• rate
  • rate
  • rate

長期戦に臨むための治療戦略と、心の病気の早期発見が大切
乳がんの再発・転移――確かな治療法と心のケアの重要性を知ろう

監修:佐治重衡 埼玉医科大学国際医療センター腫瘍内科准教授
大西秀樹 埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年2月
更新:2014年1月

  
大西秀樹さん
埼玉医科大学国際医療センター
精神腫瘍科教授の
大西秀樹さん
佐治重衡さん
埼玉医科大学国際医療センター
腫瘍内科准教授の
佐治重衡さん

乳がん治療は、初発の場合と、再発・転移してしまった場合とでは、治療の目的も治療法もまったく異なる。ここでは、再発・転移した場合の治療の考え方についておさらいするとともに、非常に重要であるにも関わらず、見過ごされがちな心のケアについて紹介する。

治療目標を明確にして適切な方法を選択する

[乳がんの再発とは?]
図:乳がんの再発とは?

がんの治療では、治療目標を明確にし、それに沿った治療法を選択することが重要だ。たとえば、転移がない乳がんなら、基本的には治癒を目標にした治療が行われる。しかし、すでに転移がある乳がんや、手術などの初期治療を受けた後で再発した乳がんの場合、残念ながら治癒を目標とすることはできない。埼玉医科大学国際医療センター腫瘍内科准教授の佐治重衡さんは、次のように語っている。

「再発・転移乳がんは、基本的に治癒を目指すことは困難です。数パーセント以下の確率で治癒といえる状態になる患者さんもいると言われていますが、残念ながらその割合は非常に低いのです。そこで、生存期間を延ばすこと、症状を出さないようにすること、生活の質を保つこと、という3つを目標に治療が進められます」

何を目標とするかによって、治療法の選択基準は当然違ってくる。たとえば治癒が目標なら、無理をしてでも苦しい治療でも受ける価値があるかもしれない。しかし、延命を目標とする以上、QOL(生活の質)を低下させない治療法を選択することが重要になってくるのだ。たとえ延命しても、その間治療で苦しみ続けていたのではあまり意味がないからだ。

長期戦に持ち込むための治療戦略が必要となる

再発・転移乳がんの治療指針としては、『ホルトバギーのアルゴリズム(手順)』が知られている。

「乳がんのホルモン感受性を調べ、それが陽性ならまずホルモン療法から始め、化学療法は後にします。一般的には、再発・転移患者さんの約60パーセントはホルモン感受性が陽性の方です。ホルモン療法を先に行うのは、長い期間効いてくれる、生活スタイルをあまり変えなくてもすむ、重篤な副作用が少ない、といった理由からです」

ただ、たとえば肝臓への転移がたくさんあるといったように、生命が脅かされるような状態のときには、化学療法が優先される。抗がん剤のほうが速く効果を発揮する可能性が高いためだ。

「手持ちのカードをうまく使ってなるべく長く戦い続けたいのですが、相手がすごく強いカードを出しているときに、こちらが弱いカードを出したのでは、一気に決着がついてしまいます。相手が強いカードのときには強いカードで応戦し、そこをしのいでから、長期戦に持ち込む戦略を立てるわけです」

まずは体に優しいホルモン療法を優先するが、生命を脅かす状況になれば化学療法で対処する。これが、ホルトバギーの治療指針の基本的な考え方だ。

抗HER2療法を加えた新しいアルゴリズム

ホルトバギーの治療指針は世界中で使われてきたが、最近はそのままでは使えなくなっている。ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)、タイケルブ(一般名ラパチニブ)などの分子標的薬が登場し、乳がんの治療法に選択肢が増えたためだ。

ハーセプチンは、乳がん細胞にHER2たんぱくが過剰発現しているかどうかを調べ、陽性だった場合に効果を発揮する。そのため、ハーセプチンなどによる治療法を、抗HER2療法と呼ぶことがある。

「かつてはホルモン療法と化学療法だけでしたが、それに抗HER2療法が加わってきました。抗HER2療法も、ホルモン療法と同様、効果が高く副作用が比較的少ないのが特徴。この治療の対象になる患者さんは、15~20パーセント程度います」

この抗HER2療法を加え、佐治さんらは1つの例として07年にアルゴリズムを作成している。HER2が陰性なら、ホルモン感受性で治療方法を選択すればいいが、HER2陽性の場合には、それを考慮した治療法の選択が行われるわけである。

[再発・転移乳がんの治療指針の1例]
図:再発・転移乳がんの治療指針の1例

閉経後の患者さんに効くアロマターゼ阻害剤

ホルモン療法は、患者さんが閉経前か閉経後かによって、選択される薬が異なっている。

閉経前なら、卵巣からエストロゲン(女性ホルモン)が分泌されないようにするLH-RHアゴニストと、がん細胞にエストロゲンが作用するのを阻止する抗エストロゲン剤の併用が第1選択である。

閉経後なら、卵巣以外の部分でエストロゲンが作られるのを防ぐアロマターゼ阻害剤が、第1選択薬として使われる。

アロマターゼ阻害剤には3種類の薬があり、ステロイド性と非ステロイド性の2つに分類される。アロマシン(一般名エキセメスタン)がステロイド性、フェマーラ(一般名レトロゾール)とアリミデックス(一般名アナストロゾール)が非ステロイド性である。

「再発・転移乳がんの治療では、ステロイド性と非ステロイド性のアロマターゼ阻害剤を使い分けます。どちらを先に使ってもいいのですが、両方を順番に使うわけです」

たとえば非ステロイド性のフェマーラを先に使ったとする。それでがんを抑え込めたとしても、いずれ薬が効かなくなる時期がくる。そのときは、同じ非ステロイド性のアリミデックスではなく、ステロイド性のアロマシンに切り替えるのが一般的な選択とされている。


同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート12月 掲載記事更新!