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副作用対策や栄養サポートをしっかり行うことが肝心
食道を温存する化学放射線療法最新知見

監修:小柳和夫 川崎市立川崎病院外科担当部長
取材・文:池内加寿子
発行:2012年6月
更新:2013年4月

  
小柳和夫さん
食道がんの
化学放射線療法に詳しい
小柳和夫さん

食道がんの手術は、6~8時間もかかる大がかりなもので、患者さんへの負担も大きく、術後の後遺症や合併症に悩まされることがある。
そんなときぜひ知っておいてほしいのが、化学放射線療法という治療選択肢だ。

食道がんの多彩な治療法

食道は、喉と胃をつなぐ全長25~30㎝ほどの筒状の器官で、食物を胃に送り込む働きをしている。川崎市立川崎病院外科担当部長の小柳和夫さんは、食道がんについてこう話す。

「食道がんには、大きく分けて扁平上皮がんと、腺がんの2つのタイプがあります。日本人には圧倒的に扁平上皮がんが多く、欧米人には腺がんが多いのが特徴です。食道は頸部食道、胸部食道、腹部食道の3つに分かれますが、がんが発生する場所は胸部食道がもっとも多く、頸部や腹部は少ないですね。初期には自覚症状がなく、進行してくると、つかえ感や嚥下障害、声がれなどで気付くこともあります」

食道がんの多くは、食道の内側の粘膜から外側の筋層に向かって進展していく。がんが食道壁のどこまで浸潤しているか(壁深達度)、リンパ節や他臓器に転移があるか(リンパ節転移、他臓器転移)などによって進行度(ステージ=0~4期)が決まり、治療法を選択するときの基準となる。

[図1 食道がん治療の流れ]
図1 食道がん治療の流れ

『食道癌診断・治療ガイドライン』 2012年版から引用

「食道がんの治療法には、外科手術、内視鏡的治療、放射線治療、化学療法、化学放射線療法などがあり、『食道癌診断・治療ガイドライン(2012年版)』で、ステージごとにおおまかな治療方針が示されています(図1)。ごく早期の食道がん(がんが粘膜にとどまる0期)に対しては内視鏡的治療、1~3期では外科治療(手術)が基本とされ、最近では、手術の前に抗がん剤治療を行ってがんを縮小させる術前化学療法を行うことが多くなっています。一方、がんが進行して手術ができないケース、再発したケースなど、3期の一部や4期では、化学放射線療法が第1選択となります。このほか個々の症例に応じて、化学療法や放射線治療が単独で選択されます」

食道温存が魅力の化学放射線治療

化学放射線療法は、がんの根治を目的として、化学療法(抗がん剤治療)と放射線治療を組み合わせて同時に行う治療法であり、食道を残せることが最大のメリットとされる。

日本では従来、食道がんの治療には外科手術が重視されてきたが、食道は心臓や肺、気管・気管支、大動脈など重要な臓器に囲まれている部位であり、切除範囲も広いため、消化器がんの手術のなかでも最も難易度が高い。手術時間は6~8時間かかる難手術であるだけに、患者さんの負担が大きく、肺炎や縫合不全などの合併症対策が課題となっていた。

そんななか、1990年代に欧米で行われた臨床試験で、食道がんに対する化学放射線療法は、単独の放射線治療に比べて明らかに治療成績が高いとのエビデンス(科学的根拠)が得られたことから、日本でも化学放射線療法が注目されるようになった。

[図2 代表的な化学放射線療法の結果]

試験名 完全寛解(CR) 生存率
JCOG 9516 15% 2年生存率:31.5%
Ohtsu et al 33% 3年生存率:23%
JCOG 9906 62% 3年生存率:45%
※JCOG9906は2期3期の患者さんが対象。CR持続は約半数、全体の2/3にがんの残存・再発ありその他は切除不能・再発食道がんが対象

「日本臨床腫瘍研究グループの臨床試験(JCOG9516)で、切除不能・再発食道がんを対象に化学放射線療法を行ったところ、がんが消失(一時的な消失も含む)した割合が15%、2年生存率が31.5%という成績が得られました。さらに別の臨床試験でもがんが消失した割合が33%、3年生存率23%という結果が出たことで、手術ができない食道がん、再発食道がんに対する化学放射線療法の有効性が裏付けられました。無治療で1~2年以上生存できるケースはほとんどないので、化学放射線療法の治療効果が大きいことがわかります」(図2)

ガイドラインで、手術不能・再発食道がんの第1治療が化学放射線療法とされたのも、これらの臨床試験の結果が根拠になっている。

2~3期では、患者さんの希望で選択

2~3期の場合、化学放射線療法は選択肢となるのだろうか。

「患者さんのバックグラウンドや、食道を温存したいというご希望によっては、化学放射線療法が選択されることもあります」

治療成績は、手術と比較するとどうだろう。

[図3]
図3

「日本でも2000年代前半に、2~3期の食道がんに対する化学放射線療法の治療成績は手術と同等とされた時期があり、化学放射線療法が広く行われていました。これは、2~3期を対象とした化学放射線療法の臨床試験(JCOG9906)で、がんが消失した割合は62%、3年生存率45%という高い数値が出て、有効な治療法であると評価されたことが根拠になっています。ところが、中身を追跡して検討すると、完全に消失した状態が持続したのは約半数(31%)で、全体の2/3に残存腫瘍や腫瘍の再発があり、切除可能症例(全体の19%)にそれを切除する救済手術が行われていたのです」

このような経緯から、現在では、手術が可能な2~3期の食道がんでは、まずは手術を考慮し、「食道を残したい」という患者さんの希望などがあった場合等に、化学放射線療法も選択できるという位置づけになっている(図3)


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