術後ホルモン療法:サンアントニオ乳がんシンポジウム2012発表 ホルモン薬服用10年に延長で、再発リスクが低下
ホルモン受容体陽性の乳がんではホルモン療法が有効だが、術後補助療法の標準治療であるタモキシフェン5年服用を10年間に延長すると、再発と乳がんによる死亡リスクが低下することが指摘されている。
7~8割がホルモン受容体陽性
乳がんの7~8割は、女性ホルモンであるエストロゲンの影響を受けて増殖するタイプの乳がんであり、ホルモン受容体陽性の乳がんと呼ばれる。がん細胞のエストロゲン受容体に、体内で分泌されるエストロゲンが結合して増殖・進行するがんをいう。
乳がんの場合、手術で完全にがんが取り切れたとしても、微小転移が起きている可能性がある。また、再発を予防するため、術後に全身治療が行われるが、ホルモン受容体陽性乳がんで選択されるのがホルモン療法だ(図1)。
エストロゲンが受容体と結合して増殖が促進されるのなら、それを逆手にとって、エストロゲンの働きをブロックすることでがん細胞の増殖を抑えようという治療法である。
「早期のがんでも、再発防止目的、さらには、新しい乳がんの発生を予防するためにホルモン療法を行いますし、進行がんの場合は、抗がん薬を使った化学療法のあとにホルモン療法というように、ホルモン受容体陽性が確認されればステージ(がんの進行度)を問わずにホルモン療法を行います」
そう語るのは、聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科教授の津川浩一郎さんだ。
閉経前と閉経後で薬が違う
ホルモン療法には、①エストロゲン受容体をブロックしてエストロゲンががん細胞に作用するのを防ぐ方法②エストロゲンが作られるのを抑える方法、閉経前か閉経後かによって使用される薬剤が違ってくる。①の代表的な薬がタモキシフェン*(一般名)という抗エストロゲン薬。②は、閉経前では、視床下部―脳下垂体系に働きかけ卵巣でエストロゲンが作られるのを抑えるLH-RHアゴニスト製剤と呼ばれる薬だ(表2)。
タモキシフェンは1日1回の経口薬で、エストロゲン受容体に作用する。タモキシフェンは閉経前、閉経後ともに有効だ。LH-RHアゴニスト製剤は1カ月に1回ないしは3カ月に1回の皮下注射。通常、閉経前は①を5年間、②を2~5年間続ける。ただし、LH-RHアゴニストは卵巣から分泌されるエストロゲンを抑制する薬のため閉経前の人に限られる。
閉経すると卵巣は働かなくなるが、副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)が、脂肪組織などでアロマターゼという酵素によって変換されてエストロゲンとなる。そこで、アロマターゼの働きをブロックしてエストロゲンが作られなくするアロマターゼ阻害薬という薬があり、閉経後の患者さんに用いられる。これも1日1回服用の経口薬だ。
「閉経後の人では、タモキシフェン、アロマターゼ阻害薬どちらも使えますが、閉経後の人を対象にした臨床試験で、タモキシフェンよりアロマターゼ阻害薬のほうが再発を抑える効果が高いことが証明されたため、現在、標準治療として推奨されているのはアロマターゼ阻害薬を5年間継続する方法です」
*タモキシフェン=商品名ノルバデックス
再発率・乳がん死の低下、10年目以降で顕著に
胃がんや大腸がんなど、がんの多くは「5年生存率」が予後の指標とされ、術後5年間再発しなければ一応の「治癒」とされる。しかし、乳がんは増殖が比較的ゆっくりのため、手術後5年を過ぎてから再発するケースもあり、これを晩期再発という。
「晩期再発はホルモン受容体陽性タイプの人が多いため、時間をかけたフォローが必要です。このような人たちが再発をしないようにするためには、長期にわたりホルモン療法を続けるのが有効である可能性があります」
そこで2012年12月、米国で開催された「サンアントニオ乳がんシンポジウム」で発表された「ATLAS試験」の結果が注目されている。
この試験は、世界36カ国から1996~2005年までに、タモキシフェンを5年間服用した早期乳がん患者1万 2894人の中から、エストロゲン受容体陽性患者6846人を対象に行われ、タモキシフェンをさらに5年、合計10年間服用する群と、5年間で服用を終了する群にわけ、再発や死亡リスクが評価された。
とくに差がみられたのは、10年の服用期間を終了した以降だ。術後15年目の再発リスクでは、5年服用群で25%、10年服用群では21%。同じく死亡リスクでは、5年服用群で15%、10年服用群で12%と、10年服用し続けたほうが再発・死亡リスクが低かったとしている(図3)。また、同様な研究である「aTTom試験」の結果が、2013年6月のASCO(米国臨床腫瘍学会)でも発表された。
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