診療科の枠を越えた対応が必要に
非小細胞肺がんⅢ(III)期は治療選択が多く 正確な診断が重要
中島崇裕さん
非小細胞肺がんのⅢ(III)期と言ってもその範囲は広く、治療の選択肢は多岐にわたる。放射線療法と化学療法を組み合わせた集学的治療がいいのか、そこに手術を加えたほうがいいのか、個々の患者の状況によって、判断が必要になってくるという。そしてその前提として、正確な診断・評価が重要になってくることは言うまでもない。Ⅲ(III)期の診断、治療はどのように進めていくべきか、専門家に聞いた。
病状が幅広い Ⅲ(III)期の非小細胞肺がん
Ⅲ(III)期の非小細胞肺がんには、どのようながんが含まれるのだろうか。それを示したのが表1である。主腫瘍の状態を表す「T因子」、リンパ節転移の状態を表す「N因子」、遠隔転移の状態を表す「M因子」の組み合わせで、病期が分類されている。千葉大学大学院医学研究院呼吸器病態外科学助教の中島崇裕さんに、Ⅲ(III)期の肺がんについて解説してもらった。
「この表を3つの部分に分けると、どんながんがⅢ(III)期に分類されるのか、わかりやすくなります。まずT因子がT4の状態なら、N因子やM因子に関係なくⅢ(III)期です。また、N因子がN2かN3なら、T因子に関係なくⅢ(III)期になります。これにT3N1を加えたのが、Ⅲ(III)期の非小細胞肺がんです」
T因子に関しては、2㎝以下がT1a、それを越えて3㎝までがT1b、5㎝以下がT2a、7㎝以下がT2b、7㎝を超えたらT3、大血管や周囲臓器に浸潤していればT4となる。
N因子に関しては、肺の入り口近くの肺門リンパ節に転移があるのがN1である。気管分岐部の下、食道の横、気管の周囲など、腫瘍と同側の縦隔リンパ節に転移があるのがN2。反対側の縦隔リンパ節まで転移が広がっているがN3である(図2)。
M因子に関しては、遠隔転移があるものがM1となる。
「Ⅲ(III)期と診断される非小細胞肺がんは非常に幅広いため、治療の方法も多岐にわたっています。そこで千葉大学医学部附属病院では、呼吸器外科医、呼吸器内科医、腫瘍内科医、場合によっては放射線科医が集まってカンファレンスを開き、治療選択が難しい患者さんの治療方針について個別に検討するようにしています」
診断法を進歩させた EBUS-TBNA
多岐にわたるⅢ(III)期の非小細胞肺がんの治療では、正確に診断することがまず重要になる。T因子、N因子、M因子の状況によって、治療法が変わる可能性があるからだ。
主腫瘍のT因子については、画像検査で診断する。使われるのは、1㎜幅のCT(Thin slice CT)と造影CTである。
一方、リンパ節転移のN因子については、かつて日本では、CTなどの画像検査だけで診断していた。ところが欧米では、リンパ節転移の診断は、病理検査による質的診断を行うのが標準とされていたという。喉の下を2㎝ほど切開し、そこから縦隔鏡という内視鏡を挿入して、気管支や気管の周囲からリンパ節を採取してきて、顕微鏡でがん細胞の有無を調べる。全身麻酔をかけて行う検査である。
「全身麻酔をかけて行う縦隔鏡検査は侵襲が大きく、日本ではあまり普及しませんでした。そこで画像検査に頼っていたのですが、CTでリンパ節が腫れていても、必ずしもがんの転移とは限りません。とくに喫煙者の中には、リンパ節が炎症で腫れている人が少なくないのです。逆に、CTで腫れていなくて、PETでも大丈夫そうに見えても、リンパ節転移がないとは言い切れません。リンパ節の組織を採って病理検査をしてみない限り、正しいことはわからないのです」
こうしたニーズに応えたのが、千葉大学とオリンパスが共同で開発したEBUS-TBNA(超音波気管支鏡ガイド下針生検)という検査法である(写真3)。先端に小さな超音波発信装置のついた気管支鏡を入れ、気管の周囲のリンパ節を画像に映し出し、その画像を見ながら気管支鏡から針を刺して、組織を採取してくるのである。
「EBUS-TBNAは局所麻酔と鎮静薬を使って行われます。病理検査で正しい診断がつくのは縦隔鏡検査と同じですが、侵襲が少ないのが大きなメリットです。縦隔鏡検査を行うと癒着が起き、再検査するのは困難ですが、EBUS-TBNAなら繰り返し行うことができるため、治療後の効果判定のために実施することもできます」
EBUS-TBNAは普及が進んでいるが、まだどこの施設でも受けられる状況ではない。しかしガイドラインでは、画像検査の結果、縦隔リンパ節転移が疑われる患者、中枢型肺がん(腫瘍が比較的中心部分にできている肺がん)の患者、N1の領域のリンパ節が腫れている患者には、EBUS-TBNAを行うことが推奨されている。
遠隔転移のM因子に関しては、PETを中心にした画像検査で診断する。骨転移や脳転移が疑われる場合にはMRIを加えて調べることになる。
Ⅲ(III)B期は放射線化学療法に 場合によっては手術も加える
Ⅲ(III)期と診断された場合、どのような治療法になるのか。まず、Ⅲ(III)B期の治療を見てみてみよう。
Ⅲ(III)B期には、対側リンパ節に転移があるN3の場合と、大血管や周囲の臓器に浸潤しているT4の場合がある。
「N3の場合、反対側のリンパ節にも転移しているので、全身病と考えます。そのため、基本的には手術ではなく、放射線化学療法もしくは化学療法が行われます」
T4に対しては、浸潤している大血管や隣接臓器を一緒に切除する手術が行われることもある。手術できない場合には、放射線化学療法や化学療法が行われる。
「手術で完全切除できた場合、比較的良い治療成績が得られます。ただし、合併症が起こる率も高いので、手術を行えるかどうかについては、外科医が加わって慎重に判断する必要があります。浸潤の部位や程度、患者さんの全身状態(PS)、呼吸機能なども考慮して、治療方針を決定します」
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