手術ができないと診断された患者さんにも根治治療の可能性
術前化学療法により胆道がんの治療成績が向上!?
手術できないと診断されても
あきらめないことが大切ですと話す
遠藤格さん
胆道がんの治療は手術を行うのが一般的である。
しかし、手術できたとしても5年生存率は低く、治療成績はそれほど良くないのが現状である。
そのような患者さんを救おうと横浜市立大学付属病院では術前化学療法の研究が行われている。
手術だけでは不十分な胆道がん治療
[図2 肝門部胆管がんの手術後の5年生存率]
胆道がんの根治療法は、現在のところ手術しかない。横浜市立大学大学院医学研究科消化器・腫瘍外科学教授の遠藤格さんによれば、胆道がんの手術は1990年代に大きく進歩したという。
「解剖のことがよくわかってきたのに加え、CTなどの検査機器もよくなりましたし、手術のテクニックも向上しました。かつては治癒を目指した手術は少なく、黄疸などの症状を抑える手術が中心でしたが、90年代からは、主として治癒を目指した手術が行われるようになりました」
しかし、治療成績は必ずしも満足できるものではなかった。グラフは、横浜市立大学付属病院における、胆道がん手術を受けた患者さんの5年生存率である(図1)。
早期胆のうがんとファーター乳頭部がんの成績はまずまずだが、肝門部胆管がんは3.1%、下部胆管がんは33.7%、進行胆のうがんは30.0%、肝内胆管がんは31.8%だった。
「手術できても、5年生存率は30%余り。胃がんが60~70%、乳がんが90%、大腸がんが70%ですから、胆道がんは極端に悪いといえます」
こうした成績から、手術だけでは不十分と考えられるようになった。
肝門部胆管がんで切除手術ができた患者さんについて、もう少し詳しく調べたデータがある(図2)。
リンパ節転移があると治療成績は悪くなる
周囲のリンパ節に転移があった人と、転移がなかった人の5年生存率を比べたものだ。患者さんの数は、どちらもほぼ同じだった。
「リンパ節転移がなかった人は、5年生存率が40~50%で、半数近くが助かるという結果でした。ところが、リンパ節転移があった人の5年生存率は、15~20%だったのです」
もう1つの要素が、肝動脈や門脈といった血管に、がんが浸潤しているかどうかである。血管に浸潤している場合も、5年生存率は低くなる。
「リンパ節転移があり、血管への浸潤もある場合、切除手術を行っても、5年間生存した患者さんはいませんでした。この成績は、手術できなかった人と変わりません。手術した意味が乏しかったのです」
リンパ節転移や血管への浸潤がある人は、切除手術を受けても、目に見えない微小がんが残っている可能性が高い。それが次第に大きくなり、再発してしまうのである。
膵がんは術前治療で治療成績は向上
治療成績が悪い進行した患者さんたちを救おうと、膵がんの治療が参考にされることになった。膵がんで切除手術を受けた場合の5年生存率は、抗がん剤が使えなかった時代は15%程度と低かった。抗がん剤が使えるようになった現在でも20~25%である。これをなんとかしようと、海外では術前治療の臨床研究が行われている。
「注目したのは、アメリカのMDアンダーソンがんセンターで行われた膵がんの術前化学放射線療法です。7週間かけて、ジェムザール(*)による化学療法と放射線の体外照射を行い、それから手術します。5年生存率は35%くらい。かなりよくなっていたのです」
成績が改善した理由は2つあるという。1つは、抗がん剤と放射線で叩くことにより、微小がんを残さずにすんだこと。もう1つは、手術しても治せなかった人に、余計な手術をしなくてすんだことだ。
「この研究には86人が参加しましたが、7週間後に手術を受けた人は74人でした。さらに、開腹してから転移などが見つかった人もいて、結局切除できたのは64人です。7週間の間に転移が現れてくるような人は、最初の時点で手術をしても、救えなかった患者さんです。そういう患者さんに、無用な手術をしなくてすんだとも考えられるのです」
このような臨床研究を参考に、胆道がんの術前化学療法の臨床研究がスタートした。
*ジェムザール=一般名ゲムシタビン
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