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栄養療法+消化酵素補充療法で予後が改善! 膵がんは周術期の栄養が大事

監修●松尾洋一 名古屋市立大学病院消化器・一般外科副部長・教授
取材・文●半沢裕子
(2021年12月)

「膵がんの集学的治療が標準治療になった今、膵がんの予後を改善するのは栄養管理、栄養療法です」と語る松尾洋一さん

10年くらい前まで「手術が可能なら手術、不可なら化学療法」と、ほぼ二択しかなかった膵がん治療。しかし、近年では手術と化学療法、場合によっては放射線治療などを組み合わせた集学的な治療により、難治がんながら、予後の改善が期待されるようになっている。

それと合わせて期待されているのが、術前、術後の栄養管理を行うことで、予後をさらに伸ばすことだ。今年10月23日に開催された第59回日本癌治療学会学術集会における報告をもとに、名古屋市立大学病院消化器外科副部長で教授の松尾洋一さんに解説していただいた。

術前化学療法が逆に不利益になることも

最新の『膵癌診療ガイドライン2019』に掲載された「膵がん治療のアルゴリズム」には、それまでなかった「切除可能性分類」が加えられた。すぐ手術したほうがいいのか、術後化学療法でがんを小さくして手術したほうがいいのか、術後に化学療法や放射線治療を組み合わせたらいいのか、など、集学的治療により細分化した治療を効果的に選択するための分類と言える(図1)。

「手術の前に化学療法を行うことで、がんを切除できるケースは増えました。実際、少しでもがんを小さくして手術をしたほうが、より根治的な治療ができるのは間違いありません。その一方、消化器のがんである膵がんではそもそも栄養の吸収が悪く、体重が減っている場合が多い。そういう患者さんが術前化学療法によってさらに食べられなくなり、弱ってしまうことも少なくありません。結果、膵液が漏れるなどの合併症も多くなり、術後の化学療法に予定通り入れないこともあります。膵がんの治療において周術期(手術を行う患者さんの術前から術後の一連の期間のこと)の栄養状態を維持し、体重を落とさないことはきわめて大事なのです」と語る名古屋市立大学病院消化器外科副部長・教授の松尾洋一さん。

それを明らかにした論文も出たという。2020年3月、Pancreatology誌に掲載された「NAC前後のPNIの変化による全生存率比較」だ。術前化学療法(NAC)の前後に栄養状態の指標であるPNIを調べ、化学療法で栄養が悪くなった群と悪くならなかった群の全生存率を比較したもので、全生存期間に明らかな差が出ている(図2)。

「同じくらいの膵がん進行度でも、化学療法のために食べられなくなったり、食べても栄養が十分に吸収されなくて体重が減少してしまうと、術後の生存率に差が出てしまうことがわかります。予後(よご)を良くするための術前化学療法を行うのに、その際に体重が減ると、逆に患者さんには不利益になることがあります。ですから、化学療法で体重を減少させないことが重要なのです」

化学療法で体重を減少させないため、名古屋市立大学病院では術前化学療法の段階から管理栄養士が加わり、栄養指導を行っている。その中には経腸栄養剤を、できれば朝晩(1日2パック)、患者さんに飲んでもらうことも含まれる。ちなみに同病院ではイノラス(商品名/1パック300kcal)を処方しているという。

PNI=栄養の指標である血清アルブミン濃度とリンパ球数から計算される予後栄養指数 Prognostic Nutritional Index のこと

不足する脂肪分解酵素を補充する

しかし、実はこれだけで栄養状態を大幅に改善にするには至らないとのこと。なぜだろう。それは、がんのために低下してしまう膵臓の機能と大きくかかわっている。

膵臓は胃の後ろにある長さ15~20㎝の臓器で、2つの機能を持つ。1つは胃で消化された食べ物を十二指腸で分解するための膵液をつくり、分泌する機能(外分泌機能)だ。

膵液は糖質を分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなどの消化酵素、核酸の分解酵素などから成り、なんでも溶かす強力な消化液だ。これらの酵素により分解された栄養素が十二指腸から吸収され、体に行きわたることになる。

もう1つは、糖の代謝に必要なホルモンを分泌し、血液中の糖(血糖)の量をコントロールする機能(内分泌機能)だ。その代表はインスリンで、血糖を使ってエネルギーをつくる働きをする。インスリンの分泌が少なくなったりうまく働かなくなったりすると、血糖がエネルギーに代わらず血液中に増えるため、血糖値が上がる。これが糖尿病だ。

膵臓から分泌されるホルモンにはほかに、血糖の量が不足すると、肝臓に糖をつくらせる働きをするグルカゴンもある。しかし、血糖を上げる働きをもつホルモンは成長ホルモンなどほかにもあるが、血糖を下げるホルモンはインスリンだけなので、インスリンが働かない=血糖値が上がるところから、膵がんが発見されることもある(図3)。

どちらも栄養状態に大きく関与するが、外分泌機能は直接的に栄養の分解・吸収に関わるため、膵がんにかかった時点で外分泌不全が起こることが多いという。食べても栄養が十分に吸収されないのだ。そのため、栄養指導や栄養補助食品を摂取してもらうだけでは栄養状態が改善されにくいことになる。そこで、行われるのが脂肪を分解する消化酵素、リパーゼを内服薬で補う療法(膵酵素補充療法)だ。

脂肪は健康な人が摂り過ぎると肥満の原因となるが、体にとって非常に大きなエネルギー源となる重要な栄養素。そこで、摂った脂肪が十分に吸収されるよう、脂肪分解酵素のリパーゼを投与するわけだが、1食に含まれる脂肪を分解するのに必要なリパーゼは7万単位で、これまでの内服薬の用量ではまったく足りず、規定を超える量を飲む必要があった。実際、1回に30カプセルという、到底続けられるとは思えない量だったという。

この状況が2011年、リパクレオン(一般名パンクレリパーゼ)の発売により変わったと松尾さんは言う。

「1カプセルが1万~1.6万リパーゼ単位(5~8gの脂肪を分解)なので、4カプセル飲めばほぼ必要量を摂取することができます。膵がんの患者さんの多くは膵機能が悪く、脂肪食を食べても吸収されずに便に出てしまうことが多いので、『栄養のある食事をし、栄養補助食品を摂り、この薬を飲むことで少しでも脂肪を吸収し、エネルギーとして蓄えておきましょう』と指導しています」

「食事に含まれる脂肪量の目安」を見ると、脂肪を多く含む食べ物としてトンカツ、ラーメン、てんぷら定食、ショートケーキなど、健康な人なら「これを制限なく食べられたら」と夢見るようなメニューが並んでいる。膵がんの患者さんはこれらのメニューを少しでも楽しんで摂り、膵酵素補充薬を飲んで、手術や化学療法に備えていただきたいところだ(図4)。