早期回復などのメリットがあるが、高い技術と高度な設備が不可欠
大きく切らないですむ腹腔鏡補助下肝切除術
九州大学病院消化器
総合外科講師の
武冨紹信さん
内視鏡による外科手術は近年とくに発達が著しい。そのポイントとなるのは人体を切開する度合いの低さと根治性へのあくなき追求だ。
九州大学病院消化器・総合外科が先進医療として行っている腹腔鏡補助下肝切除術は、従来の開腹手術と比較して術後の回復の早さ、コストメリットなど患者さんにとってさまざまな利点がある。
その利点を背後で支えるのは、経験に裏打ちされた医師の高い技術と病院の高度な医療設備である。
傷が小さく、回復が早い、入院が短い
腹腔鏡はへそ付近を1~2センチほど切開し空気を入れて膨らませ(気腹)、その穴から直径1センチほどの硬性鏡(ファイバースコープなど柔軟な素材を用いたものとは異なり、先端にレンズのついた硬性のシンプルなもの)を挿入してテレビモニターを通じて内部の様子を観察する方法である。
腹腔鏡補助下肝切除とは、この腹腔鏡の挿入部も含め5センチほどの切開を行い、さらに鉗子を挿入するための1センチ程度の切開を加えたうえで、ここから鉗子などを直接挿入して手術を行う手術のことである。
従来の開腹手術であれば胸からへそ付近にかけて体の真ん中 (上腹部正中)を15~20センチ、もしくはこの切開に加え15~20センチの横の切開をする必要があったが、腹腔鏡下の場合だと切開が小さいため患者さんの負担が大変軽い。
多くの患者さんは手術の翌日には立って歩くほどに回復し、退院までの日数は平均して術後10日前後ですむことからも、いかに小さな傷が実現されているかおわかりいただけるだろう。
入院が短期ですむことは、患者さんが負担する医療費についてもメリットがあることを意味している。
気になる重症の合併症においても、腹腔鏡下での手術のほうが従来の開腹手術よりも優れた結果を示している。
日本トップクラスの実績を誇る九州大学病院
腹腔鏡補助下肝切除の様子
しかし一方で、手術する側にとってはより高度な技術が要求される。肉眼ではなくモニターを通じての確認、カメラの角度に対する慣れ、小さな切開口を通じての狭い空間での鉗子やメスの操作など、通常の開腹手術とはまったく異なるために、きちんとしたトレーニングはもちろん、手術グループの連携訓練が欠かせない。
さまざまな医療設備の充実も必須条件であるため、どの病院でも気軽に行える手術ではない。患者さんは安全・身軽・短期入院といったかけ声に踊らされることなく、その手術が自分にとって適切であるかどうか、また手術を受ける病院が十分な技術を持つ医師と万全の設備・環境を備えているか、きちんと情報を収集して判断しなければならない。
九州大学病院消化器・総合外科肝臓移植グループでは、さまざまな肝臓疾患において、肝切除を中心に、マイクロ波凝固療法(MCT)やラジオ波焼灼療法(RFA)などの焼灼療法、肝動脈塞栓術あるいは肝移植と、それぞれの症例の肝機能や肝がんの状態に応じてベストの治療を選択しており、また術後患者のフォローアップにおいても優れた実績がある。肝切除の総数はこれまで1500例を超え、全国的にもきわめて評価が高い。
さらに、九州大学病院には国内でも数カ所しかない内視鏡外科手術トレーニングセンターが設置されている。同センターには九州大学大学院消化器・総合外科出身の外科医が数多くスタッフとして勤務しており、内視鏡外科の基礎的な手技から応用技術までを、一定のカリキュラムに沿って系統的に教育、トレーニングを行っている。
2000年7月に高度先進医療(先進医療)の認可を取得しており、腹腔鏡補助下肝切除術については日本、ひいては世界においても先駆け的存在である。適応症例においてはこの手術を積極的に用いることで、一貫して技術の標準化においての先進的な役割を果たしてきた。
今回は、この肝臓グループのチーフ、武冨紹信さんにお話を伺った。
肝機能、肝がんの大きさと位置から判断
腹腔鏡下での手術はすべての肝切除に適用されるわけではない。一体どういう場合に有効なのだろうか。
「当科では、肝がんに対しては肝切除を中心に、焼灼療法、あるいは肝移植など、それぞれの症例の肝機能や肝がんの状態に応じてベストの治療を選択しています。肝切除を行うと判断した場合、肝機能の状態、切除すべき肝がんの大きさと位置から判断し、腹腔鏡の補助下における肝切除が可能であると判断される場合には、腹腔鏡補助下肝切除を行う、ということになります。
基本的には左外側区域や右葉下端などの肝表面に存在する、比較的小型の肝がんに対して、腹腔鏡補助下肝切除を導入しています」
従来の開腹による手術と比較して、腹腔鏡補助下肝切除の場合、患者さんにとっては具体的にどのようなメリットがあるのだろうか。
「やはり一番の大きな利点は小さな切開にあり、患者さんへの負担が少ないのが特徴です。具体的には、通常の開腹では、縦(上腹部正中)に15~20センチほど、時には20センチの横の切開を加え開腹しますが、腹腔鏡補助下では体の真ん中付近に5センチと、3~4カ所の1センチ程度の切開ですみます。当然そのため回復も早くなり、当科の場合で言えば入院期間は検査入院を除き術後10日程度と短くなっています」
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