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FOLFOX療法による術後補助化学療法は、日本でも標準治療となる
大腸がんの再発予防の決め手はこれだ

監修:室 圭 愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年6月
更新:2019年7月

  
室 圭さん 愛知県がんセンター中央病院
薬物療法部部長の
室 圭さん

進行再発大腸がんの治療法として広く普及しているFOLFOX療法が、09年から手術後の再発予防を目的とした治療にも使えるようになった。手術後のFOLFOX療法を行うことで、大腸がんが再発する割合を減らし、結果、治癒する患者の割合が増える。
それだけに多くの患者さんに知って欲しい治療法だ。

3期は手術しても30パーセントが再発

大腸がんは手術することが多い。しかし、手術だけでは治ったとは言い切れない。なぜなら、手術でがんを切除しても、検査で見つからないほど小さな転移が、すでに起きている可能性があるからだ。微小転移を放置すると、次第に増殖し、いずれ再発を起こす。そこで、ごく小さなうちに、抗がん剤で死滅させる必要がある。それを術後補助化学療法といい、今、大腸がんで最も有効なのがFOLFOX療法(後述)である。

大腸がんの治療では、手術後の再発はどのくらい起きるのだろうか。愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長の室 圭さんに聞いた。

「手術が行われるのは、病期が、内視鏡治療が適応とならない1期のほとんど。それから、2期と3期の全て。4期でも、一部は手術が行われます」

がんが腸壁に限局しているのが1期。腸壁から出ているものの、リンパ節転移はないのが2期。リンパ節転移があるのが3期。他の臓器に遠隔転移を起こしているのが4期である。4期でも、肝臓だけに転移しているようなケースでは、手術が行われることがある。

「手術後の再発率は進行度によって異なります。1期では3.7パーセント、2期は13.3パーセント、3期では30.8パーセント。つまり、3期の患者さん100人が手術を受け、その後、再発予防の治療を行わないと、30人くらいに再発が起きるということです」

手術は最も重要な治療法だが、それだけでは治らないことが多い。この再発率から考えると、術後補助化学療法を行うことには、大きな意味があると言えそうだ。

術後補助化学療法でもFOLFOX療法に期待

大腸がんの薬物療法というと、20年ほど前までは5-FU(一般名フルオロウラシル)しか使える薬がないという状況で、切除手術ができない進行再発大腸がんの場合、平均的な生存期間は1年ほどだった。

「当時は闘う武器があまりにも少なかったので、進行再発大腸がんの患者さんがくると、医療者側も落ち込んでいましたね。そうした状況が大きく変わったのは、95年にカンプト/トポテシン(一般名イリノテカン)、05年にエルプラット(一般名オキサリプラチン)が登場し、治療薬剤の手数が増え、化学療法で効果が得られる患者さんが増えてきたからです。05年以前と以後では、治療成績にはっきりとした差が現れています」

新しい抗がん剤の登場により、進行再発大腸がんの生存期間は20カ月を超えることになった。エルプラットを含むFOLFOX療法は、日本では05年から進行再発がんを対象に使われるようになったが、09年からは術後補助化学療法としても使えるようになっている。では、FOLFOX療法とは、どのような化学療法なのだろうか。

「FOLFOX療法が行えるようになるまで、術後補助化学療法として広く行われていたのは、5-FU+ロイコボリン(一般名レボホリナート)という併用療法でした。FOLFOXは、この5-FU+ロイコボリンに、エルプラットを加えた併用療法。5-FUを2日間持続静注(静脈内注射)するのが特徴です」

持続静注のために、患者さんは簡単な手術で皮下にポート()を植え込む。薬は小型の携行ポンプから少しずつ送り込まれ、ポートを経由して静脈内に入る。2日がかりで抗がん剤を投与するのだが、病院での点滴に必要なのは2時間余りで、持続静注の間は通常の日常生活を送ることができる。

このような治療を2週間に1回受ける。術後補助化学療法では、12コース(6カ月間)行う。

「FOLFOX療法以前の術後補助化学療法は、5-FU+ロイコボリンの他に、経口剤のUFT(一般名テガフール・ウラシル)とロイコボリンの併用、あるいはゼローダ(一般名カペシタビン)という経口剤が使われていました。これらは、現在でも標準治療ですし、海外でも使われています」

現在、推奨されているのは、この4種類の薬物療法。効果の点で最も期待できるのはFOLFOX療法である。

ポート=皮膚の下に埋め込む薬液注入装置のこと。鎖骨下静脈などにカテーテルを設置してポートにつなぎ、持続的に抗がん剤を投与する

[FOLFOX療法は通常ポートを使用して薬剤を投与する] 図:FOLFOX療法は通常ポートを使用して薬剤を投与する

従来の標準療法を超えたMOSAIC試験の結果

FOLFOX療法の術後補助化学療法としての有用性を示すために、ヨーロッパを中心に、MOSAIC試験という臨床試験が行われた。5-FU+ロイコボリンと、エルプラットを加えたFOLFOX療法を比較したもので、計2246人を対象とした大規模臨床試験である。

「当時は5-FU+ロイコボリンが標準治療だったので、新しい治療であるFOLFOX療法と比較したわけです。その結果、3年無病生存率(3年後に再発せずに生存している患者さんの割合)が、FOLFOX療法のほうが統計学的に明らかに高いことが判明しました」

この臨床試験の対象となったのは、2期と3期の大腸がんで手術を受けた患者さん。3年無病生存率は、5-FU+ロイコボリン群が72.9パーセント、FOLFOX群が78.2パーセントだった。

2期と3期に分けて、解析したデータもある。2期では有意な差は出なかったが、3期では、5-FU+ロイコボリンが65.3パーセント、FOLFOX療法が72.2パーセントとはっきりした差が現れた。

[FOLFOX群と5-FU+ロイコボリン群の生存率の比較]

図:無病生存率
図:生存率

(JCO,2009)

FOLFOX療法は3期においてとくに高い効果があった

「わりとしっかりした差がついた臨床試験と言えます。全生存期間でも3年無病生存率と同様に試験全体および3期において差がつきました。ヨーロッパを中心に行われた試験ですが、アメリカをはじめ全世界でこの試験をもとに認可が得られています。日本でも、この結果をエビデンス(科学的根拠)として、FOLFOX療法が術後補助化学療法として認可されました」

エルプラットを加えることで、治療効果が向上したわけだが、エルプラットとはどのような薬なのだろうか。

「オキサリプラチンという一般名からもわかるように、プラチナ製剤の1種です。プラチナ製剤には、第1世代のシスプラチン、第2世代のカルボプラチンとネダプラチンがあり、オキサリプラチンは第3世代。細胞実験の段階で大腸がんに有効であることがわかり、開発されました。日本では現在、オキサリプラチンを用いた術後補助化学療法ではFOLFOX療法の形でしか使用できません」 最近、海外では、胃がんなどの治療にも使われている。


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