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進行再発乳がんのホルモン療法最新トピック
今後はアロマターゼ阻害剤と分子標的薬の組み合わせが鍵に

監修:緒方晴樹 聖マリアンナ医科大学乳腺内分泌外科准教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2008年11月
更新:2014年1月

  
緒方晴樹さん
聖マリアンナ医科大学
乳腺内分泌外科准教授の
緒方晴樹さん

進行再発乳がんの新しい治療指針

乳がんの治療は、がんが局所にとどまっていると考えられる場合には手術が基本になる。手術を行い、術後治療として、放射線療法や薬物療法(化学療法やホルモン療法)が行われる。

これに対し、がんが全身に広がっていると考えられる場合がある。1つは、がんが見つかった時点で、すでに転移があるようなケース。もう1つは、手術をしたものの、しばらくして再発したようなケースだ。こういった“進行再発乳がん”に対しては、当然、全身的な治療が必要になってくる。

進行再発乳がんの治療には、『ホルトバギーの治療指針』と呼ばれる治療指針に沿って治療が行われることが一般的だ。その治療指針をごく簡単にまとめると、次のようになる。

  • 「生命に関わる転移がある」あるいは「ホルモン感受性が陰性」の場合には、化学療法から治療を開始する。ただし「ホルモン感受性が陽性」の場合、病状がよくなればホルモン療法に移行する。
  • 「生命に関わる転移がない」かつ「ホルモン感受性が陽性」の場合には、ホルモン療法から治療を開始する。ただし、病状が悪化して「生命に関わる」状況になれば化学療法に移行する。

この『ホルトバギーの治療指針』は1998年に発表されている。それから10年が経過した現在、これだけでは治療指針として不十分になってきた。そこで、聖マリアンナ医科大学乳腺内分泌外科准教授の緒方晴樹さんに、現在の治療に即した形で、進行再発乳がんの治療指針を作成してもらった。

図1、2に示すのは、患者が「閉経後、ホルモン感受性が陽性」の場合の治療指針である。

[図1 進行・再発乳がんの治療アルゴリズム(生命に関わる転移)]
図1 進行・再発乳がんの治療アルゴリズム(生命に関わる転移)

[図2 進行・再発乳がんの治療アルゴリズム(生命に関わらない転移)]
図2 進行・再発乳がんの治療アルゴリズム(生命に関わらない転移)

「ホルトバギーの治療指針が発表された当時と比べて大きく変わったのは、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)の存在です。現在、多くの医師は、ホルトバギーの治療指針を基本にしながら、そこにハーセプチンを組み込み、患者さんのがんの性質に合わせた治療を進めていると考えていいでしょう」

まず、患者が生命に関わる状態なのかどうかによって、治療は大きく分かれることになる。「生命に関わる」という言葉はややあいまいだが、治療しなければ6カ月以内に死亡する可能性が高い状況が目安になるという。

病状が生命に関わる状況であれば、化学療法が行われる。HER2(乳がん細胞の表面にある受容体タンパク質。がんを増殖させるスイッチの1つ)が陰性なら化学療法だけ、HER2が陽性なら化学療法とハーセプチンの併用が行われることになる。

一方、生命に関わる状況でなく、ホルモン感受性が陽性ならホルモン療法が行われる。HER2陰性ならホルモン療法だけ、HER2陽性ならハーセプチンが併用されることがある。

「ホルモン感受性とHER2が共に陽性の場合、ホルモン療法とハーセプチンを併用したほうがいいかどうかについては、まだエビデンス(科学的根拠)が十分ではありません。閉経後の患者さんの治療に使われるアロマターゼ阻害剤に関しては、ハーセプチンと併用したほうが無増悪期間(腫瘍の増大が観察されない期間)が延長するというデータがあるのですが、最適な療法についてはまだ議論のあるところです」 そこで、図2では「ホルモン療法±ハーセプチン」となっている。

閉経後なら使われるのはアロマターゼ阻害剤

乳がんのホルモン療法について、基本的なことをまとめておこう。

ホルモン感受性が陽性の人の乳がんは、エストロゲンという女性ホルモンに対するレセプター(受容体)を持っていて、そこにエストロゲンが結合すると増殖してしまう。ホルモン療法は、がん細胞にエストロゲンが作用しないようにし、乳がんの増殖力を失わせる治療法である。

閉経前であれば、卵巣からエストロゲンが分泌されているので、それを抑える働きがあるLH-RHアゴニストという薬が使われる。その上で、タモキシフェン(商品名ノルバデックスなど)を使うのが一般的だ。タモキシフェンは、エストロゲンが乳がん細胞に働きかけるのを抑える薬である。

これに対し、閉経後の場合には、アロマターゼ阻害剤という薬が使われている。閉経すると、卵巣からはエストロゲンが分泌されなくなる。ところが、副腎皮質からアンドロゲンという男性ホルモンが分泌され、それを原料にして、アロマターゼという酵素の働きによってエストロゲンが作り出されてしまうのだ。アロマターゼ阻害剤は、この酵素の働きを阻害することで、エストロゲンが作られないようにし、がん細胞の増殖を抑えるというわけだ。

「アロマターゼ阻害剤が開発される前は、閉経後の患者さんのホルモン療法でもタモキシフェンが使われていました。ところが、1990年代に行われたタモキシフェンとアロマターゼ阻害剤を比較する臨床試験で、アロマターゼ阻害剤のほうが優れた成績を残したことから、現在では、患者さんが閉経後であれば、アロマターゼ阻害剤が使われるようになっています」

図3に示したのは、アロマターゼ阻害剤のフェマーラ(一般名レトロゾール)とタモキシフェンの比較試験(臨床試験)の結果である。とくに注目したいのは、病状が悪化するまでの期間を示す無増悪期間の中央値。タモキシフェンでは6.0カ月だが、フェマーラでは9.4カ月と明らかに延長している。つまり、フェマーラを使っていた人のほうが、病状が悪化するまでの期間が3カ月以上も長かったのである。

アロマターゼ阻害剤には、フェマーラ以外に、アリミデックス(一般名アナストロゾール)、アロマシン(一般名エキセメスタン)という薬がある。いずれも閉経後のエストロゲン受容体のある患者さんに対する有用性が確認されている。

[図3 レトロゾールとタモキシフェンの比較]
図3 レトロゾールとタモキシフェンの比較


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