判断が分かれる難しい「がん」だから、治療の意義と選択肢をおさえたい
進行肺がんでも生存延長。抗がん剤による「維持療法」に期待
進行した肺がんに対する新しいアプローチとして「維持療法」が期待を集めています。
初回の治療後、これまでのように休薬期間を設けず、効果のあった抗がん剤を継続して使い続ける方法で、海外や日本で行われた大規模な臨床試験でも、その効果が実証されています。
進行がんが40%を占める
2010年の人口動態統計によると、1年間にがんで亡くなる人は35万3000人。そのうち肺がんは6万9000人ともっとも多く、しかも年々増加の一途をたどっています。タバコを吸う人が減っているのになぜ肺がんが増えているのか。ちょっと不思議です。
これは、禁煙効果で扁平上皮がんは着実に減少しているものの、一方で喫煙とは関係の薄い腺がんが増え、全体の患者数を押し上げているからです。
腺がんの増加について名古屋医療センターがん総合診療部長の坂英雄さんは「高齢化という要因が大きく関わっている」と説明します。
坂さんによると、肺がんのもう1つの特徴は、かかる人と亡くなる人の差が少ないということです。これは「治りにくい」ことを意味します。では、どうして治りにくいのか。最大の理由は、早期発見が難しく、見つかったときにはすでに進行しているケースが多いことです。
検査技術の進歩で、早期の段階で見つかる肺がんも増えています。坂さんたちも、肺の奥のほうにでき、発見が難しいといわれる小さな末梢型肺がんを、直径3~4㎜のごく細い気管支鏡を用いた方法で見出し、早期治療につなげています。
しかし、わが国全体としてみると早期発見される例はまだ少なく、新しく見つかる肺がんの実に40%は手術不能の進行がんといわれます。問題は、こうした肺がんをどう治療していくかですが、その前に肺がんの種類をみておきましょう。
手術できるケースはわずか、多くは化学療法が主体
肺がんは、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けられます。非小細胞肺がんはさらに、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんの3タイプに細分化されます。比率でいくと、小細胞肺がん15%、非小細胞肺がん85%という内訳です(図1)。
このうち非小細胞肺がんは、がんの広がりから次のようにステージ分類されます。
1期:がんの大きさが3㎝以下でリンパ節転移なし(1A期、3㎝~5㎝でリンパ節転移なしなら1B期)
2期:リンパ節転移あり、あるいは大きさが5㎝を超える
3A/B期:左右の肺の間の空間(縦隔)にリンパ節転移あり
4期:脳、肝臓など他の臓器に転移
非小細胞肺がんの治療でもっとも確実なのは、手術でがんの病巣やリンパ節を切除することです。1、2期ならそれが可能で、根治も期待できます。
また3期でも、手術の適応となる場合があります(3A期の一部)。しかし坂さんによると、「非小細胞肺がんの多くは進行した3B、4期の段階で見つかっており、手術できるケースは少ないのが実情」だといいます(図2)。
分子標的薬は標準治療のカベを越える?
切除不能の3B期以降の非小細胞肺がんに対しては、シスプラチン*、カルボプラチン*などのプラチナ製剤に、1990年代に登場した「新規抗がん剤」を併用するのが標準治療となっています。
新規抗がん剤には、タキソール*、タキソテール*、ジェムザール*などがあり、2000年代には、アリムタ*が登場しました。治療は、選ぶ薬剤にもよりますが、3~4週間を1サイクルとして4~6サイクル行われるのが普通です。
最近では、がん細胞にある種の遺伝子異常がある場合は、イレッサ*などの分子標的薬を使うことが多くなりました。
イレッサは、EGFRという受容体のチロシンキナーゼを標的に攻撃を加え、がん細胞が増殖するのを抑えたり、死滅させる薬剤です。よく効くのはEGFR遺伝子に異常のある人で、こうした患者を対象にした国内の臨床試験(WJTOG3405試験、NEJ002試験:2010年)では、標準治療(プラチナ併用2剤療法)に比べ、再発までの期間を有意に延ばすことが確認されています。
EGFR遺伝子に異常があるケースにしか使えませんが坂さんは「標準治療のカベを越える可能性を秘めた薬剤」と高く評価します。
*シスプラチン=商品名ランダ/ブリプラチン *カルボプラチン=商品名パラプラチン *タキソール=一般名パクリタキセル *タキソテール=一般名ドセタキセル *ジェムザール=一般名ゲムシタビン *アリムタ=一般名ぺメトレキセド *イレッサ=一般名ゲフィチニブ
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