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化学療法でがんが縮少し、手術可能なケースも
転移性膀胱がんはより副作用の少ない治療へ

監修:深沢 賢 千葉県がんセンター泌尿器科医長
取材・文:文山満喜
(2012年9月)

深沢賢さん
「GC療法の登場によって
副作用は少なくなった」と話す
深沢賢さん

転移性膀胱がんの標準治療は従来から抗がん剤の併用療法で、以前は副作用が強い治療が行われてきたが、ジェムザールの登場により副作用は大幅に軽減され、患者さんのQOL(生活の質)向上にもつながっています。

全体の1割に満たない転移性膀胱がん

膀胱は骨盤内にある臓器で、腎臓から送られてくる尿を一時的に溜める役割を担っています。ここにできるがんは、尿路にできるがん(腎盂・尿管・膀胱)のなかで1番罹患者数が多いのです。膀胱がんの現状について、千葉県がんセンター泌尿器科医長の深沢賢さんはこう説明します。

「膀胱がんは古くは染料との深い関係が指摘されてきましたが、発がん因子とされる染色物質が製造中止となっていることから環境因子による膀胱がんの発生はなくなりました。しかし、喫煙は重要な発がん因子であると考えられているため、油断はできません。現在、膀胱がんの患者さんの数は増え続けており60歳以上の男性で喫煙歴のある方は注意が必要です」

[図1 膀胱がんのタイプ]
図1 膀胱がんのタイプ

筋層まで進行していないがんを表在性膀胱といい、筋層までがんが浸潤しているものを浸潤性膀胱がんという

 
[写真2 表在性と浸潤性の転移のしやすさ](MRI画像)
写真2 表在性と浸潤性の転移のしやすさ(MRI画像)

膀胱がんに罹った男性の50%以上、女性の約30%の人は、喫煙が原因によって発生しているという試算もあります。また、年齢別にみた罹患率では男女ともに40歳未満の若年者では低く、60歳以降で増加し、男性が女性より約4倍罹りやすいのも特徴です。今後高齢化が進むことでより患者数は増えることが予想されています。

具体的に膀胱を見ていきますと、膀胱は筋肉組織でできている袋状の臓器で、内側から順に粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜と呼ばれる筋肉組織(膀胱壁)の4層構造となっています。

膀胱がんは膀胱の組織内に発生する病気で、表層(粘膜、粘膜下層)にとどまっているがんを「表在性膀胱がん」、筋層(筋層、漿膜)に及んだがんを「浸潤性膀胱がん」と分類しています(図1)。

浸潤性膀胱がんはがんの根が深く、転移を生じやすいという特徴があります。一方、根の浅い表在性膀胱がんからの転移は稀で、転移の可能性は1割に満たない程度とみられています(写真2)。

浸潤性膀胱がん、あるいは表在性膀胱がんが浸潤性膀胱がんに進行したものがさらに進行し、肺やリンパ節などの他臓器に転移したがんのことを「転移性膀胱がん」といいます。転移性膀胱がんの患者数は、膀胱がん全体の1割に満たないと認識されています。転移部位はリンパ節および肺がまずあげられます。

抗がん剤の併用療法「GC療法」が標準治療に

[図3 MVAC療法とGC療法の効果](生存率)
図3 MVAC療法とGC療法の効果(生存率)

生存率でMVAC療法、GC療法では両者に有意差は現れなかった

 
[図4 MVAC療法とGC療法の主な副作用]
図4 MVAC療法とGC療法の主な副作用

転移性膀胱がんは基本的には手術は適応されず、抗がん剤の多剤併用療法が標準治療となります。

標準治療法は、1985年に誕生したMVAC療法と呼ばれる抗がん剤治療が長く使われてきました。

MVAC療法とは、メソトレキセート()、エクザール()、アドリアシン()、シスプラチン()の4剤を組み合わせた治療法です。効果は、がんが縮小したり、消滅したりする患者さんの割合(奏効率)が50~70%、生存期間(中央値)は約12~14カ月でした。

その後、新しい抗がん剤治療の研究が進み、ジェムザール()とシスプラチンを組み合わせたGC療法が開発されました。

この新しいGC療法とMVAC療法の効果については、2000年に海外で、それぞれの効果を比較した臨床試験が行われました。結果は、生存期間などの治療効果は同等であるけれども、GC療法はMVAC療法に比べて副作用が少ないことが示されました(図3、図4)。

この成績をもとに、欧米ではGC療法が転移性膀胱がんの標準治療法となっています。また、国内でもジェムザールが膀胱がんの保険承認を取得した2008年からGC療法による治療が行われ、現在、日本でもGC療法が標準治療法となりつつあります。

「千葉県がんセンターでも、転移性膀胱がんの治療では、最初に行う化学療法は、MVAC療法ではなく、GC療法で行っています」(深沢さん)

メソトレキセート=一般名メトトレキサート
エクザール=一般名ビンブラスチン
アドリアシン=一般名ドキソルビシン
シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
ジェムザール=一般名ゲムシタビン

アレルギーが起きる場合はMVAC療法を選択

ただし、すべての患者さんがGC療法を選ばれるわけではないそうです。例えば、ジェムザールでアレルギー反応が起きてしまう患者さんには、MVAC療法を最初の治療選択として適用します。

GC療法、MVAC療法後にがんが進行してしまった場合の次の化学療法で使われる薬剤については、未だ標準的な治療法は確立していません。現在、検討が重ねられている段階ではありますが、一部の施設では、セカンドライン治療としてタキソール()を軸として他の薬剤を組み合わせた多剤併用療法が行われています。

千葉県がんセンターではタキソールとジェムザールを併用するTG療法が行われており、がんが縮小したり、消滅したりする割合(奏効率)は約3割と、良好な成績が得られているそうです。

「GC療法とMVAC療法はいずれもシスプラチンを使ったいわゆる白金製剤をベースとした同じような特徴を持つ抗がん剤の組み合わせですので、GC療法後に2次治療としてMVAC療法を、MVAC療法後にGC療法を用いることは残念ながら難しいと考えられています」(深沢さん)

タキソール=一般名パクリタキセル