がん治療とビタミンC
ビタミンC大量投与の効果には、決定的な証拠はない

文:諏訪邦夫(帝京大学幡ヶ谷キャンパス)
発行:2009年3月
更新:2015年9月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

「がん治療にビタミンCが有効」という話が、ときどき新聞や雑誌に登場します。その調査結果をお示ししますが、今回は英語論文が中心です。作用のメカニズムは問いません。なぜなら、薬物の作用メカニズムは、有効性が確立してからずっと後に判明するのが通例だからです。

ポーリング氏とビタミンC

「がん治療とビタミンC」をキーワード(日本語)としてグーグル(インターネット上の検索エンジン)で検索された46万件の上位24の記述のうち14で、「ポーリング」の名が挙げられています。ポーリング氏はノーベル賞を2つ受けた大科学者で、1960年代には、「ビタミンCで風邪を治療し予防しよう」というキャンペーンをはりました。いろいろ議論も調査もされましたが、2004年になって広範な調査が行われました(Cochrane Database Syst Rev. 2004 Oct 18;(4):CD000980.)

これによると、29編の論文で被検者1万1千人のデータを分析、ビタミンC摂取は風邪に対して何かの効果はありそうで、風邪の期間短縮・症状が軽く済む・学校や職務の欠席期間短縮などの要素がみつかったが、決定的な証拠ではない由です。

1970年代に、ポーリング氏は「ビタミンCとがん治療」のテーマで研究を開始。日本語の記事が乏しかったので、アメリカ医学図書館のデータベース、メドラインを検索、大量のデータがみつかりました。ポーリング氏が関係したものと氏と無関係のものがあります。

がんに対して有効だった3例

まず「有効」としている研究です。最初に検索されたのは、カナダ医師会雑誌に「がんに対してビタミンCが有効だった3例」という報告(CMAJ. 2006 Mar 28;174(7):937-42. )で、誰でもインターネットでアクセスでき、無料で読めます。ビタミンCを、50~100グラムも静脈注射して「がんが治った」という3例を紹介しています。ビタミンCの通常所要量は内服で300mg/日程度で、血液中濃度は静脈注射では経口の10倍高いとされるので、静脈注射で50g/日は内服で500g/日にあたります。ところがビタミンCは、「酸っぱい」物質でこんな量を内服するのは不可能に近く、それで静脈注射する由です。この論文は、たった3例の症例報告なので説得力は強くはありません。

反論として「3例とも、別の治療を受けていて、そちらが有効だった可能性が否定できない。そもそも何例に使って、そのうち3例に有効だったというのか、それを明らかにすべきだ」という意見が載っています。

2007年の栄養学雑誌にカナダの人たちが検討していますが、明確な答えを出していません。韓国からの研究論文で、Yeom氏が「少なくとも末期の症状を改善する」と述べています(J Korean Med Sci. 2007 Feb;22(1):7-11)。動物実験では「有効」を主張するものがいくつもあり、最新は2008年のChen氏のもの(:Proc Natl Acad Sci USA. 2008 Aug 12;105(32):11105-9.)でしょう。

一方、無効としている論文もあり、有名なものとしては、1979年に N Engl J Medに報告された二重盲検法によるテストがあります(N Engl J Med. 1979 Sep 27;301(13):687-90.)。「効果なし」という結論の代表で、同じ著者が1985年に別の研究で「効果なし」と結論しています。面白いことに、「ビタミンC欠乏でがんが治る」との研究発表がみつかりました(Telangetal.Neoplasia.2007年、9(1):47-56。オープンアクセス)(研究発表[1]研究発表[2])。同じ年に、Plummer氏も無効と結論しています(J Natl Cancer Inst. 2007 Jan 17;99(2):137-46.)

ポーリング氏が関係した研究

ポーリング氏は1971年頃から研究し、1973年から論文が出ていますが、成績を明確にした論文として検索できた1番古いのは1976年のもの(Proc Natl Acad Sci USA. 1976 Oct;73(10):3685-9.)でした。論文の内容は、末期がん患者で、100例にビタミンCを投与し、1000例に投与せずに、生存期間を比較したところ、投与群の生存期間は210日、非投与群の生存期間は50日と明らかな差があったというのです。また、同じPNAS(Proc Natl Acad Sci)誌上で、科学評論家コムロウ氏の「前向き二重盲検による無作為比較試験が必要」というコメントを受けて、「現在メイヨークリニックでそうしたテストを施行中だが、他のいくつかの研究プロジェクトは研究費がとれないで困っている」とぼやいています。

諏訪の印象と意見

論文を調べた結果がまとめた通りで、「効くのかもしれないが、決定的な証拠はない」というのが結論です。効くとしても、「どういう患者・がんの種類・状況で有効か不明」です。

でも、風邪の場合と同様に、個々の患者と医師が試みるのは許されるべきでしょう。しかし、それは「他に有効な治療法がない」状況に一応は限るべきでしょうか。もっとも、ビタミンC大量投与が、がんの他の治療法を妨害する証拠はまったくないので、「併用」は許されて当然と感じます。患者さんが納得するなら自由ということになります。ビタミンCは1グラム1円程度と廉価な物質ですが、それでもこれだけ大量になると経済的負担は大きいかもしれません。

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