間欠療法、交代療法、そして「効かない抗がん剤」に突破口が開かれた
再燃前立腺がんの最新治療
大阪大学病院泌尿器科講師の
西村和郎さん
効くホルモン療法が効かなくなってくると、前立腺がんは別の顔を見せるようになる。困難でやっかいな面だ。
昔は有効な治療法がなかったが、最近は少しずつだが、優れた治療法が登場してきている。その新しい治療法を紹介しよう。
前立腺がんは、一般的には比較的進行が遅く、ホルモン療法もよく効き、コントロールのしやすいがんとされている。
しかし、このがんの最大の問題は、そのホルモン療法でがんが完全に死滅することはなく、数年のうちにホルモン療法が効かなくなり、がんが再燃(残ったがんが再び増殖に転じてくること)してくることだ。そしてホルモン療法が効かなくなってくると、途端にやっかいながんへと変貌する。なかなか有効な手立てがなく、昔は緩和的な処置をするのがせいぜいだった。
そんななか、最近は、少しずつだが有効な治療法が出てきている。ここでは、その新しい治療法を紹介していこう。
ホルモン療法を中止する治療法
まず1つは、このホルモン療法が効かなくなるのを少しでも先延ばしにできないかと新しい試みが出てきている。間欠的ホルモン療法と呼ばれる治療法だ。
ホルモン療法を行うと、効果が現れPSA値(前立腺特異抗原)が下がる。下がりきったら治療を止める。すると今度は徐々にPSA値が再上昇してくる。ある程度上がったところでホルモン療法を再開する。これをくり返していく治療法だ。通常、ホルモン療法は男性ホルモンの産生を迎える薬(LH-RHアゴニスト)を主体として、男性ホルモンの作用をブロックする薬(抗アンドロゲン剤)を組み合わせて行う。
再燃前立腺がんに対する治療法の臨床応用に精力的に取り組んでいる大阪大学病院泌尿器科講師の西村和郎さんは言う。
「抗アンドロゲン剤除去症候群といって、抗アンドロゲン剤を中止することによってPSA値が下がったり転移巣が小さくなったりするんです。抗アンドロゲン剤にはステロイド性と非ステロイド性がありますが、とくにステロイド性の抗アンドロゲン剤では、初めは効果を上げていたものが、いつの間にか男性ホルモンと同じようにがんを増殖させるようになると考えられています。したがって、抗アンドロゲン剤を中止すれば、その悪い作用がなくなり、PSA値や症状が改善されると考えられるわけです。
一方、動物実験では、間欠的ホルモン療法によりホルモンが効かなくなるまでの期間が延長できることが確認されており、人においても同様の効果が期待されています。まだ結論は出ていませんが、少なくとも治療を中断している間は副作用が出ないメリットがあります」
ちなみに、再燃前立腺がんに対する治療に積極的に取り組んでいる医療機関はそう多くはない。阪大以外では、千葉大学病院泌尿器科や横浜市立大学病院泌尿器科などが代表的だ。
抗アンドロゲン剤を切り替える治療法
ところで、抗アンドロゲン剤を中止しても効果が現れない場合もある。このような場合は、別の抗アンドロゲン剤に変更してみる。これが、抗アンドロゲン剤交代療法と呼ばれる治療法だ。
例えば最初に使用していたステロイド性抗アンドロゲン剤を中止し、非ステロイド性抗アンドロゲン剤に切り替えるというものだ。非ステロイド性抗アンドロゲン剤は、日本では2種類あり、これら2剤の切り替えも有効性が報告されている。
「ステロイド性抗アンドロゲン剤は有効性がそんなに高くないことから、欧米では非ステロイド性抗アンドロゲン剤が主流となっていますし、日本でもこれが最近多くなってきています」(西村さん)
しかし、抗アンドロゲン剤を切り替えても効かなくなったら、どうするか。今度は抗がん剤を使うのがよいという。
「あるいは、前立腺がんの進行が非常に速い場合は、抗アンドロゲン剤よりも、いち早く抗がん剤を使ったほうがいいですね」(西村さん)
もっとも、この場合、正しくは、ホルモン療法から抗がん剤に切り替えるのではなく、ホルモン療法に、新たに抗がん剤を加えるというものだ。つまり、男性ホルモンのレベルは抑えておいて、抗がん剤を効かせるわけだ。
LH(黄体化ホルモン)=精巣に働きかけて男性ホルモンを分泌させる
CRH(副腎皮質刺激ホルモン 放出ホルモン)=脳下垂体を刺激して副腎皮質への指令を出させる
ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)=副腎皮質を刺激して男性ホルモンを分泌させる
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