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胆道がんの縮小手術はどこまで進んでいるか
不治の病から治せるがんへ。手術できる施設を絞りこむセンター化の動きが

監修:島津元秀 東京医科大学八王子医療センター消化器外科教授
取材・文:町口充
発行:2008年5月
更新:2019年7月

  
島津元秀さん
東京医科大学八王子医療センター
消化器外科教授の
島津元秀さん

肝臓で作られた胆汁が十二指腸に流れるまでの通り道でできるがんが胆道がん。
大きく胆管がんと胆のうがんとに分かれるが、どちらの場合も、治療の基本となっているのは手術。
従来はかなり大がかりに臓器や脈管を切除する手術が行われてきたが、近年では、より侵襲が小さい手術が取り入れられるようになってきた。

部位によって異なる胆管がん手術

[胆管がんの各部位の名称]
図:胆管がんの各部位の名称

胆管は胆汁が通る管の総称であり、肝臓内で徐々に太い管に集められ、左右2本の管が肝臓の出口付近(肝門部)で合流し、1本の太い管となって膵臓を貫き、十二指腸につながっている。

また、十二指腸に流れる途中で胆汁を濃縮し貯留する臓器が胆のうだ。

「普通、胆管がんという場合は、肝臓の外に出た胆管、つまり肝外胆管にできたがんをさします。上から肝門部胆管がん、上部胆管がん、中部胆管がん、下部胆管がんに分かれ、術式も異なります」と語る東京医科大学八王子医療センター消化器外科教授の島津元秀さんによると、胆管の周囲には門脈や肝動脈など重要な血管が走っていて、肝臓や膵臓などとも接しているため、どの程度までがんが拡がっているかによって手術も違ってくるという。

肝門部胆管がんは肝臓の出口付近から左右胆管合流部までにできるがん。肝臓内の胆管までがんが進展していることが多く、通常は肝臓を一緒に切除してがんをとる必要がある。

ただ、これもがんの進展範囲によって肝臓のどの部分を切除するかが決まってくる。浸潤が胆管の右側なら肝臓の右の部分(右葉)、左側なら左の部分(左葉)を切除する。

上部胆管がんも同様にして肝臓に近接しており、肝臓の一部を一緒にとることが多い。

中部胆管がん、あるいは下部胆管がんの場合は、膵頭十二指腸切除が原則という。

この手術は、胆管のほか膵頭部と十二指腸を同時に切除するもの。残った膵臓は小腸とつなぎ合わせるが、縫合部分から膵液、腸液が漏れる縫合不全が起こることもあり、侵襲性が高い手術といえる。

それでも、この手術は以前は胃の3分の2を同時に切除したが、今は行われないことが多い。胃切除が行われたのは胃を残すと胃潰瘍(吻合部潰瘍)になるとされたからだが、現在では胃潰瘍は薬で治る時代となり、必ずしも切除は必要なくなった。

進行するほどタチが悪い胆のうがん

[胆のうがんの深達度別生存率]
図:胆のうがんの深達度別生存率

胆のうがんの手術は、胆管がんの手術以上に千差万別で、早期がんと進行したがんとでは雲泥の差がある、と島津さん。胆のうは粘膜層、固有筋層、漿膜下層、漿膜で構成されていて、がんが粘膜の下のどこまで浸潤しているかの「深達度」によって、手術方法も異なってくるのだ。

「固有筋層までにとどまっている早期がんでしたら、ほとんどの場合は胆のうをとれば治ります。場合によっては腹腔鏡で胆のうをとることも可能ですが、これはごく限られたがんにすぎません。胆のうがんが進行して漿膜下浸潤を起こすと、リンパ節転移や肝転移に発展することが多く、そうなるとリンパ節郭清や肝切除を伴う拡大手術でないと対応できなくなります。肝切除と膵頭十二指腸切除を同時に行うこともあります。したがって、胆のうがんほど進行度によって術式が変わるがんはない、といっていいほどです。
しかも、早期がんと進行がんを比べると圧倒的に多いのが進行がんであり、手術しても再発率が高い、きわめてタチの悪いがんです」

胆道がんの手術でもっとも障害となるのは、がんが血管を巻き込んでいる場合だ。かつてはこのようなとき、「手術は不可能」とされた時代もあったが、現在は血管を合併切除することによってがんを切除することが可能となっている。

手術ができる施設を絞り込むセンター化の動きが始まった

「胆道がんに対する血管合併切除はかなりの頻度で行われています。血管をつなげないような施設では、胆道がんの手術を行うべきではない、と私は思います。また、胆道がんに対する肝切除も難しい手術です。難易度の高い手術として膵頭十二指腸切除があげられますが、この手術は合併症が多いので気をつけなければいけないものの、一定の手順を踏んで行えば、極端にいえば誰にでもできる定型的手術です。これに対して肝切除は、胆道再建や血管合併切除を伴ったりするなどバリエーションが多く、膵頭十二指腸切除以上に経験が必要な手術といえます」

胆道がんの手術は、膵臓がんとともに難度の高い手術であるため、手術する施設を絞り込むセンター化の動きがある。センター化は日本より欧米で進んでいて、規模の小さな病院や症例数の少ない病院は胆道がん・膵臓がんの手術をやらなくなり、特定の病院に集約されるようになっているという。

「日本でも、年間の症例数、経験のある外科医がいるかいないか、手術の成績といったものを公開して、あまり症例数の少ないところは手術をしないようにしようという方向になりつつあります。ひとつの目安として、難しい胆道がん・膵臓がんの手術を年間50例以上、少なくとも30例以上が、胆道がん手術を行う施設の条件といえます」

つまり、胆道がんの手術は、特定の病院で、選ばれた外科医のみが行う時代になったといえるようだ。事実、日本肝胆膵外科学会では、高難度の手術を安全かつ確実に行うことができる外科医を育てるため、「高度技能医制度」を制定。高度技能医の認定とともに、高度技能医を育成する指導医、育成施設である高度技能医修練施設を認定する事業を今年から始めている。

[胆道がん国別死亡者数]

国名 合計 男性 女性
死亡者数 順位/43 死亡者数/100,000 死亡者数/100,000
日本 15,564 1 7,091 11.5 8,473 13.2
アメリカ 3,601 3 1,332 1.0 2,269 1.6
イギリス 618 11 220 0.8 398 1.3
ドイツ 4,141 2 1,282 3.2 2,859 6.8
フランス 1,418 7 518 1.8 900 3.0
イタリア 3,208 4 1,198 4.3 2,010 6.8
韓国 3,093 5 1,599 6.7 1,494 6.3
ハンガリー 862 9 243 5.0 619 11.6
チェコ 845 10 275 5.5 570 10.9
資料:WHOデータベース 2001年度(43カ国)


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