肝がんの病診連携:東葛北部肝炎・肝がん診療連携講演会 変わる肝炎、肝がんの治療。新薬の登場がブレークスルーに
肝がんの主因はC型肝炎とB型肝炎です。しかし、優れた薬剤の導入で、これらウイルス性肝炎の治療成績は飛躍的に向上している。また、難敵だった進行肝がんの治療も、分子標的薬の登場によって大きく変わろうとしている。先ごろ医療関係者を対象に千葉で行われた「東葛北部肝炎・肝がん診療連携講演会」では、こうした肝炎、肝がんの最新事情が紹介された。
肝がんの主因はC型、B型肝炎
最初にキッコーマン総合病院院長代理、診療部長の三上繁さんが「肝がんの側面からみた最適な肝炎治療とは」と題して講演しました。
現在、わが国では1年に約3万5,000人が肝がんで亡くなっています。これは、肺がん、胃がん、大腸がんに次いで第4位です。主因はC型肝炎とB型肝炎。なかでも多いのがC型肝炎で、肝がん(肝細胞がん)の原因の約68%を占めています(図1)。
C型肝炎にかかっても、多くの人は症状に乏しく、感染したことに気づかないことが少なくありません。しかし治療せずに放置しておくと、肝硬変、肝がんへと進行していきます(図2)。
これまで、その進行はゆっくりで、感染してから肝硬変になるまで約30年と考えられていました。しかし最近の研究で、高齢で感染した人は、若い人に比べ進展が早いことがわかってきたといいます。
こうした進展を食い止めるには、早期発見が重要です。C型肝炎に感染しているかどうかは、血液検査で簡単にわかります。もし感染していた場合には、肝臓がどの程度障害を受けているかを調べます。以前は肝臓に針を刺して、組織を採取する「生検」という方法しかありませんでしたが、最近は超音波を利用した画像検査でチェックできるようになっています。
「何より大切なのは早期発見。40歳以上で、これまでC型、B型のウイルス検査を受けたことがないような人は、ぜひ検査してほしい。それが、肝がんの予防につながる」三上さんはこう強調します。
C型肝炎は治る時代へ
一方、C型肝炎の治療はインターフェロンが中心です。インターフェロンは1992年に認可されました。ただ、インターフェロンの効果はウイルスの遺伝子型やウイルス量によって異なります。C型肝炎ウイルスは1型(1a、1b)、2型(2a、2b)に分けられます。インターフェロンは2型には有効ですが、日本人に多い1型、とくにウイルス量の多い1b型にはほとんど効きません。これが長い間の課題でしたが、インターフェロンの改良型である「ペグインターフェロン」が登場。これに、インターフェロンの効果を増強するリバビリン(*)という薬剤を併用することが2004年より可能となったことから治療成績は飛躍的に進歩しました。
さらに、2011年には「テラプレビル(*)」(プロテアーゼ阻害薬)という飲み薬が、保険適応となりました。C型肝炎ウイルスが増えるにはプロテアーゼと呼ばれる酵素が必要です。テラプレビルはこの酵素の働きを邪魔して、ウイルスの増殖を阻みます。
最近の報告によると、ペグインターフェロン、リバビリンにテラプレビルを併用することで、ウイルス量が多く難敵だった1b型でも、約7割でウイルスを排除できるようになったといいます。
加えて、プロテアーゼ阻害薬とは仕組みの違う内服薬の開発も進んでおり、三上さんは「いずれ、内服薬だけでC型肝炎を治せる時代がやってくるだろう」と近い将来を展望しました。
*リバビリン=商品名レベトール
*テラプレビル=商品名テラビック錠
B型肝炎でも薬が効き続けるように
もう1つ、肝がんの大きなリスクとなるのがB型肝炎です。C型肝炎と同様、血液中のウイルス量が多いと肝硬変、肝がんへ進行しやすいことがわかっています。治療にはインターフェロンも用いられますが、柱となっているのは、「核酸アナログ製剤」と呼ばれる薬剤です。ただ、核酸アナログ製剤はB型肝炎ウイルスを減らすものの、体内から完全に排除することはできません。また、中断すると再びウイルスが増えるため、ずっと服用し続ける必要があります。さらに大きな問題は、飲んでいるうちに耐性化し、薬が効かなくなることです。最初に開発されたラミブジンという薬剤では5年で約70%の確率で耐性ウイルスが出現していました。しかし、研究が重ねられた結果、2006年に認可されたエンテカビルという薬剤では、耐性率が5%以下に低下。現在治験中のテノホビルという新薬ではさらに優れた成績が得られているということです(図3)。
こうしたデータを示した上で、三上さんは、C型肝炎、B型肝炎から肝硬変、肝がんへの進行を防ぐには、「まず肝炎ウイルス検査を受けてもらうこと。そして、リスクが高い方は、適切な肝炎治療を実施し、定期的に画像検査を行うことが大事」と指摘。さらに「自分の施設でできない画像検査については、地域の医療機関と連携し、肝がんの早期発見に努めてほしい」と述べ、話を締めくくりました。
同じカテゴリーの最新記事
- 免疫チェックポイント阻害薬の2剤併用療法が登場 肝細胞がんの最新動向と薬物療法最前線
- 肝がんだけでなく肺・腎臓・骨のがんも保険治療できる 体への負担が少なく抗腫瘍効果が高いラジオ波焼灼術
- 肝細胞がん薬物療法最前線 進行期でも治療法の組合せで治癒を狙える可能性が!
- 高齢の肝細胞がん患者さんに朗報! 陽子線治療の有効性が示された
- 手術やラジオ波治療ができなくてもあきらめない 難治性の肝細胞がんに対するナノナイフ治療(IRE)
- 高い治療効果が期待できる 切除不能・進行肝細胞がんの最新化学療法
- ラジオ波の利点はがんをくり抜き、何度でも 再発進行肝細胞がんと転移性肝がんの治療にもラジオ波焼灼療法が有望
- 治療選択の拡がりが期待される 肝細胞がんの1次治療に、約9年ぶりに新薬登場!
- 進行肝がんに対するネクサバールのマネジメント
- 手術ができれば根治も!肝内胆管がんの治療法