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95%以上の患者さんで「臭いが改善した」との報告も もう悩まない!がん性皮膚潰瘍の臭いに効く薬が近々登場

監修●渡部一宏 昭和薬科大学准教授
取材・文●半沢裕子
発行:2015年4月
更新:2019年7月

  

「がん性皮膚潰瘍の臭いは消せますので、どうか諦めずにQOLを保って下さい」と語る渡部さん

がんが皮膚表面に現れ、潰瘍を形成し、強烈な臭いを発することがある。これを「がん性皮膚潰瘍臭」というが、がんの中でもとくに乳がんの患者さんで見られるケースは多く、この臭いは身体的にも精神的にも患者さんの大きな負担となっていた。そうした中、この臭いを改善する薬が日本で初めて承認された。臭い改善率は95%以上という非常によい成績が出ているという。

皮膚に潰瘍ができ 強い臭いを発する

図1 がん性皮膚潰瘍の症状

がん細胞は増殖して大きくなると、皮膚に浸潤(がんが広がること)したり、転移することがある。

頭頸部のがんや皮膚扁平上皮がん、肛門がん、舌がんなどでも起こる場合があるが、多く見られるのは乳がんとされている。最初は皮膚表面が赤く腫れ、大きなニキビのような固いおできができる。やがて皮膚表面にびらん(ただれ)ができ、次第に潰瘍が形成される。これががん性皮膚潰瘍だ(図1)。

この皮膚潰瘍に伴って激しい痛みや出血が起こり、加えて滲出液がしみ出す。潰瘍が大きくなると、外見的にも痛々しい状態になる。患者さんには大きな身体的不安に加え精神的にも負担となるが、さらに患者さんを苦しめるのが非常に強い臭いだ。

がん性皮膚潰瘍のある患者さんが診療を受けた直後の診察室は、次の患者さんが診察室に入れないこともあるほどの臭いだとも言われる。

乳がんでがん性皮膚潰瘍を起こす患者さんはデータによると5%前後とされるが、こうした症状を医師や看護師に話せない患者さんや在宅医療でケアできていない患者さんも少なくなく、「実際には10%くらい患者さんがいるのではないかと推測する医師もいます」と、昭和薬科大学准教授の渡部一宏さんは語る。

日本では外用薬が使えなかった

浸潤性乳がんの治療で対処が難しいのは手術、抗がん薬、放射線などの治療を行ってもまだ生き延びたがん細胞が、増殖・成長して皮膚に顔を出したケース。他の再発と同じく、まず薬物による全身治療を行うのが基本だが、全身状態(PS)などから薬物治療が難しくなると、疼痛ケアなどの緩和治療に全面的に頼ることになる。そんな中、対応が立ち遅れていたのががん性皮膚潰瘍の臭い(がん性皮膚潰瘍臭)対策だった。がん性皮膚潰瘍臭に対する治療薬(外用薬)は、実は欧米には古くからあった。抗菌薬メトロニダゾールを主成分とする外用薬だ。この臭いは潰瘍に嫌気性菌が感染することで引き起こされる。

嫌気性菌とは文字通り、空気のない場所でも繁殖できる菌だが、メトロニダゾールはその嫌気性菌に強い効果がある。しかし、日本ではメトロニダゾールを主成分とする薬はトリコモナス感染症などの治療薬としての錠剤だけで、外用薬は承認されておらず、使うことができなかったのだ。

しかし、がん性皮膚潰瘍臭は患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させ、自尊心を損なうだけでなく、ケアにあたる医療関係者、さらには患者さんの家族にも大きな負担を強いてきた。そこで、これまでは多くの病院で病院薬剤師が院内製剤としてメトロニダゾール外用製剤を作り、患者さんに提供してきたのだという。渡部さんも現職に就く前、聖路加国際病院の病院薬剤師としてこの製剤を作り、患者さんに提供してきた1人だった。

WHOやASCOでも推奨は「外用薬」としての使用

「聖路加国際病院ではがん診療のチーム医療を積極的に実践していましたので、薬剤師も医療チームの一員として積極的に患者さんのケアに関与しています。あるときの病棟カンファレンスの際、乳がんのがん性皮膚潰瘍の臭いに患者さんも医療従事者も悩んでいることを初めて知り、メトロニダゾール外用製剤の院内製剤を薬剤部で調製することを診療チームに提案しました。

最初はメトロニダゾールの錠剤を砕いて親水性軟膏やマクロゴール軟膏などの基剤と混ぜ、メトロニダゾール外用製剤を作りましたが、メトロニダゾールの錠剤のフィルムコーティングなどの不純物が残り、患者さんが使用時に違和感を引き起こすと考え、メトロニダゾールの試薬(粉末)を購入し、それに軟膏基剤を加え調製しました。さらに、患者さんの皮膚潰瘍の状態などに対応した基剤(軟膏やゲル)などを考慮し、院内製剤を提供しました。

しかし、調製するメトロニダゾール外用製剤は、聖路加国際病院では1カ月に20kgにも上り、院内製剤の原材料費は病院の持ち出しとなり、かなりの負担になります。さらに薬剤師の調製の手間、そして何よりも院内製剤は承認されていない『適応外使用』なので、使用には病院内の倫理委員会の審議が必要とともに患者さんに対してインフォームド・コンセントも必要です。そういった点から、健康保険で使えるメトロニダゾール外用薬が長く待ち望まれていました」

渡部さんは聖路加国際病院ブレストセンター長だった中村清吾さん(現・昭和大学病院ブレストセンター長、教授)などとともにメトロニダゾール外用製剤に対する臨床研究を実施し、また日本緩和医療学会、日本緩和医療薬学会、日本病院薬剤師会、日本乳癌学会の協力もあり、2010年に厚生労働省「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会」に取り上げられ、市販化に向けた要望が上がった。

すでにWHO(世界保健機関)やASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドラインでは、がん性皮膚潰瘍臭にはメトロニダゾールの外用薬が推奨されていたこともあり、厚労省では「標準治療に位置づけられる」と判断。英国でメトロニダゾール外用薬を販売している製薬会社に日本でも開発を行うよう要請した。そして2012年、日本でも臨床試験が開始され、14年12月「がん性皮膚潰瘍部位の殺菌・臭気の軽減」の効能・効果で承認。販売名「ロゼックスゲル®0.75%」として、販売される運びとなった。

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