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骨髄腫の場合、必ずしも早期診断早期治療の鉄則が当てはまらない
あなたはどの病型?治療法が明確化された多発性骨髄腫の新診断基準

監修:吉田喬 富山県立中央病院内科部長
取材:「がんサポート」編集部 構成:林義人
発行:2009年9月
更新:2014年1月

  

吉田喬さん
富山県立中央病院内科部長の
吉田喬さん

高齢化とともに増加している多発性骨髄腫。しかし、骨髄腫と診断がついたからといって、すぐ治療を始めたほうがいいとは限らない。そのあたりの治療の是非や内容を示す病型分類が新しい国際診断基準で明確になった。

社会の高齢化とともに骨髄腫患者が増える

多発性骨髄腫は白血病や悪性リンパ腫と同じ“血液がん”の1つ。治癒は非常に困難で、全身に骨病変を来して骨の痛みや骨折に苦しむ怖い病気として知られてきた。しかし、最近は治療薬の進歩でかなり延命できるようになっている。

発症の年齢中央値は66歳で、40歳未満の発症はほとんどない。男性の発症が女性より多く、約60パーセントを占める。高齢、男性に多い病気で、社会の高齢化とともに患者数は増えていくとみられる。

骨の中にある骨髄は、造血幹細胞という“血液の種”から血液を作り出す“血液の工場”だ。工場が正常に働いていれば、赤血球や白血球、血小板などそれぞれ役割を持った正常な血液細胞が作られる。血液細胞のうち外敵から体を守る働きを受け持つ白血球には、顆粒球、リンパ球、単球などの種類があって、このうちリンパ球にはおもにB細胞とT細胞、ナチュラルキラー細胞という3つの種類がある。T細胞は体に侵入したウイルスや細菌などの病原体を見つけるとB細胞に「やっつけろ!」と伝え、B細胞はこの指令を受けて異物にくっついて排除する働きを持った「免疫グロブリン」というタンパク質(抗体)を作り出す。B細胞が完全に成熟したものを「形質細胞」というが、この形質細胞が“がん”化して「骨髄腫細胞」になるのが多発性骨髄腫という病気だ。

がん化した免疫細胞が異常な抗体を産生

形質細胞ががん化すれば骨髄の中では骨髄腫細胞ばかりがたくさん生まれて、それ以外の血液細胞が作れなくなるなどの問題が起こる。さらにこの骨髄腫細胞は免疫グロブリンの不良品として「Mタンパク」というものを作り出し、これが体にいろいろな悪さをする。富山県立中央病院内科部長の吉田喬さんはこう話す。

「これまでは腰痛など、骨痛や骨折の症状がきっかけで見つかることの多い病気でした。しかし、最近では検診や他の病気で血液生化学検査を受けて異常が見つかり精密検査を受けた末、Mタンパクが見つかり骨髄腫と診断されるケースが増えています」

顕著な症状は骨痛と意識障害


45歳男性、多発性骨髄腫ステージ3。頭部全体にパンチドアウト(骨が溶けてもろくなる)が見られる

多発性骨髄腫の症状は様々で、種類や程度はそれぞれ異なる。最も多い症状は骨痛で、がん化した形質細胞がまわりの骨に侵入して破壊しながら増え続けたり(溶骨性変化)、腫瘤(かたまり)をつくって骨を圧迫したりするため起こる。また、痛みだけでなく全身の至るところの骨が弱く折れやすくなる。腰椎X線写真で圧迫骨折を認め、骨髄腫が疑われるケースも多い。

「痛みの具合も、どこの骨が損傷するかによって違います。特に、腰は荷重骨であるため、痛みを訴えるケースが最も多く見られますが、部位はそこだけに限定されず、背部、胸部、四肢などにも見られます。また、骨折のタイプも、圧迫骨折かどうかなどで痛みの強さや痛みの感じ方が異なったりします。骨粗鬆症や一般的な骨折、臓器がんの骨転移などでも骨痛は起こりますし、骨髄腫だけに特徴的な骨痛があるわけではありません」

その他、正常な血液細胞が作れなくなることに伴う症状もある。赤血球が少なくなって貧血になってめまいや動いた時の動悸、息切れなどが現れることもある。また、正常な白血球が少なくなることにより発熱しやすくなり、感染症に対する抵抗力も弱まる。さらに血小板が少なくなれば血液を固める機能を低下させるため、あざや出血が生じやすくなる。

「動悸や息切れなど、一般的に貧血と言われる症状は脳が貧血状態になった『脳貧血』に伴うものです。しかし、骨髄腫による貧血は脳だけでなく体全体の血液が少なくなるもの。体全体が貧血になると、その状態に合わせて体が徐々に慣れてくるので、あまり脳貧血のような症状を感じることはなく、自覚症状はありません。したがって血液検査を受けた結果、貧血があるのが見つかり、そこから精密検査をしたら骨髄腫が見つかるというケースのほうがずっと多いでしょう」

多発性骨髄腫が進行すると、血液中に骨が溶け出すことにより高カルシウム血症が起こる。これにより多飲、多尿、のどの渇き、食欲不振、吐き気、頭痛、便秘、悪心・嘔吐、意識障害などの症状が出る。さらにMタンパクが腎臓の組織にくっついて腎機能が悪くなり、むくみ、尿タンパク、腎不全が起こりやすくなる。また、正常な免疫細胞が作れなくなって免疫力が低下するために、感染症になるリスクも高まってくる。髄外腫瘤により脊髄圧迫を来したり、Mタンパクが浸潤して手根管症候群(※1)が見られるなど、神経症状が現れる場合もある。

「貧血や腎障害、感染症などから骨髄腫発見に結び付くようなことは実質、あまりありません。あらかじめ内科的な所見があり、精密検査をして、初めて骨髄腫がわかるというケースが大半です。ただ、高カルシウム血症による意識障害に関しては、最初の検査のきっかけとなることがよくあります」

※1 手根管症候群=手首にある手根管を通る正中神経が圧迫され、親指、人差し指、中指がしびれたり、ヒリヒリしたりする症状がある

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