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膵がんの最新治療
膵がんは全身病と考え、ジェムザール単剤による化学療法が間違いのない選択

監修:石井浩 国立がんセンター東病院肝胆膵内科医長
取材・文:林義人
発行:2005年11月
更新:2013年4月

  
石井浩さん
国立がん研究センター東病院
肝胆膵内科医長の
石井浩さん

膵がんは手術ができれば治癒が望める。

しかし、どうしても発見が遅れ、手術のできない状態で発見されるケースが多い。

では、そうした手術のできない進行臓がんに治療法はないのだろうか。

ここに登場してきたのがジェムザール(一般名ゲムシタビン)という抗がん剤だ。

闇のような世界だった進行膵がんの治療に、大きな光をもたらした薬だが、これを凌駕するものはいまだに現れていない。


[ジェムザールの術後補助療法の効果]
図:ジェムザールの術後補助療法の効果

早期の膵がんは症状もほとんどなく、これを発見するための検診もまだ確立されていない。さらに、膵がんの切除手術は消化器がんのなかでも最も難しいといわれる。こうしたことから膵がんは最も予後の悪いがんの1つとなっている。

膵がんは、手術可能なうちに発見できれば手術をするのが現在の標準治療である。手術をすれば治癒も望めなくはない。しかし、手術をしてもかなりの高率で再発するのが難点で、どうしても予後が悪くなる。そこで、何とかその再発を防いで予後を改善しようと術後補助療法が模索されてきた。

そうした中で、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で注目されたのは、「手術後にジェムザールを投与することによって、再発なく生存している期間(無再発生存期間)が約2倍に延長する」という発表であった。ジェムザールは、局所進行性ならびに転移性膵がんの治療薬として承認されているが、手術可能な膵がんの術後補助療法としても有効なことが示唆されたのである。

国立がん研究センター東病院肝胆膵内科医長の石井浩さんは、「ジェムザールによる術後補助療法によって生存期間や生存率の改善が期待できるかもしれないということで、この試験の最終結果の報告が待たれています」とジェムザールの新しい可能性について話す。

こうしてみると、膵がんはかなり小さい時期から「全身病」と考えたほうがいいのではないかという見方が生まれる。そしてその観点からの治療法が重要になってくる。

局所進行膵がんの標準治療は化学放射線治療

[膵がんの進行度(病期)]

  MO M1
N0 N1 N2-
Tis 0期      
T1 1A期 2B期   4期転移
T2 1B期 2B期  
T4 2A期 2B期  
T3 3期 局部進行がん
Tis=上皮内がん T=腫瘍の大きさ N=リンパ節転移 M=遠隔臓器への転移
国際対がん連合(UICC)第6版2002

[転移性膵がんに対するジェムザールを用いた化学療法の効果]
図:転移性膵がんに対するジェムザールを用いた化学療法の効果

膵がんの7~8割は上腹部ないし背部の疼痛がきっかけで見つかるが、その大半はすでに手術不能な状態になっている。手術不能な進行膵がんは、(1) 遠隔臓器への転移はないものの、上腸間膜動脈や腹腔動脈本幹に浸潤している局所進行膵がん(ステージ3)と、(2)遠隔臓器に転移が見られるもの(ステージ4)に分かれる。

局所進行膵がんの標準治療は、5-FUという抗がん剤と放射線治療の同時併用療法である。世界で行われた無作為化比較試験の結果によれば、化学療法単独あるいは放射線治療単独よりも、この5-FUと放射線の同時併用療法のほうが治療成績が良いと報告されている。石井浩さんはこう説明する。

「欧米では、5-FUの持続点滴はポンプを使うなど煩雑になるので、代わりに内服のゼローダ(一般名カペシタビン)を用いて放射線と併用するのが“みなし標準治療”のようになっています。一方、本邦では現在、やはり内服のTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)と放射線の同時併用療法の安全性について確認しているところでして、将来的に日本ではこれが“みなし標準治療”になる可能性もあります」

これに対して、ステージ4の転移性膵がんの標準治療は、1996年(米国での膵がんの承認。日本では2001年)に登場したジェムザール単剤による化学療法である。そこで、疑問に思うのは、局所進行膵がんに対してはジェムザール単剤の効果はどうなのかという点だが、じつはこのジェムザール単剤と5-FUを用いた化学放射線治療とを比較した臨床試験は行われておらず、どちらがより効果があるかはまだ確認されていないのである。

ジェムザール単剤は化学放射線治療の代替になる

膵がんで遠隔転移した場合は、局所に対して放射線治療を行っても意味がないので、抗がん剤による全身治療が行われる。ジェムザールが第1選択薬となっているが、じつはこの薬の適応範囲は考えられているよりももっと広いかもしれない。

「局所進行膵がんと診断された患者さんも、開腹してみると30パーセントぐらいに腹膜播種などの転移が認められます。すなわちステージ3と診断される膵がんのうち、3割くらいはステージ4ということになるわけです。そうなると、それらの患者さんに対して、化学放射線治療で局所を叩く治療を行うのはあまり効果的ではないのではないかということになります。切除できない膵がんは今は臨床的に2種類に分けて治療していますが、『この段階では強力な抗がん剤で全身治療を行うべきであり、あえて放射線治療をしても意味がないのではないか』という考え方があってもおかしくありません」

現在、このような切除不能膵がんを対象にして、ジェムザールと他の新しい抗がん剤を組み合わせる治療法の臨床試験が進められている。そして、最終段階である第3相試験の治療成績が次々発表される中で、ある事実が見えてきた。

「これらの成績を分析してみると、局所進行膵がんでジェムザールだけで治療した人の成績が分かってしまうのです。それによると、生存期間の中央値が10カ月、1年生存率40パーセントとなります。じつはこれは、5-FUを用いた化学放射線治療の成績と変わりません」

だから、まだ無作為化比較試験で確かめられていないといっても、ジェムザールだけを使った治療で十分化学放射線治療の代替治療になりうる可能性がある。石井さんは、「外来で投与が可能で、毒性が少なく、患者さんにやさしい治療法として、ジェムザールを選択してもよいのではないか」と考えている。

「化学放射線治療はどうしても入院が長期になり、国立がん研究センターでも2カ月間を超えてしまいます。そして治療が始まると副作用のため、食欲不振、吐き気、倦怠感などの状態が続きがちですが、ジェムザールにはこうした副作用はさほどありません。ですから、『長い入院がいやだ』とか、『高齢なので放射線は避けたい』、『がんが広がりすぎて照射範囲が広すぎる』、さらに『確実とはいえないけれど、肝転移があやしまれる』といった場合には、化学放射線治療よりもジェムザール単剤による全身治療を選び、患者さんにお勧めしています」

[ジェムザール単剤による治療前後]

写真:治療前

治療前。かなり大きな腫瘍のほか、いくつかの転移巣もある

写真:治療後

治療後。ジェムザールの投与で腫瘍は大きく縮小


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