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進行別 がん標準治療
がんのタイプ、進行状況によって異なる治療法に注意!

監修:佐々木康綱 埼玉医科大学臨床腫瘍科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
(2003年12月)

佐々木康綱さん
埼玉医科大学臨床腫瘍科教授の佐々木康綱さん

肺がんは、患者数が年々増加しているにもかかわらず、早期発見が難しいがんです。2015年には、男性は年間11万人、女性は4万人近くが肺がんになるという予測も行われています。

今のところ、早期から進行がんも含めて肺がん全体の5年生存率は、20パーセント足らずとされています。しかし、ここ数年次々に新規抗がん剤が登場してその効果が認められ、肺がん治療にも少しずつ光明が見えてきました。

今、肺がんではどういう治療が標準とされているのか、埼玉医科大学臨床腫瘍科教授の佐々木康綱さんに聞きました。

がんの分類

がんの進行度、タイプによって治療法が異なる

東京で開催された世界肺癌会議
東京で開催された世界肺癌会議

がん治療では、がんの進行度によって治療法が変わってきますが、肺がんの場合、タイプによっても治療方針は大きく変わってきます。

肺がんは、がん化した細胞の種類によって、小細胞肺がんとそれ以外の非小細胞肺がんに分類されます。非小細胞がんには、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんという三つの種類に大別されます。小細胞がんは、肺がん全体の1割5分を占めているので、非小細胞がんは8割5分をしめることになります。中でも、最近増加しているのは、腺がんです。

小細胞がんと非小細胞がんでは、がんとしての性質にかなり違いがあります。小細胞がんは、細胞の分裂速度が早いので、進行も早く、転移も起こしやすいがんです。そういう意味では、がんとしてのタチは良くないのですが、このタイプのがんには抗がん剤や放射線治療がよく効くことが知られています。一方、非小細胞がんは、小細胞がんより進行のしかたはゆっくりしています。しかし、抗がん剤や放射線に対する反応は、小細胞がんほど高くはないのが特徴です。


[肺がんの進行度]
肺がんの進行度
[患者のための肺がんの治療ガイドライン]
患者のための肺がんの治療ガイドライン

[肺とがんのできる部位]
肺とがんのできる部位
[肺がんの種類]
肺がんの種類

小細胞肺がんの標準治療

小細胞がんの治療は、限局型と進展型に分けて考えられています。限局型は、片側の肺に限局したがんで、近くのリンパ節(縦隔や鎖骨のリンパ節)にのみ、転移が見つかるものです。これに対して、がんが肺の外にまで広がり、胸水がたまったり、他の臓器に転移を起こしたものが進展型です。

限局型

放射線と抗がん剤の同時併用療法が標準治療

がんといえば、まず手術で摘出するもの、一般にはそう考える人が多いと思います。しかし、小細胞がんはこうした常識にはあてはまらないようです。佐々木さんによると、現在、限局型の小細胞がんの治療は、放射線と抗がん剤の同時併用療法が標準治療になっているそうです。

「限局型でも、ごく初期のステージ1a期(3センチ以下で局所にとどまるリンパ節転移のないがん)で、稀に手術で治る人もいることは事実です。そこで、かつては小細胞がんでも手術が行われた時期がありました。

ところが、実際には目に見えないところで広がっている可能性が高く、術後に再発が多かったこと、加えて抗がん剤に対する反応がよいということから、放射線化学療法が中心になったのです。今後、PETなどの新しい診断技術の導入によりがんの広がりを正確に評価できるようになれば、手術を見直すこともあるかもしれません」と佐々木さんは語っています。

PET=がん細胞が糖を多く代謝する性質を利用し、糖に放射性同位元素をつけて体内に入れ、特殊なカメラで撮影して体内のがん病巣を見つけ出すもの

化学療法と放射線治療を同時に行うほうが効果が高い

化学療法と放射線治療は、どちらかを先に行うよりも、併行して同時に行うほうが効果が高いことが、すでに複数の臨床試験の分析から明らかにされています。

具体的には、抗がん剤はブリプラチンもしくはランダ(一般名シスプラチン)と、ベプシドもしくはラステット(一般名エトポシド)の組み合わせが現在のスタンダードです。初日にブリプラチンもしくはランダ、初日から3日間連続してベプシドもしくはラステットを投与します。これを3~4週ごとに4回繰り返します。

がんの進行度、タイプによって治療法が異なる

一方、放射線治療は併行して1日に2回、朝と晩に1.5 グレイずつ、合計45グレイ照射します。放射線治療を同時に行うことで、3年生存率が5パーセント上乗せされることが認められています。

「こうした治療によって、進展型小細胞がんの平均生存期間は24カ月を超えるようになった」(佐々木さん)のだそうです。

さらに、こうした治療によって肉眼的にがんが消失した場合には、「予防的全脳照射」という放射線治療が行われます。 「脳には、脳血液関門があるので、抗がん剤が入らない」からだそうです。脳は、重要な臓器なので、外部から異物が容易に侵入できないように、脳血液関門という一種の関所のような関門があります。抗がん剤もこの関門をすり抜けることができません。そのため、「肺の病巣が消えても、数年後に脳にポコっとがんが出ることがある」のだそうです。つまり、肉眼ではとらえられなかったがんが、大きくなってくるのです。これを防ぐために、あらかじめ放射線を照射し、再発の芽を摘んでしまうのが、予防的全脳照射です。通常は、20~30グレイ照射するそうです。

「限局型は、治癒に持ち込むことも十分に可能です。3年生存する人が20~30パーセントあり、この中に治癒にいたる人もたくさんいます」と佐々木さんは語っています。