悪性疾患を引き起こす感染症の患者会が署名活動で訴えること

早く診断がつけば救える命がもっとある。だから、検査を保険適応に!

取材・文●増山育子
発行:2013年1月
更新:2013年5月

  
SHAKE(シェイク)代表の奥中咲江さん

EBウイルスは、幼児期までに5割、成人の9割が感染し、体の中に一生潜伏する、ありふれたヘルペスウイルスの仲間だ。ところがごくまれに、T細胞、NK細胞というリンパ球に感染し、それらをがん化することが、最近明らかになってきた。慢性活動性ウイルス感染症(CAEBV)である。発見が遅れ重症化を招かぬよう、患者さんたちは情報の普及を、検査の保険適応をと訴えている。

慢性活動性EBウイルス感染症という悪性疾患

EBウイルスに感染した場合、通常は、無症状か風邪のような症状が出るだけだ。

思春期以降では高熱やリンパ節の腫れ、肝機能異常などが出現して「伝染性単核球症」と診断されることがあるがほとんど問題なく治る。

しかし、100万人に1人の割合で慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)を発症する。重篤な悪性疾患だ。

EBウイルスはリンパ球の主にB細胞に感染し、おとなしく潜んでいるが、体の免疫力が落ちたときなどに稀に急増・活性化し、強い炎症反応を起こす。異常に増えた細胞はがんの性質をもつようになり、悪性リンパ腫や白血病といった血液がんへと進行する。

医師の間でもよく知られていない難しい病気だ。慢性活動性EBウイルス感染症の患者会SHAKE代表の奥中咲江さんは、伝染性単核球症の治療後も肝機能異常と脾臓の腫れが残ったため、かかりつけ医から大学病院の血液内科を紹介された。経過観察が続き、9カ月後に慢性活動性EBウイルス感染症という聞いたこともない病名が告げられた。

「インターネットで調べても専門用語ばかり並んでいて理解できません。わかる言葉をつなげてみたら、最終的には死に至る病気とされており、ショックというより実感がまったくわきませんでした」と奥中さんは振り返る。

完治には移植しかないが治療開始を悩む姿も

完治させるにはEBウイルスによってがん化した細胞を根絶しなければならない。現在、完治の可能性のある治療法は造血幹細胞移植だ。

多くの患者さんが治療を始めるかどうか悩むという。

「診断が確定した段階では、進行した症状がない限り、多くの場合患者さんは元気なのです。それなのに抗がん薬治療や死のリスクもある移植をしなくてはならないわけですから」

自分にあうドナーが見つかるか? 移植するなら仕事を長期間休まなくてはならないし、職場復帰のめどが立ちにくく退職を余儀なくされるかもしれない。

「情報もないなか、そんな不安ばかりが膨らんで決断できないまま時間が過ぎる例もよくあります。でも治療を先延ばしにするとさらに厳しい事態を招きます」と奥中さんは強調する。

慢性活動性EBウイルス感染症は、あるとき突然進行のスピードを上げ、手がつけられない状態へと一気に向かう。

「EBウイルスの厄介な点は、進行すると肝臓や心臓などいろんな臓器に入り込んで悪さをすることです。肝臓の障害が多いようですが、私の場合は心臓と脳の血管が障害されていました。骨髄移植の待機中にそれがわかり、移植の予定が白紙になったのです」

移植は全身状態が良好でないと適応とならない。つまり病気が進行してしまうと移植も受けられなくなってしまうのだ。

この経験から奥中さんは、早期発見・早期治療の重要性を知ってほしいと訴える。

「私のように元気なのにどこかの臓器がダメージを受けていて、それがぎりぎりまで見つからないことがあるのもこの病気の難しいところです。心臓に病変が出ると知っていたら心臓も調べて悪化が始まっていることを早く察知できたかもしれません。早く診断をつけて治療機会を逃さないことが大切です。そうすれば治る病気なのですから」

奥中さんは、その後転院して造血幹細胞移植を受けることができた。大阪府立母子保健総合医療センターが慢性活動性EBウイルス感染症に対する造血幹細胞移植の治療成績を報告しており、これによると患者さん18人(1歳~37歳)で移植前の化学療法を弱めたいわゆるミニ移植(骨髄非破壊的移植)を行った症例では3年後の生存率が90%以上という勇気づけられるものとなっている。

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