新たな分子標的薬の登場で、劇的な効果がみられる人も
選択肢が増えてきた!! 非小細胞肺がんの最新化学療法
国立病院機構沖縄病院
副院長の
久場睦夫さん
肺がん全体の約8割を占める非小細胞肺がん。その非小細胞肺がんの治療において、化学療法は重要な位置を占めている。
とくに最近では、イレッサ、タルセバなど新たな分子標的薬の登場で、患者さんにはさまざまな選択肢が出てき始めた――。
肺がんの多くは化学療法が必要
治療方針 | |
---|---|
1A期 | 手術 |
1B期 | 手術+術後化学療法 |
2A期 | 手術+術後化学療法 |
3A期 | 手術+術後化学療法、放射線、化学療法+放射線 |
3B期 | 化学療法+放射線、放射線、化学療法 |
4期 | 化学療法 |
肺がんになると、どのような治療が行われるのだろうか。まず、そこから話を始めることにしよう。肺がんは、全体の15~20パーセントを占める「小細胞肺がん」と、その他の「非小細胞肺がん」に分類することができる。ここでは、肺がんの多くを占めている非小細胞肺がんに絞って話を進めたい。
非小細胞肺がんの治療方法は、病期によって異なっている。国立病院機構沖縄病院の久場睦夫さんは、病期ごとの治療法を次のように説明してくれた。
「手術が可能なのは、原則として1期から3A期まで。ただし、3A期の中には、手術が適応とならないケースもあります。3B期、4期に対しては、原則として手術は行われません。手術が適応とならない場合には、化学療法と放射線治療を同時併用する化学放射線療法、あるいは単独での化学療法が行われます」
手術の対象となるのは、1A期、1B期、2A期、2B期、3A期とかなり幅広いが、実は手術だけで治療が終了となるケースはあまり多くない。手術後の再発を防ぐ目的で、術後化学療法が行われることがあるからだ。体内に残っているかもしれないがんを攻撃するために、化学療法が行われるのである。
「1B期では行われないこともありますが、行うことで再発率が下がることがはっきりしています。2A期、2B期でも、術後化学療法は有効だという結果が出ています。3期の場合、もともと再発率が高いため、1期や2期の場合ほど術後治療の効果ははっきりしていませんが、それでも勧められています」
つまり、手術は3A期まで可能だが、手術だけで治療が終わりになるのは、1A期の場合だけなのだ。では、非小細胞肺がんの患者さんのうち、1A期の手術のみで治療が終わる人はどのくらいいるのだろうか。久場さんによれば、それは約3割に過ぎないという。つまり、非小細胞肺がんの患者さんの約7割に対しては、何らかの形で化学療法が行われており、化学療法が重要な位置を占めているのである。
術後治療では2剤併用の化学療法が行われる
では、どのような化学療法が行われるのだろうか。術後化学療法から解説してもらった。
1B期の場合、TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)が標準的な治療だという。経口剤なので、点滴で投与する抗がん剤に比べ、たびたび通院しなくてもいいというメリットがある。服用期間はまだ明確に決まっていないが、1~2年ほど継続する。
「ただし、1B期の場合、必ず術後治療を行うとは限りません。高齢の患者さんなどに対しては、術後化学療法を行わないこともあるのです」
1B期では、もともと再発率があまり高くないので、体力の低下している高齢者の場合、化学療法を行うリスクのほうが大きくなることも考えられるのだ。
2期以降の患者さんに対する術後化学療法は、「プラチナ製剤+新規抗がん剤」の2剤併用が行われることが多い。
プラチナ製剤とは白金を含む抗がん剤のことで、ブリプラチンまたはランダ(一般名シスプラチン)やパラプラチン(一般名カルボプラチン)が使われる。
新規抗がん剤は、主に90年代に登場してきた抗がん剤で、それ以前からあった抗がん剤に比べ、副作用の自覚症状が比較的軽い。タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)、ナベルビン(一般名ビノレルビン)、トポテシンまたはカンプト(一般名イリノテカン)などの種類がある。
「たとえば、シスプラチン(一般名)とタキソールというように2剤を組み合わせ、2~4コースの治療を行います。使う薬によって異なりますが、1コースに要する期間は3~4週間です。プラチナ製剤と新規抗がん剤は、進行・再発肺がんの治療でも使われます。ただ、進行・再発では、放射線治療と併用する化学放射線療法が行われますが、術後治療では放射線治療を併用することはありません」
かつては放射線治療も行われていたが、その後行われた臨床試験によって、術後の放射線治療の有効性は否定されているという。
進行・再発の治療は化学放射線療法が中心
肺がんが進行していて、治癒を目的とした手術が適応とならない場合には、化学療法や放射線治療が行われる。手術後に再発が起きた場合も同様だ。
使われる抗がん剤は、やはりプラチナ製剤と新規抗がん剤を組み合わせる2剤併用が、標準治療とされている。抗がん剤は術後化学療法の場合と同様だが、09年に新たにアリムタ(一般名ペメトレキセド)が加わった。
「局所進行の手術不能例では、放射線治療を同時に行う化学放射線療法が行われることがありますが、プラチナ製剤には放射線の感受性を高める作用があるといわれています。つまり、プラチナ製剤を使うことで、放射線治療の効果を高めることができるわけです」
放射線治療を併用する場合には、抗がん剤の投与量を通常より少なめにすることが多いという。化学療法単独の場合より大きな効果が期待できるが、副作用も強く出るためだ。
「とくにパラプラチンを使う場合には、骨髄抑制による白血球の減少などに注意する必要があります。シスプラチン(一般名)とパラプラチンを比べると、骨髄抑制に関しては、パラプラチンのほうが強く出るからです」
高齢者や全身状態が悪い場合には、化学放射線療法は行わない。全身状態を示すPS(パフォーマンス・ステータス)は0~4の5段階で表わされるが、PS3(身のまわりのことはある程度できるが、しばしば介助が必要で、日中の50パーセント以上は就床している)以下の状態であれば、化学放射線療法は行わない。化学療法を行う場合、PSは非常に重要である、と久場さんはいう。全身状態が悪いと副作用が出やすいので、常に注意が必要になる。なお、胸郭外転移のある4期の場合は化学療法が行われる。
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