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諦めない去勢抵抗性前立腺がん薬物治療

ホルモン療法不応の前立腺がん 薬の使い方に工夫、新たな治療薬も続々と

監修●森山正敏 横浜市立市民病院泌尿器科科長
取材・文●町口 充
発行:2014年2月
更新:2014年5月

  

「続々と新薬が登場します。
期待してほしい」と森山さん

前立腺がんにはホルモン療法が極めて有効だ。しかし、治療を続けていくと効果がなくなり、再び悪化してしまう。これを「去勢抵抗性前立腺がん」と呼ぶが、そうなった場合にも、新たな薬が相次いで登場するようになってきた。

去勢抵抗性前立腺がんとは

前立腺がんは、アンドロゲン(男性ホルモン)によって増殖するがん。ということは、アンドロゲンを働けなくすればがんを抑えることができる。そこで有効なのが男性ホルモンを遮断したり、産生をストップさせるホルモン療法だ。

ホルモン療法では、主にLH-RHアゴニスト製剤(ゾラデックス、リュープリン)を投与する方法、抗アンドロゲン薬を服用する方法、両薬を併用するCAB(MAB)療法がある。

アンドロゲンの95%は精巣(睾丸)で作られるが、LH-RHアゴニストは精巣由来のアンドロゲンを抑制する。しかし、アンドロゲンの5%ほどは副腎でも作られるので、副腎由来のものも含めアンドロゲンを抑える作用があるのが抗アンドロゲン薬だ。

ところが、この治療法には、継続的に使用しているとやがて効果がなくなり、抑え込んでいたがんが再び勢いを盛り返すという問題がある。精巣を切除する外科的去勢と同じ作用により、2つの薬によってアンドロゲン産生にストップをかけたにもかかわらず、薬に抵抗性を示すがん細胞が次第に増え、やがて効かなくなってくることから、これを「去勢抵抗性前立腺がん」と呼んでいる。

LH-RHアゴニスト:luteinizing hormone-releasing hormone agonist(黄体形成ホルモン放出ホルモン作動薬) ゾラデックス=一般名酢酸ゴセレリン リュープリン=一般名酢酸リュープロレリン CAB:Combined Androgen Blockade療法(複合アンドロゲン阻害療法) MAB:