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患者の80%以上に起こる骨病変をいかに防ぎ、治療するかがQOL改善の鍵
多発性骨髄腫の治療はここまできた!QOLの改善と希望に向かって

対談:清水一之さん 名古屋市立緑市民病院院長
上甲恭子さん 日本骨髄腫患者の会副代表
撮影:河合修 写真家
発行:2008年9月
更新:2013年4月

  

清水一之さん

名古屋市立緑市民病院院長
清水一之さん
昭和47年名古屋大学医学部卒業。ニューヨークのメモリアル病院で3年間がん診療に携わり、平成18年より現職。日本臨床血液学会評議員、日本血液学会代議員、ASH会員、ASCO会員、英国MRC骨髄腫治療研究グループメンバー、米国IMF scientific advisor、米国国際骨髄腫作業グループメンバー、日本骨髄腫研究会幹事、日本骨髄腫患者の会顧問医師

上甲恭子さん

日本骨髄腫患者の会副代表
上甲恭子さん
1999年父親の骨髄腫診断後日本骨髄腫患者の会に入会。2001年役員に就任。2006年から現職。会報誌の編集、セミナーの運営、セカンドオピニオン相談窓口、サリドマイド早期承認などを担当、あらゆる面から多発性骨髄腫患者さんの闘病をサポートすることをライフワークとしている


多発性骨髄腫は、白血病や悪性リンパ腫と同様の血液のがん。治癒させることが難しく、骨痛などの合併症に苦しめられる非常につらい病気とされてきたが、ここに来て新しい治療法や支持療法が次々に開発され、患者さんのQOL(生活の質)や予後の改善が大きく進んでいる。とはいえ、すべての患者さんが最善の治療やケアに辿りつけているというわけではない。最善の治療とケアを受けるためにはどうしたらいいだろうか。

好発年齢は60代後半。でも、若い人もなる

上甲 多発性骨髄腫は稀な病気で、がんに関心の高い方でもこの病気についてはあまりご存知ない方が多いようです。まず先生から、この病気はどんな病気か、説明していただけますか?

清水 多発性骨髄腫は白血病や悪性リンパ腫と同じ血液のがんです。悪性リンパ腫が人口10万人当たり5~7人という発症率なのに対して、多発性骨髄腫は10万人に3人とこれに次ぐ頻度です。骨髄腫の好発年齢は60~70歳ですが、若年で発症する例がないわけではなく、経験したいちばん若い患者さんは34歳です。日本には約1万数千人の患者さんがいて、毎年新たに4000人以上が発症し、4000人近くの方が亡くなっています。

上甲 病気の名称は病態からつけられていますね。

清水 骨の中にある骨髄は血液の工場で、幹細胞という大元の細胞から赤血球や白血球、血小板などの血液細胞が作られています。免疫をつかさどる白血球の一種であるリンパ球の中には外敵と闘う「免疫グロブリン」と呼ばれる抗体をつくるBリンパ球があり、これが成熟した細胞を形質細胞と呼びます。この形質細胞が体中のあちこちの骨髄でがん化するので「多発性」骨髄腫と呼ばれています。

整形外科を訪れる人が多い。しかし、診断は難しい

上甲 様々な症状が現れる病気とされていますね?

清水 そうですね。症状は様々で、その程度も1人ひとり異なります。この病気では、Mタンパクと呼ばれる役に立たない免疫グロブリンが過剰につくられる一方で、肝腎な正常の免疫グロブリンは低下するために、肺炎などの感染症にかかりやすくなります。またMタンパクは腎臓を詰まらせることがあって腎不全にもなることもあります。さらに、がん化した形質細胞は骨髄腫細胞と呼ばれますが、これがやたらに増える一方、骨を溶かす破骨細胞を活性化するため骨がどんどん壊されます。なかでもやっかいなのは、骨折などの骨病変です。上甲さんのお父さんもそうでしたね?

上甲 はい、私の父が多発性骨髄腫の診断を受けたのは63歳の時でした。50代の頃からずっと腰痛持ちだったのですが、ある時、道で人にぶつかったのがきっかけで、2週間くらいの間にとても激しく痛みを訴えるようになったのです。整形外科を受診しましたが「打ち身」以外の特別な診断はつかず、しかし痛みが増していく様子は「これは尋常ではない」と感じました。1カ月くらい経った頃でしょうか、血液検査をしたところ、貧血がひどく腎臓機能も随分落ちていたので整形外科の先生はピンとこられたのでしょうか、血液内科がある病院の受診を勧められました。そして、気が進まない父を説得し血液内科で検査後、医師から手渡されたメモに「多発性骨髄腫が疑われる」という内容が書かれていました。もちろんそんな病名は見たことも聞いたこともありません。ただ“腫”という漢字のイメージから「がんではないか」と想像でき、非常に衝撃を受けたことを覚えています。ぶつかってから1カ月半経っていました。

