新たな薬剤の登場や、QOLを考えた薬剤の組み合わせの検討も
個別化も視野に!食道がんの術前化学療法
「食道がんの治療成績、QOLは
向上してきています」と語る
中島政信さん
進行食道がんに対する手術の成績はあまりよくない。そこで、その補助療法として手術前に複数の抗がん剤を投与する「術前化学療法」を行うことで、現在、生存率などの治療成績が飛躍的に向上しています。
リンパ節転移の確率が高い患者さんに効果的
現在、進行した食道がんの根治をめざす治療法としては手術が主流ですが、病期が2~3期の患者さんで、手術のみを行った場合の治療成績(5年生存率)は、40~50%程度といわれています。
「そのため、今までは食道がんの治療は手術の治療成績を向上させる補助療法として術後化学療法が試みられてきました。しかし、食道がんの手術は他のがんに比べて患者さんの負担は大きく、術後に体力が低下してしまい、手術後の化学療法を最後まで行えない患者さんが増加したのです。このような背景の中で注目を集めたのが、『術前に化学療法を行う』という考え方でした」
こう話すのは、食道がん治療に精通している、獨協医科大学第1外科学(腫瘍外科学)准教授の中島政信さんです。
術前化学療法の対象となるのは、手術が可能な病期2~3期の患者さんです。なかでも、生存率向上などの大きな治療効果が期待できるのは、リンパ節転移の可能性が高いとされる患者さんだといわれています。
というのも、術前化学療法の目的は、微小転移の予防、つまり再発を防ぐという点にあります。ですから、リンパ節転移の可能性が高いと考えられる患者さんには、術前化学療法がより有効ではないかと考えられているのです。
術前化学療法の有効性については、5年生存率を評価指標とした臨床試験が国内で行われています。
日本臨床腫瘍研究グループ(*)が行った〈手術+術前化学療法群〉と〈手術+術後化学療法群〉の治療成績を比較した臨床試験の結果、5年生存率は〈手術+術前化学療法群〉のほうが良好でした(図1)。
この試験成績などから、国内では術前化学療法が主流となったのです。
*日本臨床腫瘍研究グループ=JCOG。厚生労働省がん研究助成班を中心とする共同研究グループ
欧米は術前化学放射線療法が一般的
一方、欧米は5-FU(*)+ シスプラチン(*)+放射線療法の「術前化学放射線療法」が一般的です。日本と治療法が異なるのはどうしてでしょうか。
手術や放射線療法は、がんの部分だけを攻撃する局所制御、化学療法は全身に散らばったがんの微小転移を制御する全身治療の目的で行われますが、(1)日本は手術自体の精度が高く、がんを取り切れてしまう可能性が高い(2)国内臨床試験の結果、手術の補助療法としての放射線療法は、手術単独群と比較して上乗せ効果がなかった(3)放射線を照射したあとの組織は硬くなってしまうため、その後の手術が大変になる──などの理由から、日本では、化学放射線療法ではなく、化学療法のみを手術の前に行うことが、主流となっています。
*5-FU=一般名フルオロウラシル
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
多剤併用による術前化学療法
術前化学療法は、複数の抗がん剤を組み合わせた多剤併用による治療です。現在、国内では、(1)5-FU+シスプラチンの2剤併用療法(FP療法)(2)5-FU+シスプラチン+タキソテール(*)の3剤併用療法(DCF療法)──のいずれかの組み合わせが選択されるケースが多くなっています。
治療スケジュールは両者ともに4週を1コースとし、合計2コース行うのが標準です(3週を1コースとして行う施設もあります)。
5-FUは5日間連続の点滴、シスプラチンとタキソテールは1日目に点滴するというのが1コースで、その後23日間の休薬期間を設け、2コース目を同じ内容でくり返します(図2)。
2コースが終了した時点で、画像検査などで化学療法の治療効果を評価し、それから手術を施行するというのが一般的な流れです。
ただし、術前化学療法で効果が得られなかった場合にはがんが増悪してしまう可能性もあるので、1コース終了した時点で治療効果を判定し、2コース目を行う、または2コース目を省略して手術を行う、などを検討する施設もあるようです。
「術前化学療法の本来の目的は、微小転移の予防です。当院では、がんの縮小効果がなくても増悪が認められなければ2コース行うようにしています」
現在、化学療法は外来で行われることが多くなってきていますが、シスプラチンは腎毒性が強く、シスプラチンによる腎臓へのダメージを減らすため、治療中は大量の輸液を必要とします。そのため、食道がんの術前化学療法は入院して治療が行われます。
*タキソテール=一般名ドセタキセル
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