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バイオマーカーをよく理解し、より効果的な治療を受けよう
個別化治療を推し進める肺がんのバイオマーカーとは?

監修:山本信之 静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科部長
取材・文:平出浩
発行:2010年6月
更新:2019年7月

  
山本信之さん 静岡県立静岡がんセンター
呼吸器内科部長の
山本信之さん

今、肺がんは、がん治療のなかでも個別化治療が進んでいる分野の1つ。その個別化治療を急速に推し進めているのがバイオマーカーの存在だ。治療効果だけでなく、副作用に関しても重要な意味をなしている。

注目を集める肺がんのバイオマーカー

がんの分子標的薬による治療が進むにつれて、「バイオマーカー」という言葉が知られるようになってきた。

バイオマーカーとは、尿や血液中に含まれる物質、あるいは生体の試料(試験・分析・検査に使用される物質や見本など)と一応、定義される。「一応」と断わったのは、バイオマーカーの定義自体がまだ不明瞭であるからだ。バイオマーカーによって、治療の効果や副作用などを推し量ることができ、近年注目を集めている。

肺がんのバイオマーカーとして知られているのが「EGFR(上皮成長因子受容体)」と肝臓や腸管によって産生される酵素の1つ「UGT1A1」だ。なかでもEGFRは肺がんの治療に大きな影響を与えている。

イレッサの効果とEGFRの遺伝子変異

肺がんは細胞の種類によって、大きく「小細胞がん」と「非小細胞がん」に分けられる。

非小細胞がんは、従来ある抗がん剤が効きにくく、20~30パーセントの人はがんが小さくなるが、消えるには至らず、70~80パーセントの人は、がんが小さくもならなかった。

しかし、そこに分子標的薬のイレッサ(一般名ゲフィチニブ)が登場して、様相が一変する。

このあたりの状況について、静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科部長である山本信之さんは次のように説明する。

「イレッサを投与すると、効果がほとんどなく、強い副作用が現れる一定の患者さんがいる一方、がんが大きく縮小する患者さんもいました。つまり、イレッサが効く人と効かない人との差が大きかった。この理由や背景を突き止めるために、イレッサに対するバイオマーカーの研究が始まりました」

山本さんはさらに続ける。

「イレッサのバイオマーカーの研究が始まる以前から、女性、腺がん、アジア人、非喫煙者にイレッサは効きやすいということが経験上、報告されていました。ただ、その理由はわからなかった。そこで、関係性を指摘されるようになったのがEGFRの遺伝子変異なのです」

その後、EGFRの研究が進むと、今度は反対にEGFRの遺伝子変異がある人のがんは、腺がんで、アジア人、非喫煙者が多いことがわかってきた。つまり、どうしてイレッサが効くのか、その本質は、EGFRの遺伝子変異があることだとわかってきたのだ。なお、イレッサの治療の対象になるのは、手術ができない進行した非小細胞肺がんと、非小細胞肺がんの手術後に再発・転移した人である。

EGFRの遺伝子変異があるかどうかは、気管支鏡で患者の細胞を採取し、細胞診という検査をすることでわかる。保険が適応になり、検査料金は2万円。ただし、3割負担のため、窓口で払うのは6000円になる。保険が適用される検査は、原則として1回のみだ。

[従来の抗がん剤とゲフィチニブの効果の出方の違い]
図:従来の抗がん剤とゲフィチニブの効果の出方の違い

EGFR遺伝子変異がある場合イレッサを考慮

EGFRの遺伝子変異の有無と治療の関係について、具体的に見てみよう。

IPASS試験と呼ばれる比較試験(臨床試験)がある。この試験では、EGFR遺伝子についてよくわかっていなかったため、「腺がん・東アジア人・非喫煙者」の人を対象に、肺がんの従来の標準治療であるパラプラチン(一般名カルボプラチン)+タキソール(一般名パクリタキセル)とイレッサの治療効果について比較した。

IPASS試験では、主にがんが増悪するまでの期間を調べた。その結果、EGFRの遺伝子変異がある人では、イレッサのほうが、従来の標準治療よりも、がんが増悪するまでの期間を約2倍、延ばすことができた。

しかし反対に、EGFRの遺伝子変異のない人にイレッサを使うと、従来の標準治療よりも、がんが早く増悪することもわかった。一方、従来の標準治療では、EGFRの遺伝子変異の有無に大きな差はなかった。

しかし、このIPASS試験のエビデンス(科学的根拠)はやや落ちる。なぜなら、EGFRの遺伝子変異がある人だけを対象にした試験ではないためだ。

そこで、ほぼ同時期に行われた、もう1つの試験についても紹介しよう。

この試験では、EGFRの遺伝子変異のある日本人だけを対象に、イレッサとパラプラチン+タキソール、さらに、イレッサとシスプラチン(商品名はランダなど)+タキソテール(一般名ドセタキセル)での比較がなされた。結果はIPASS試験と同様で、EGFRの遺伝子変異のある人にイレッサを投与した場合、がんが増悪するまでの期間が最も延びることがわかった。

これら2つの試験結果などを受けて、ASCO(米国臨床腫瘍学会)は、進行した非小細胞肺がんの第1選択の治療法について、EGFRの遺伝子変異のある場合にはイレッサを考慮してよいと、治療ガイドラインを改めた。

「EGFRの遺伝子変異のある患者さんに対してだけ、イレッサは特異的に効果を発揮します。その奏効率は80パーセントに及びます。ただし、EGFRの遺伝子変異のない患者さんに、イレッサはほとんど効きません」

と山本さんは話す。

[EGFR遺伝子変異がある人へのゲフィチニブの効果]
図:EGFR遺伝子変異がある人へのゲフィチニブの効果

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