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祢津加奈子の新・先端医療の現場 最終回

低侵襲で注目の腹腔鏡による子宮体がん手術

監修●八幡哲郎 新潟大学医学部産婦人科准教授
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2012年12月
更新:2019年8月

  
「腹腔鏡での治療は患者さんの
負担を減らせます」と語る
八幡哲郎さん

子宮体がんの手術法として、今腹腔鏡下手術が注目されている。傷が小さいので、痛みが少なく回復も早い。また出血量も少なく、社会復帰も早いなど、多くの利点がある。新潟大学医学部産婦人科准教授の八幡哲郎さんによると「治療成績も開腹手術に劣らないという結果が出ている」そうだ。

初期のがんが対象腹腔鏡下手術

この日腹腔鏡下手術を受けるのは、56歳の女性。不正出血から異常に気づき、子宮体部に長さ1.2cmほどの風船型のがんが見つかった。

幸い、がんは子宮体部に限局していて、筋層には食い込んでいなかった。この段階ならば、新潟大学で行っている腹腔鏡下手術の対象になる。今日は、腹腔鏡下で子宮を全摘し、卵巣と卵管も一緒に摘出。生検のために骨盤内のリンパ節も4箇所摘出する予定だ。

午前9時半。腹部を消毒すると、助手役の医師2人が左右からおヘソの下の皮膚を引っ張りあげ、1cmほど横に切開を入れた(写真1)。これが、腹腔鏡を入れる穴になる。さらに、下腹部に5㎜ほどの切開を3箇所あけて、鉗子や電気メスなど手術器具を挿入する。切開を入れたのはこの4箇所だけだ。

切開部にトロッカーという器具を装着した後、電気メスや鉗子で腹膜や周囲の組織を少しずつ切り分けながら、子宮に近づく(写真2)。うずらの卵ほどの丸い臓器は卵巣だ。すぐ近くにある尿管の位置を確認しながら卵巣につながる動脈や静脈を慎重に焼き切る。

八幡さんによると「子宮や卵巣は尿管や膀胱、直腸などに近いので、周囲の臓器を損傷しないように確認しながら切っていくのが重要」だという。

卵管は、開口部から子宮内のがん細胞が腹腔内に散らばらないように、先端を電気メスで凝固する。その上で、子宮につながる太い動脈を焼き切る。たちまち、血流が途絶えて子宮が白っぽく変化した。

こうして卵巣や卵管を付けたまま子宮が取り出された。ここで、腟側から先端がナナメにカットされた筒を挿入(写真3)。そのラインに沿って子宮を腟から切断した。子宮は8cmほどの大きさがあるので、腹部の切開から取り出すのは難しい。そこで、通常は腟から摘出する。

今回の患者さんの場合、3cmを超える良性の筋腫が多発していたので、少々難渋したが、何とか腟からの摘出に成功した。八幡さんがメスで切り開くと、子宮の内側にはがんが広がっていた(写真4)。

切断した腟を縫合し、転移の有無を確認するため、骨盤内のリンパ節をいくつか採取して、午後1時過ぎに手術は終了。切開部が2~3針縫合されると、お腹の傷はたちまち小さく目立たなくなった。

 

■写真1

腹腔鏡の器具を挿入するための穴をあける
■写真2

術者の手元。トロッカーに器具を挿入し、手術が行われる
■写真3

腫瘍の摘出の際に使われる器具。このなかを通り子宮は取りだされる
■写真42012_12_10_06

摘出された子宮。真ん中の白い部分が腫瘍

痛みが少なく早い回復

■図5 子宮体がんの腹腔鏡手術と開腹手術の切開創の比較■図5 子宮体がんの腹腔鏡手術と開腹手術の切開創の比較

腹腔鏡はおヘソの下に1cmの穴を1つと3カ所の5㎜の穴を開ける。一方開腹はお腹を縦に大きく切開する必要がある

今、日本でも肥満や晩婚化を背景に、子宮体がんは増えている。その手術法として注目されているのが、腹腔鏡下手術だ。

現在、子宮体がんの標準治療は開腹手術とされている。だが、「開腹手術の場合、恥骨からおヘソの当たりまで長さ15~20cmほど切開することになります」と、八幡さん。そのために、術後の痛みもあり、入院は2週間、社会復帰するまでには3週間から1カ月はかかるのが普通だ。

これに対して、より体に負担の少ない方法として、八幡さんたちが早くから注目してきたのが、腹腔鏡を使った手術だ。開腹手術と手術内容は同じだが、小さな切開を4箇所に入れるだけですむ(図5)。

 

■写真6

術後の腹部。大きな傷は残らない

「患者さんの回復のしかたが全然違うのです。開腹でも腹腔鏡でも、手術の翌日から歩いてもらうのですが、術後の痛みが違います。痛みは、腹膜や皮膚の傷が原因。傷が小さい腹腔鏡下手術では、その分痛みもずっと少なく、患者さんの動きもいいのです。そのため、回復も早く、術後3日目には退院できます。術前の入院期間を含めても入院期間は4~5日。退院後の社会復帰も早く、1~2週間もあれば十分仕事や家事に戻れます」と八幡さんは語っている(写真6)。

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