清水 多発性骨髄腫の患者さんが最初に受診するきっかけとして、骨痛や病的骨折から整形外科を訪れるケースが最も多いですね。脊椎の圧迫骨折や肋骨、腕や足の長管骨など病的骨折や溶骨性病変がよく見つかります。それから感染症にかかりやすいことから、年齢が若い割に肺炎を起こしたりして呼吸器内科を受診する人もいます。腎臓機能が衰え、腎不全となって尿が出なくなり腎臓内科を受診することもあります。この病気を見たことのない医師がこの病気の診断をつけることはとても難しい。

血液内科の専門医にいかに早くめぐり会うか

「患者と医師は互いに情報交換し合い、患者は自分らしく闘病し、医師はそれを支える関係ができるといいですね」と2人は意気投合

上甲 患者さんに聞くと、骨髄腫の診断がつく前に、時間がかかった人がけっこういます。中には「ただの腰痛」と思い整体治療を受けて骨の状態を悪化させた人もいます。

清水 多発性骨髄腫の診断は難しく、造血器腫瘍の中で診断基準があるのは、この病気だけです。全身の骨の写真、骨髄検査、血液検査などでの異常を診断基準に照らして初めて多発性骨髄腫と診断されます。診断がつかず骨髄腫の治療が行われないと、患者さんによっては数カ月の間に非常に病気が進行し、腎臓が悪くなったり貧血を頻繁に起こしたりしてしまいます。

上甲 私の父も打ち身による痛みと思い込み整形外科にかかっているうち、腎臓がずいぶん悪くなっていました。血液内科で骨髄腫の診断がついた時には、「あと何日か腎臓のケアが遅れていたら人工透析になっていた」と言われました。

清水 腎障害は早い段階で治療をすれば腎臓機能を元に戻せることができるのですが、手遅れになると戻せなくなってしまいます。早期診断が大切ですね。ところが、腰痛などの自覚症状で受診しても、ある程度の年齢になれば誰でも腰痛が出て不思議ではないので、骨髄腫の診断が遅れがちになるのです。実際に圧迫骨折を起こした患者さんの中に骨髄腫の患者さんがどのくらいいるかというと、1~2パーセントくらいでしょう。ですから、患者さんはなるべく早い時期に血液内科の医師にめぐり会い、正しい診断を受けることが大事ですね。

誰もが最適の治療に辿りつけるわけではない

上甲 骨髄腫は発症の年齢によっても悩みが違いますが、患者さんの共通している悩みは、診断当初はどういう病気なのかよくわからずに、これからどうなるのか、どこに相談したらいいのか、ちゃんと診てくれるお医者さんはどこにいるのかと途方に暮れるところです。患者さんすべてがベストの治療法に辿りつけているわけではないのです。

清水 骨髄腫の治療では、進行を抑える治療、合併症を抑える治療など、やるべきことはたくさんあります。最近になって新規薬剤も次々出てきて治療が大きく変化し、より長い延命が可能になってきました。患者さんたちにそうした事実を知って希望をもってもらうことが大切ですね。骨髄腫のことをよく分かっているお医者さんとして、患者の会の顧問医師に診てもらうことも1つの方法です。

上甲 骨髄腫の治療は若い患者さんと高齢者で異なっていますね。

清水 そうですね。治療は65歳以下を対象としたケースと66歳以上のケースに大別されます。65歳以下の場合は自家末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法(以下、自家移植)、66歳以上はMP療法を始めとする通常量の化学療法が行われるのが一般的です。最近は元気な人が多いので70歳くらいでも大量化学療法が可能な場合もありますが、一応診療ガイドラインとしては65歳を区切りとしています。大量化学療法は1993年から可能になりましたが、従来行われてきた通常量の化学療法で治療した場合は、生存期間の中央値が3.1年くらいだったのに対して、大量化学療法ではこれが4.4年になり、1.3年くらい生存期間が延びています。

上甲 ところが、若い患者さんの中には自家移植の適応がありながら、その最適の治療に出会えない人がいらっしゃいます。セカンドオピニオンの相談で、40代、50代の方から「骨髄腫の治療について勉強してみたら、どうも自分が現在受けているMP療法は標準治療ではないように思う」といった相談が少なからずあります。病院によっては、最初から「うちは骨髄腫に対しては全員MP療法を投与する方針を採っている」といった考えの医師もいるようです。

MP療法=抗がん剤のアルケラン(一般名メルファラン)と副腎皮質ステロイドのプレドニン、プレドニゾロン(一般名プレドニゾロン)との併用療法


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