研究報告 9年間990人の追跡調査から良好な成績が明らかに

小線源療法の長期生存率は91.8% 高リスク患者さんにも有効

監修●矢木康人 東京医療センター泌尿器科
取材・文●伊波達也
発行:2014年2月
更新:2014年5月

  

「この長期効果によって小線源の治療範囲は広がります」と話す
矢木康人さん

小線源療法は、これまで低リスクの早期前立腺がんが治療対象とされていた。数多くの治療症例を有する東京医療センターでは、永久密封小線源療法を施行した患者さんを対象に、長期的な追跡調査を行った。その結果、生存率、PSA 非再発率などから見た治療効果も高く、中リスク群・高リスク群にも有効性が高いことなどが明らかになり、今後の前立腺がんの標準治療が変わる可能性のあるデータが示された。

高リスク群においても根治性と機能温存を

前立腺がんの治療において、根治性と機能温存を高いレベルで実現できる治療として、希望する人が多い永久密封小線源療法(小線源療法)。この治療を全国に先駆けて2003 年より開始したパイオニア的な施設として知られる東京医療センター(泌尿器科・放射線科)。これまでに、累計で2100 例以上の治療に携わっている。

現在、小線源療法は、早期の限局がんに適応する標準治療として、手術同様、多くの患者さんに実施されているが、同センターでは、高リスク群といわれる悪性度が高く、腫瘍体積の大きいがんについても治療を行い、効果を上げている。

同センター泌尿器科の矢木康人さんは、高中低リスクそれぞれの治療方針を次のように説明する(図1)。

図1 リスク別の小線源療法の治療方針(東京医療センター)

「低リスク群(触知不能の限局がん)は、小線源療法単独で治療します。

中リスク群(前立腺に限局した限局がん)は、さらに2 つに分類しています。グリソン・スコア7(3+4=7)で生検でのがんの本数が34%未満の患者さんは、小線源療法単独の治療を、それ以外の患者さんは外照射の放射線療法との併用治療を行います。

高リスク群(前立腺の被膜に浸潤した局所進行がん)では、外照射の放射線療法を併用し、さらに小線源療法前後に3 カ月ずつ、合計6 カ月のホルモン療法も行います」

5年生存率96.6% 9年生存率91.8%

同センターでは、前立腺がんの小線源療法を受けて、治療後5 年以上経った低中高リスク群合計990 人の患者さんの長期追跡を行った。その分析結果を矢木さんは、2013 年10 月に第51 回日本癌治療学会学術集会で報告した。対象となったのは、2003 年9 月から2008 年4 月までに治療を受けた5 年以上の経過観察が可能だった患者さんだ(表2)。

表2 990人の患者背景

※全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)のリスク分類による
図3 全生存率

図4 リスク別PSA非再発率

図5 合併症に関しての治療満足度

患者さんへのアンケートにより、身体状況の満足度が治療前から治療後にどう変化するかを、各治療法ごとに集積したもの

「5 年生存率は96.6%、9 年生存率でも91.8%という結果が出ました(図3)。5 年PSA 非再発率という厳しい基準の分析でも、リスク別にみると、低リスク群が98.5%、中間リスク群が94.3 %、高リスク群が86.5%というかなり良好な治療成績でした(図4)」

これはアメリカなどの治療成績データと比較してもそれをしのぐ良い成績だという。

「この長期成績結果は、小線源療法の症例数をまだそれほど積んでいない日本の施設で、今後の治療方針の指標にしていただけるのではないかと思います。限局性の前立腺がんには、低リスク群のみならず、中間リスク群、さらには高リスク群に対しても、今後は十分標準治療としての適応が期待できると考えられます」

同センターでは、排尿障害や性機能障害など治療による合併症について、患者さんにアンケートをとっている。その回答を見ても、かなり合併症が回避されており、QOL(生活の質)が保たれているという(図5)。

「今までは、若い患者さんは手術を選んでいるケースが多かったのですが、このデータを知ると、今後は小線源療法を選ぶ人が増えるかもしれません」

PSA非再発率=前立腺のがん細胞が増殖すると増加するPSA(前立腺特異抗原)の血中濃度が上昇しない人の率

治療前にホルモン療法 小線源療法と外照射を併用

実際、同センターにおける高リスク群の患者さんへの治療の流れはこうだ。

小線源療法前に、ホルモン療法を3 カ月間行い、その後に3 泊4 日の小線源療法、そして、その後に3 カ月間、外照射による放射線治療とともにホルモン療法を併行して行っている。

「治療前のホルモン療法は、放射線の治療効果を高めるために行います。また、前立腺が大きいために小線源療法の対象外ながら治療を希望する患者さんが前立腺の体積縮小を目的に、治療前のホルモン療法を延長して行うこともあります。

高リスク群の患者さんに、外照射が終了時までホルモン療法を併用することの効果を確認する試験はすでに終了し、現在その解析結果を待っているところです」

高リスク群における治療で、小線源療法と外照射の放射線療法を実施する場合には、小線源療法では、通常160Gy を110Gy に、外照射の放射線療法は76Gy を45Gy と照射をそれぞれ6 割ぐらいにして治療しているという。

小線源とロボットで 早期がんは治せる時代へ

現在、同センターでは、小線源療法のみならず、手術ロボット・ダヴィンチによるロボット手術による前立腺がんの治療も行っている。「ロボット手術は、従来の腹腔鏡手術と比べて、かなり細かい手技が可能なので、括約筋や神経を温存でき、排尿障害や性機能障害などの合併症はかなり防げます。小線源療法、ロボット手術、それぞれの治療をじっくり説明して、患者さんに治療を選択していただいています」

前立腺がんは早期に見つかれば、根治とQOL の両方を得られる、もはや怖くないがんになったと言えるだろう。

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