肝がんガイドライン 診断法、手術、分子標的薬も登場――ガイドライン改訂!肝がん治療はどう変わる?
國土典宏さん
第2版の『肝癌診療ガイドライン』が出版されて4年。その作成後にも新たなエビデンス(科学的根拠)が数多く登場。それらの成果を反映した第3版が近々刊行される。その内容は、肝がん治療にどんな変化をもたらすのだろうか――。
肝がん診療の指針・案内役となるガイドライン
『肝癌診療ガイドライン』ではさまざまな診断法や治療法の推奨度がA~Dの5段階(CはC1とC2)のグレードで示されている。その判断は内外の臨床試験や臨床研究の報告によって得られたエビデンス(科学的根拠)に基づく(図1)。
2005年に刊行された初版では計7118本の論文から約10%を厳選。肝細胞がん(以下、肝がん)診療における疑問点とその推奨度が58種類に絞り込まれて示された。第2版は2009年に発刊。改訂ではその都度専門医を中心とする改訂委員会やワーキンググループが招集され、最新のエビデンスを反映していく作業が繰り返されている。実地医師向けで、このガイドラインを参考として診療の手引きや、患者さんへのインフォームド・コンセントに使う医師も多い。
「第3版は2007年7月から2011年12月末までに公表された内外の論文を厳選し評価・検討がなされました。年内に刊行予定となっています」と話すのは、第3版改訂委員長である國土典宏さんだ。
新しく登場した分子標的薬はA評価
第3版の扱いで注目が集まったのは「化学療法」についてだ。
肝がん治療において、根治性の高い治療としては手術による肝切除やラジオ波焼灼療法などがあり、高いエビデンスで以て評価されている。
それらの治療対象にならない進行肝がんに対する化学療法への期待は大きかったが、これまで標準治療は確立されていなかった。いくつも新しい療法についての研究報告はあったが、既存治療法とプラセボ(偽薬)を比較する第3相試験はなく、標準治療として受け入れられるまでには距離があった。
そこに分子標的薬のネクサバール*による高い有効性が2つの大規模無作為化試験の結果として報告された。ネクサバールはこれまで肝がんの治療で用いられてきた殺細胞性の一般的な抗がん薬とはまったく違う作用メカニズムを持つ。具体的には、がん細胞の増殖に関与する分子に狙いを定め、その働きを阻止。併せてがんの栄養補給ルートである新生血管の形成を抑制する、という2つの作用を持つ(図2)。
この薬の効果を調べる2つの無作為化比較試験の報告は、第2版の改訂作業の検討対象期限に間に合わず、今回の改訂でどう扱かわれるか、関心が高まっていた。
その無作為化比較試験とは2008年発表のSHARP試験だ。欧州、北南米、豪州など世界22カ国の計560例にて、ネクサバール投与群とプラセボ投与群に分けられて比較された。その結果、全生存期間(OS)中央値がプラセボ群の7.9カ月に対しネクサバール群は10.7カ月で、2.8カ月間の全生存期間の延長が確認された(図3)。
「翌年発表されたもう1つの大規模無作為化比較試験、Asia-Pacific試験の成績もほぼ同様だったこともあり、2つの無作為化比較試験は互いに研究精度の高さを証明しているとして高い評価へと繋がりました」
これを受けてネクサバールはわが国でも2009年5月に「切除不能な肝細胞がん」に対する適応が追加承認された。
ガイドラインではこの薬の位置づけを、肝切除(根治手術)や肝移植、ラジオ波焼灼療法などの局所療法、肝動脈化学塞栓療法の適応から除外されていて、併せて全身状態や肝機能が良好な患者さんを治療対象とした。推奨度は最も高いAだ。ただガイドラインでは今後、新たな分子標的薬も登場する可能性があることなどを勘案して、具体的な薬剤名ではなく「化学療法」と記載することを検討している。
なおネクサバールの副作用としては手足に知覚過敏、潰瘍などが現れる手足症候群、高血圧などの頻度が高く、「治療開始後早期に起こることが多いため慎重に経過観察する必要がある」(推奨度C1)としている。
*ネクサバール=一般名ソラフェニブ 同薬は2008年1月に「根治切除不能または転移性の腎細胞がん」に対する適応が承認された
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