• rate
  • rate
  • rate

イレッサは、効果と副作用の面から見ると長期に渡って治療継続が期待できる
EGFR遺伝子変異陽性肺がんはまず分子標的薬で治療する

監修:前門戸 任 宮城県立がんセンター呼吸器内科診療科長
取材・文:柄川昭彦
発行:2012年12月
更新:2013年5月

  
前門戸任さん 治療継続を考えたらイレッサが
第1選択薬と語る
前門戸任さん

肺がんの治療は、まず遺伝子検査を行い、その結果に基づいた治療を選択する時代に入った。
EGFR遺伝子変異陽性の肺がんなら、1次治療で選択されるのは分子標的薬のイレッサ。

小細胞肺がんと非小細胞肺がん

[図1 肺がんの組織型分類]
図1 肺がんの組織型分類

国立がん研究センターがん対策情報センター
がん情報サービスプラクティカル内科シリーズ1肺癌

[図2 肺がん組織型分類図]
図2 肺がん組織型分類図

肺がんは、がん組織の型によって、「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分類されている。どうしてこのような分け方をするかというと、それぞれのタイプで治療方法が異なるからだ。

宮城県立がんセンター呼吸器内科診療科長の前門戸任さんは、次のように説明する。

「小細胞がんは転移しやすく、発見された時点で画像診断上、転移がないように見えてもすでに全身に転移していることが多く、そのため、抗がん薬による全身の治療が必要になります。それに対し、非小細胞肺がんは、早い段階であれば、手術・放射線など局所の治療で治ることもあります」

非小細胞肺がんは、肺がん全体の85~90%を占めていて、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんといった種類がある。しかし、かつては、小細胞肺がんでなければ、腺がんでも扁平上皮がんでも大細胞がんでも、治療法は同じだった。そこで、これらをひとくくりにする「非小細胞肺がん」という総称が必要だったのである(図1&図2)。

ここでは、非小細胞肺がんの治療法について考えよう。

全身に転移したら薬による治療が必要

非小細胞肺がんの治療法は、がんがどこまで広がっているかによって異なっている。治療法としては、手術、放射線療法、抗がん療法の3種類がある。これらの治療法は、どのように使い分けられているのだろうか。

「肺の周辺には、転移しようとする肺がんを食い止める、関所のような働きをしているところがあります。肺から最も近いところにある関所が、肺門リンパ節。その先にあるのが縦隔リンパ節です」(図2)

治療法は、肺がんがどこまで進展しているかによって決まる。

まず、がんが肺だけに認められ、肺のリンパ節に行っていなければ、適する治療法は手術である。肺がんが肺門部のリンパ節まで進展していた場合も手術となる。リンパ節も一緒に十分切除できる。

縦隔リンパ節まで行っている場合には、手術も検討されるが、放射線療法と抗がん薬による抗がん療法との併用療法が推奨されている。

「手術に比べると、患者さんの身体的な負担は軽くてすみます。治療成績は、手術に匹敵するとも、それ以上とも言われています」

そして、縦隔リンパ節を越え、全身のどこかに転移している場合には、全身療法であ る抗がん薬による治療が必要となる。

診断時に行うべきEGFR遺伝子変異検査

非小細胞肺がんに対する抗がん療法は、かつては、腺がんでも扁平上皮がんでも、使われる薬剤は細胞を殺す作用で治療する抗がん薬であった。抗がん薬は様々ながん細胞に広く効く一方、正常細胞がダメージを受ける。ところが、分子標的薬()が治療に使われるようになると、がん細胞の遺伝子を調べることで、あらかじめ薬がよく効くかどうかがわかるようになってきた。そうした検査の代表的な1つが、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異検査である。がん細胞を調べ、EGFR遺伝子に変異が起きている場合には、EGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)というタイプの分子標的薬がよく効く。EGFR-TKIには、イレッサ()やタルセバ()といった薬がある。

「EGFR遺伝子変異検査の結果が陽性なら、EGFR-TKIという治療の選択肢が増えることになります。したがって、抗がん療法を行う場合、基本的にこの検査は欠かせません。そこで現在では、肺がんを診断するために病理検査が行われるときに、一緒にEGFR遺伝子検査も行われるようになっています」

この検査は健康保険で受けることができる。検査に使う肺がんの組織は、気管支鏡(口から挿入して気管支内部を観察する内視鏡)を使って採取する方法が一般的だ。気管支から肺に内視鏡を送り込み、先端からブラシ状の器具でこすったり、鉗子と呼ばれるくちばしのようになった器具でがんの組織を採取する。がんのできている位置によっては、体の外から針を刺して採取する場合もある。

どちらの方法でも、患者さんにとっては身体的負担となることは確かである。肺がんが進行していて全身状態が悪く、検査を行うのが難しい場合もある。

「イレッサがない時代なら、無理に検査をする必要はありませんでした。全身状態が悪いと抗がん療法の対象にならないからです。しかし、検査でEGFR遺伝子変異陽性とわかれば、イレッサによる治療で、病状が劇的に改善することがあります。EGFR-TKIにはそういった効果が期待できるので、現在は、少々無理をしても調べるようになっています」

全身状態が悪いなどの理由で抗がん薬が使えない人でも、イレッサで改善するケースが多いことはデータからも明らかだ(図3)。こうした点からも、非小細胞肺がんの抗がん療法では、EGFR遺伝子検査がとても重要なのである。

[図3 ゲフィチニブによるPS改善効果]
図3 ゲフィチニブによるPS改善効果

がんにより寝たきりになった患者のうちの68%が、ゲフィチニブ投与により歩けるようになって退院した
Inoue A.; Journal of Clinical Oncology; 27:1394-1400,2009

分子標的薬=とくにがん細胞が特徴的に持っているタンパク質を標的にして、正常な細胞に作用しにくいよう効率よくがん細胞を狙って作用するように作られた薬
イレッサ=一般名ゲフィチニブ
タルセバ=一般名エルロチニブ


同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート3月 掲載記事更新!