治療困難な胆道がんの最新治療 患者に福音!23年ぶりに有効な治療薬が登場
国立がん研究センター東病院
肝胆膵内科医長の
石井浩さん
胆道がんは早期発見された場合の切除手術以外に有効な治療法がなく、「見捨てられた病気」という見方さえある。そこへ、この度、非小細胞肺がんや膵がんの治療薬として認められている抗がん剤のジェムザールが胆道がんの治療薬として承認された。胆道がんの最新治療と今後の課題を探ってみる。
これといった治療法がない
胆道は、肝臓から出てくる胆汁という消化液の通り道だ。胆汁は肝臓の左肝管と右肝管という管を通って外に流れ出る。2つの肝管は合流して総肝管となり、さらに胆嚢から出てくる胆嚢管と合流して総胆管となる。総胆管は十二指腸に流れこむ場所で膵管とも合流する(図1)。
胆汁には2つの重要な機能がある。1つは脂質の消化と吸収を助ける機能であり、もう1つは破壊された赤血球のヘモグロビンや過剰なコレステロールなどの老廃物を体外へ排泄する機能だ。胆道ががんに侵されれば、当然この胆汁の大切な働きに障害が出て、命に関わる事態に発展する。
胆道がんは欧米に比べて東洋ではかなり頻度が高い。また、南米のチリでは、胆嚢がんが女性のがん死因の第1位となっているなど、発生頻度に地域差が見られる(図2)。日本ではがん死因全体の第6位であり、2002年には1万5713人がこのがんで命を失っている。「罹患数と死亡数がほぼ同じ」といわれるほど治癒の可能性が低いがんだ(図3)。このように比較的身近にある怖いがんであるにもかかわらず、日本人にはあまりその認識は高くない。石井さんはこう語る。
「なぜ胆道がんの発生頻度に地域格差があるのかも、リスクファクター(危険因子)もよくわかっていません。日本人にあまり認知されていないのは、このがんは早期発見して切除する以外に、これといった治療法がなかったからだと思います。医療関係者にも『この病気ではあきらめるしかない』との認識があり、闇に葬られてきたからではないでしょうか」
画像検査だけで診断が可能
胆道がんが見つかるきっかけは、黄疸と疼痛の2つの症状だ。黄疸は赤血球の老廃物であるビリルビン(胆汁の主な色素)が胆汁の中へスムーズに流れ込めなくなって、身体の表面にそれが黄色く現れる現象である。
じつは胆道がんの中にも、十二指腸乳頭部がん、肝外胆管がん、胆嚢がん、肝内胆管がんの4種類がある。このうち十二指腸乳頭部がんと肝外胆管がんの2つは、たとえ5ミリくらいの小さながんでも胆汁の流れが妨げられ黄疸が生じる。そのため、黄疸で受診する胆道がんは、比較的早期発見となり80~90パーセントは切除が可能で、切除できればいったんは治る。
これに比べて胆嚢がんや肝内胆管がんなどは高度に進行してからでないと黄疸という症状が現れず、切除率は10~20パーセントと低くなってしまう。1992年から2002年までに国立がん研究センター東病院に入院した335名のすべての胆道がん患者のうち、切除が可能だったのは139名(41パーセント)にすぎなかった(図4)。
「1口に胆道がんといっても、切除できるがんと切除できないがんの2系統があり、これらは別扱いにする必要があります。ただし、運良く切除できた胆道がんでも、後に転移・再発を来たすことが少なくありません」
がん検診などでも、胆道がんの早期発見に結びつく機会はほとんどないが、ただし、検診の超音波検査で胆嚢ポリープとして進行したがんが高率で見つかる場合は別だ。それがたとえば1センチ以上の大きさのものであったり、形が有茎性ではなく盛り上がった隆起性の形をしているものであれば、例外的に切除可能ながんとなる。
一方、胆道がんの診断は、超音波検査、CT検査、MRI検査の3つの組み合わせでほぼ可能とされている。内視鏡的逆行性膵胆管造影検査(ERCP)や血管造影と呼ばれる検査手段が採用されることもあるが、「それらはすべてオプションであって、3つの検査法以外は必ずしも必要はないと思う」とのことである。
「1つ言っておきたいことは、胆道がんを黄疸で見つけても、黄疸を取るために胆道ドレナージという治療を急ぐ必要はないということです。先にドレナージを行ってしまうと、その後のCT、MRIでがんの進展度診断が困難になり、根治切除の実施可能性が予測できなくなってしまう。胆道がんを発見した医療施設では、黄疸治療を行う前にぜひ患者さんをがん専門病院へ紹介、送致してください」
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