうち、びまん性肺胞障害は予後が悪く、イレッサによる肺障害の分析でもびまん性肺胞障害が半数に認められ、全例が死亡しました。

なお、間質性肺炎はすべての薬剤で起こりうるとはいえ、頻度の高いものと低いものがあります。がん治療に関係のある薬の中で頻度が高いのは、たとえば、ブレオ()、カンプト/トポテシン()、インターフェロンなど。高齢の患者さんにはブレオを避ける、放射線治療と併用の場合は間質性肺炎発症のリスクが高い薬剤は避ける、といった規定も今日では明確につくられています(図3)。

ブレオ=一般名ブレオマイシン塩酸塩
カンプト/トポテシン=一般名イリノテカン


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