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筋層浸潤膀胱がんに4者併用膀胱温存療法を施行 ~生命予後や合併症抑止に大きく貢献~

監修●田中 一 東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科学講師
取材・文●伊波達也
発行:2020年6月
更新:2020年6月

  

「4者併用膀胱温存療法は、その生命予後や合併症の抑止に大きく貢献できるということが分かったと言えます」と述べる田中さん

筋層に浸潤した膀胱がんに対する標準治療は膀胱全摘除術だが、近年、集学的治療により、膀胱を温存する治療が可能になりつつある。膀胱温存法としては、「3者併用膀胱温存療法(TMT)」という治療が行われることが多いが、東京医科歯科大学では、さらに一歩進めた、「4者併用膀胱温存療法(TeMT)」に取り組んでいる。このチームの一員である、同大学院腎泌尿器外科学講師の田中一さんに、その現状と今後の展望について聞いた。

膀胱全摘除に代わる温存療法が認められるように

「膀胱がんは、膀胱の粘膜から発症するがんです。膀胱がんの治療法は、膀胱のどれくらい深いところまで浸潤しているか(深達度)で変わります。病巣が小さく浅ければ、膀胱を全摘除はしませんが、筋層に浸潤していると全摘除でなければ根治(こんち)しないというのが従来の考え方でした。

しかし、膀胱の全摘除手術は、周術期合併症の発生率は30%、死亡率は1~3%との報告もあります。その大きな手術侵襲は患者さんにとって辛(つら)いことでした。そんな中、近年、アメリカを中心に、筋層への浸潤があっても膀胱を温存できる治療として認められるようになったのが〝3者併用膀胱温存療法〟です」

そう説明するのは、東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科学講師の田中一さんだ。

3者併用膀胱温存療法では再発例が11~19%

3者併用膀胱温存療法とは、筋層浸潤膀胱がんで、経尿道的膀胱腫瘍切除術が適応になる患者に対して、最大限の腫瘍切除を行い、その後、化学放射線療法(55~65Gy+抗がん薬の併用)を行う治療法だ。

そして、治療後に効果判定を行い、明らかにがんの残存が見られた場合には、この時点で全摘除を行う。がんが見られない場合や、ごく微小な粘膜に留まっている場合には、そのまま膀胱を温存するというものだ。

3者併用膀胱温存療法には、初めから根治(こんち)線量(フルドーズ:55~65Gy)を照射する化学放射線療法を行い、その後に効果判定をする〝連続プロトコル〟と、初めに導入化学放射線療法(40~45Gy)を行い、効果判定の後に追加の化学放射線療法を行う〝分割プロトコル〟という治療パターンがある。〝連続プロトコル〟では、実際の施行が容易ではあるが、膀胱全摘除の時期の遅延と、周術期合併症のリスクが増える危険性があるという。

「3者併用膀胱温存療法は良い治療法です。ただし、温存後に筋層浸潤膀胱がんが再発するケースが11~19%あるのです。もし、温存後に再発し、その時点で全摘除を行った患者さんでは、予後が悪いということがわかっています。ここで、私たちは、3者併用膀胱温存療法の〝分割プロトコル〟での追加治療を、膀胱部分切除とした4者併用膀胱温存療法を実践しています」

膀胱部分切除と骨盤リンパ節郭清を組み込む

4者併用膀胱温存療法とは、経尿道的膀胱腫瘍切除術後に導入化学放射線療法を行い、その治療効果判定によって、温存が可能と判定された場合に、3者併用膀胱温存療法で行う追加化学放射線療法の代わりに、膀胱部分切除と骨盤リンパ節郭清(かくせい)を組み込んだ治療法となる(図1)。

■図1 4者併用膀胱温存療法の治療の流れ

MIBC:筋層浸潤膀胱がん TURBT:経尿道的切除術

「部分切除を行うことによって、効果判定かつ仕上げの治療を兼ねることができます。手術で組織を採取しますので、病理学的治療効果の判定ができ、より正確な診断につなげられるわけです」

田中さんたち東京医科歯科大学腎泌尿器外科学のチームは、1997年よりこの治療法に着手している、世界的なパイオニアだ。

当初は、より正確な治療効果判定の目的で、この治療法を導入したが、症例を蓄積するにつれ、部分切除を加えることにより、筋層浸潤がんの再発が少ないことがわかってきたという。

5年非再発生存率97%、がん特異生存率93%、全生存率91%

同チームは、その研究成果を、2019年、英国医学誌「BJU International」に発表した。さらに、2019年10月に北九州市で開催された日本泌尿器腫瘍学会第5回学術集会において、「筋層浸潤膀胱癌に対する4者併用膀胱温存療法(TUR+低用量化学放射線療法+膀胱部分切除)」という演題で報告した。

概要は以下のとおりだ。

対象患者は、1997~2016年に同科で治療を受けた転移のない筋層浸潤膀胱がん(MIBC)患者312例のうち、①MIBCが単発かつ限局的(膀胱の25%未満の面積)、②広範な上皮内がんがない、③膀胱頸部に腫瘍が及んでいない-というプロトコル組み入れ基準を満たして、経尿道的切除術(TURBT)を受けた154例に対して、術後に低用量化学放射線療法を実施した。

治療後、膀胱MRI、尿細胞診、画像診断、経尿道的生検で効果判定を行った結果、完全奏効(CR)が125例(81%)だった。そのうちの107例(69%)が膀胱部分切除と骨盤リンパ節郭清を受けて、4者併用膀胱温存療法を完遂した。

膀胱部分切除と骨盤リンパ節郭清の結果、107例中11例(10%)でpT1以上の残存がんを認め、2例(2%)でリンパ節転移を認めた。

観察期間(中央値)48カ月で、107例における5年MIBC非再発生存率は97%、がん特異生存率93%、全生存率91%だった(図2)。

■図2 4者併用膀胱温存療法の治療成績(プロトコル完遂107例)

「治療完遂後、膀胱部分切除で浸潤がんが切除された11例については、3例に転移再発を認めましたが、筋層浸潤がんや膀胱全摘除を必要とする再発は認められていません。全例で最終観察時点まで膀胱温存を達成しています」

導入化学放射線療法を含めた、全プロトコル組み入れ症例154例の5年がん特異生存率は83%、全生存率は77%と良好だ(図3)。

■図3 4者併用膀胱温存療法の治療成績(全プロトコル組み入れ154例)

<縦軸>Proportion surviving →生存率 <横軸>Years after treatment →生存期間(年) Number at risk →対象患者数
<図内>A ・Cancer specific survival(154 patients enrolled in the protocol) →疾患特異生存率(全プロトコル組み入れ154例)
・At 5 years: 83% →5年生存率: 83%
<図内>B ・Overall survival(154 patients enrolled in the protocol) →全生存率(全プロトコル組み入れ154例)
・At 5 years: 77% →5年生存率: 77%

機能学的な面では、SF-36という、健康状態や身体の痛み、心の問題ほか、包括的なQOL (生活の質)を36項目検証するスコアや、最大尿流率、最大1回排尿量、残尿量、夜間排尿回数、IPSS(国際前立腺症状スコア)、OABSS(過活動膀胱症状質問票)、ICIQ-SF(尿失禁症状・QOL評価質問票)など、さまざまな項目において、4者併用膀胱温存療法を受けた群は、同年齢対象群と同等だった。

「この結果によって、筋層浸潤膀胱がんの温存療法において、私たちの4者併用膀胱温存療法は、その生命予後や合併症の抑止に大きく貢献できるということが分かったと言えます」

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