開腹手術との比較では、術後早期合併症や生存率には差がなくなりつつある
増え続ける腹腔鏡下手術。いまどこまで可能なのか
腹腔鏡下手術が標準になる
かもしれません」と語る
西澤雄介さん
大腸がんの腹腔鏡下手術が行われるようになったのは20年ほど前のこと。
低侵襲で、術後の回復も早いとして、いっきに導入が広まってきた。進行がんや直腸がんなど、開腹手術のほうが向いているとされるケースがあるなかで、手術技術の進歩や経過の蓄積から、今後を見通したい。
標準治療となる可能性のある大腸がん腹腔鏡下手術
大腸がんは、手術(病巣部の切除)の有効性が高いがんとして知られている。そして、手術を受けるなら、「がんがきれいにとれて、痛みや後遺症の少ない方法を」と願うのは、患者さんとして当然だろう。そんな患者さんたちにとって、「希望の治療」として登場したのが腹腔鏡下大腸切除術だ。
大腸がんの開腹手術では、お腹を皮膚の上から20センチほど切開し、大腸を外に出して病巣のある部分を切除する。しかし、腹腔鏡下手術では、直径5ミリ~1センチの穴を4あるいは5つほどあける。そこから、カメラ(腹腔鏡)や、大腸を操作するための鉗子などを入れ、腹腔鏡で体内の様子をモニターしながら、病巣部分を切除する。切除した部分は、1カ所を腫瘍の大きさに応じて3~4センチに延長した穴から取り出す。
傷が小さいため痛みが少なく、傷跡もほとんど目立たず、入院期間も短いと、患者さんにはうれしいことづくめ。96年には早期がんに、2002年には大腸がん全体に保険が適用され、腹腔鏡下手術を行う病院も増える一方だ。
しかし、肝心の治療成績(生存率)はどうなのか、開腹手術のように、医師が直接目で見て手でさわって確認できないために、病巣を見落とすことはないのか、議論を呼んできた。世界最初の腹腔鏡下大腸切除術の症例報告から20年。その技術の進歩はめざましいと、国立がん研究センター東病院消化管腫瘍科下部消化管外科の西澤雄介さんはいう。
「日本の大腸がんに対する内視鏡下手術の適応に関する診療ガイドラインは、日本内視鏡外科学会と大腸癌研究会からの2つがあり、どちらのガイドラインでも腹腔鏡下手術は早期大腸がんに対する治療選択肢の1つとなっていて、進行がんに対しては推奨治療になっていません。しかし、腹腔鏡下手術を取り入れている病院では、今日、進行がんにも腹腔鏡下手術を行いつつあります。適応は慎重にすべきですが、腹腔鏡の利点を考え、1歩踏み出した治療が行われています。
開腹と腹腔鏡下の両方を扱う外科医なら、『近い将来、大腸がん手術は腹腔鏡下手術が標準になり、特殊な症例のみ開腹手術が行われる』との印象があるようにと思います」
治療成績は開腹に劣らず術後の回復も早い
手術時間 |
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入院期間 |
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鎮痛剤使用期間 |
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術中合併症 |
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術後早期合併症 |
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94~03年に欧米で行われた3つの比較試験では、全体の治療成績(5年生存率)に差がないとの結果が出た。04年~09年には、日本でも比較試験が行われている。
「この試験は進行がんの症例のみ1057例を集めた点で、世界的にも意味が大きいと思います。経過観察期間が終了していませんが、その結果が待たれます。いくつかの論文で腹腔鏡下手術のほうが、5年生存率がいいという報告もされています。進行がんに腹腔鏡下手術を行うことは、再発転移を起こさないことを第1義とするがん治療において、従来の開腹手術と比較しても遜色ないと考えられつつあります」
これらの臨床試験では、入院期間も鎮痛剤の使用期間も腹腔鏡下手術のほうが短く、術中合併症(出血など)は少なく、術後早期合併症(腸閉塞など)には差がないことが明らかになった。
「人の手が内臓にふれず、切除される腸管以外の臓器をお腹の外に出さないため、術後の腸管の回復も食事開始も早く、癒着による腸閉塞も起こりにくくなります」
手術時間は開腹手術のほうが短いが、「腹腔鏡下の手術時間は短縮の一途をたどり、差は以前ほど問題とされなくなりつつあります」
そして、傷が小さく、侵襲(体を傷めること)が少ない点は、免疫能(免疫力)が下がらない理由とも。
「手術のあとに免疫能が下がるかどうか、動物実験や患者さんの血液を調べる研究が行われています。大きな傷で体に負担がかかると、免疫を下げる物質の血中濃度が増えます。今日では、それががんの転移や再発にも影響を与えると考えられています」
驚いたことに、傷が小さいと、がんの再発や転移も起こりにくい可能性があるということだ。
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