• rate
  • rate
  • rate

頻度は少ないが、顎骨壊死、低カルシウム血症には要注意

治療法の選択肢が広がった!骨転移を抑えてQOLを維持しよう

監修●高橋俊二 がん研有明病院化学療法部総合腫瘍科部長
取材・文●池内加寿子
(2014年10月)

「骨転移の早期発見、早期治療が、QOLの維持につながります」と話す高橋俊二さん

乳がんは骨に転移しやすい。骨に転移した場合、骨の痛みや骨折などの症状が現れることが多いが、現在骨転移に効果のある薬も出てきており、適切に治療を受ければ、痛みに苛まれることもなく、普段通りの生活も送れるようになってきている。

乳がんの遠隔転移は骨、肺、肝臓に多い

乳がんは早期発見・早期治療によって、治癒が期待できる疾患だが、再発転移をした場合の予備知識も備えておきたい。がん研有明病院化学療法部、総合腫瘍科部長の高橋俊二さんは、次のように話す。

「乳がんの再発は、腋窩を中心とした局所のリンパ節が1番多く、遠隔転移をする部位としては骨、肺、肝臓が多いと言えます。中でも骨への転移は、初再発の5割(2割が骨単独、3割は他の部位の再発を伴う)に見られます」

乳がんは、骨への好発性が高いがんだと言える。骨転移は、がん細胞が血液に乗って骨に住み着くことで起こるが、骨の中でも転移しやすい場所があるという。

「乳がんでは、胸骨への転移が多いことが特徴的です。椎体(背骨)、骨盤など体幹の骨にも多くみられます」

膝から下や肘から先の手足に起こることはまれだ。では、骨転移を起こしやすい乳がんのタイプはあるのだろうか。

「ホルモン受容体の1つ、エストロゲン受容体(ER)陽性の乳がんのほうが、ER陰性の場合より骨転移が多い傾向がありますが、明確ではありません。ER陰性の場合は3年以内の再発がほとんどなのに、ER陽性の場合は、骨転移を含めて再発の時期が比較的遅く、5年、10年経っても再発が見られます」

ER陰性であれば術後3年、ER陽性であれば術後5年目以降も骨転移に注意して、早く気づけるようにしておきたい。

骨転移の症状は、骨痛、骨折、麻痺など

図1 乳がん骨転移によって引き起こされる合併症の割合

(がん研有明病院、1990年代乳がん骨転移患者の約3年間での合併症)

骨転移を起こすと、骨の痛みや骨折などの症状が現れることが多い。

「私たちのグループで乳がんの患者さんを3年間フォローしたところ、骨転移によって骨の痛みが出現した人は約8割、椎体がつぶれる圧迫骨折も含めて病的骨折を起こした人は約4割、神経麻痺が出現した人が約1割ありました。また、骨痛の治療のために放射線治療を受けた人は6割に上ります(図1)。骨転移に伴う痛みやしびれ、骨折などの合併症や、骨折を治療するための手術、痛みを緩和する放射線治療などを骨関連事象(SRE)と呼んでいますが、乳がんの骨転移は、かなり高頻度に様々な骨関連事象を引き起こし、QOL(生活の質)を著しく悪化させることがわかりました」

もし、骨の痛みや手足のしびれなどの症状が数日間続いたり、症状が強くなるようなら、骨転移の可能性を考えて速やかに検査を受け、適切な治療を始める必要がある。骨転移の疑いがある場合は、X線検査や骨シンチグラフィ等で骨転移や骨折の有無を調べ、MRIなどでさらに詳しく検査する。

通常、骨転移の検査は症状がある場合に行われるが、高橋さんは「術後の定期検診で骨転移を早く見つけ、症状が出る前に早期に治療すれば、QOLの維持と予後の改善が期待できる可能性がある」という。

「乳がん診療ガイドラインでは1年ごとの乳腺のマンモグラフィと超音波検査が推奨されていますが、当院では、再発リスクが高い人には術後2~3年間、1年ごとの胸部X線、骨シンチグラフィ、腹部エコーの検査を加えています」

標準治療は、破骨細胞を抑えるゾメタとランマーク

「骨転移の治療には、ゾメタ、またはアレディアなどのビスホスホネート製剤の点滴薬が広く使われ、効果を上げています。さらに2012年に皮下注射薬のランマークが承認され、こういった薬が標準治療薬となっています」

体の骨は、骨を壊す破骨細胞と骨をつくる骨芽細胞の働きで、日々入れ替わっている。がん細胞は破骨細胞が骨を壊したところに住み着き、破骨細胞を活性化してさらに骨を壊し、がんの陣地を増やしていく。ゾメタなどのビスホスホネート製剤は破骨細胞を細胞死に追い込んで、破骨細胞の働きを抑え、ランマークは破骨細胞の生育に必要なRANKL(ランクル)という分子に結合して、破骨細胞ができるのを抑える。

ゾメタとランマークの効果に違いはあるのだろうか。「骨転移のある乳がんの患者さんを対象とした臨床試験で、乳がんの通常の治療にゾメタを加えると、骨痛や骨折等の骨関連事象を減らすことがわかっています(図2)。ランマークについては、ゾメタと比較する臨床試験が行われ、ランマークがゾメタに比べて骨関連事象をさらに減らすことがわかりました(図3)」

図2 乳がんの骨転移に対するゾメタの効果

出典:Kohno Noriko et al.J Clin Oncol 2005;23:3314-21
図3 乳がんの骨転移に対するランマークの効果

出典:Stopeck AT et al.J Clin Oncol 2010;28:5132-39

ランマークはゾメタよりもやや効果が高いということになるが、日本の乳がん診療ガイドライン、ASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドラインともに、骨転移の治療ではどちらを使っても良いとされている。

「ゾメタとランマークの使い分けは難しいところですが、ゾメタで治療中に骨転移が悪化した場合や、進行した骨転移で骨関連事象のリスクが高い場合は、ランマークを使うのがよいでしょう。ランマークは皮下注射、ゾメタは点滴という点を考慮して、利便性で選ぶこともできます。例えば、経口のホルモン薬を服用中、または外来でホルモン薬の注射をしている方なら、皮下注射のランマークのほうが、静脈に針を入れる必要がなくて手軽です。一方、外来で抗がん薬の点滴を受けている場合は、ゾメタなら点滴の最後に15分加えるだけで済むので、さほど負担はかかりません」

ゾメタ=一般名ゾレドロン酸 アレディア=一般名パミドロン酸 ランマーク=一般名デノスマブ