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前立腺がん放射線治療後の副作用、尿道・直腸症状、勃起不全の対策

監修:萬 篤憲 東京医療センター放射線科医長
取材・文:池内加寿子
発行:2007年6月
更新:2013年8月

  

萬篤憲さん 東京医療センター放射線科医長の
萬篤憲さん

前立腺がんの治療法の中でも、3次元外部照射や小線源療法などの放射線治療を選択する人が増えています。
これらの新しい放射線治療やホルモン療法の副作用と対策について、小線源療法の第一人者・東京医療センター放射線科医長の萬篤憲さんにうかがいました。


放射線治療の副作用の現状は?
小線源療法、3次元照射では、軽くすむことが多い

小線源療法を先進的に行っている東京医療センターでは、年間360名ほどの限局性前立腺がん患者さんのうち、小線源療法(単独)が120名、小線源と3次元外部照射の併用が120名、外部照射単独を含めると8割以上の人が放射線治療を受けています。3次元照射や小線源療法などの新しい治療法は、一昔前の放射線治療や外科手術に比べて副作用や後遺症も軽いといわれていますが、実際はどうでしょうか。同センター・放射線科医長の萬篤憲さんは、こう説明します。

「放射線治療は多くの場合、副作用が出ても軽くすみ、『こんなにラクな治療でいいの?』と驚く患者さんも少なくありません。ただ、一部には、後まで尾を引く症状が残ったり、1年2年過ぎてから後遺症が出てきたりするケースもあります」

最近人気の放射線治療による副作用の症状は?
小線源では尿道症状、外部照射では頻尿や直腸症状など

[国際前立腺症状スコア(IPSS)の術後変化]
図:国際前立腺症状スコア(IPSS)の術後変化

国際前立腺症状スコア
1.残尿感 2.2時間以内の排尿 3.排尿途中の途切れ 4.排尿の我慢がつらい 5.尿勢が弱い 6.排尿開始のいきみ 7.夜間の排尿回数n最近4週間、各0-5点の合計

「3次元外部照射と小線源療法の副作用には、大きく分けて、排尿障害、直腸障害、性機能障害の3つがあります」(萬さん・以下同)

前立腺の中央には尿道、すぐ上には膀胱、後ろには直腸、周辺には勃起や排尿に関連する神経血管系や、尿道括約筋などの筋肉があり、多少の差はあれ、放射線の影響を必ず受けます。

「排尿障害」の症状には、頻尿、尿意切迫感、失禁、疼痛、血尿、排尿困難、尿閉など、「直腸障害」の症状には頻便、便意切迫感、便失禁、疼痛、血便、粘液便・粘血便、下痢、排便不快感などがあり、治療法によっても出やすい副作用が異なります。

「小線源療法では、前立腺に針をさして線源を埋め込むため、一時的に前立腺組織が腫れたり、尿道が炎症を起こしたりして、尿が出にくい排尿困難などの症状が多くみられ、長く続く傾向があります。これらの症状は、治療後1~3カ月後にピークとなり、半年で和らぎ、1~2年でほぼ消失するのが普通です。ときには治療後すぐに排尿できない尿閉になることがあり(5パーセント程度)、1カ月ほどで軽快することが多いが、まれに1~2年続く方もいます。一方、外部照射では、3次元照射やIMRT(強度変調放射線治療)などで工夫しても、照射野に直腸や膀胱の一部が入るため、血便や排便不快感などの直腸症状や頻尿がよくみられます。軽い症状が多く、2、3カ月のうちに軽快するのが普通です。治療後1~2年経ってから直腸潰瘍からの出血(1~2割程度)や腸に穴が開く直腸ろう(ごく稀)などの晩期障害が見られることもあります。尿閉になることはほとんどありません」

「性機能障害」には、射精不全とED(勃起不全)の2つの側面がありますが、EDになる割合は、外科手術による前立腺全摘と比べると少ないそうです。

「放射線治療ではどの方法でも、精嚢や精液の一部をつくる前立腺に照射するため、精液が減少し、射精が難しくなる方が少なくありません。勃起能力に関しては、手術と比較した場合、前立腺全摘術では神経を温存できた場合を含めて勃起能力が残るのは1~3割程度であるのに対し、放射線治療では治療後1年で、外部照射では5割、小線源療法では7割の人に残るといわれています。ただ、実際はホルモン療法との併用や年齢によってもだんだんに低下する傾向があり、5年後には半数程度の人に残ると考えられます。患者さんの性に対する意識や努力によっても変わってきます」

[治療法別の勃起可能(スコア2~3)の割合と経時変化]

  シード治療直前 6カ月後 1年後
放射線治療単独 25/25(100%) 18/23(78%) 17/23(74%)
ネオアジュバント
内分泌療法
40/102(39%) 65/102(64%) 66/99(67%)
抗アンドロゲン剤 22/35(63%) 25/35(71%) 22/34(65%)
LH-RHアゴニスト 9/39(23%) 24/39(62%) 26/39(67%)
MAB療法 9/28(32%) 16/28(57%) 18/26(69%)
※2003年9月~2004年12月に限局性前立腺がんの患者さん227人に放射線治療を実施。低リスク群は1シード線源(小線源療法)単独、中高リスク群には外部照射との併用療法を行いシード線源挿入前のネオアジュバント内分泌療法を86パーセントに実施。治療後の内分泌療法は実施せず。治療後6カ月、1年後の勃起能を質問票および面談にて行い、治療法別に比較した(臨床放射線 VOL51No102006より/萬篤憲ほか)

萬さんより一言

放射線とホルモン療法の併用で気をつけたいことは体力低下

放射線治療とホルモン療法を併用する場合は、半年から2年程度で治療が終わることが多いものです。ホルモン療法では男性ホルモンを止めるわけですから、勃起機能だけでなく、体力や筋力が低下し、骨や関節も弱くなって、半年から1年ほどで階段を上るのが辛くなったり、山登りやゴルフがうまくできなくなったりします。患者さんは、「年齢のせいで足腰が弱くなっちゃった」と言いますが、ホルモン療法をやめれば自然に回復してきますから、諦めず希望を持って過ごしてください。ホルモン療法中に筋肉を使わないとさらに悪化しますから、できる範囲で散歩や運動をして、カルシウムやビタミンDもしっかり摂っておくとよいでしょう。

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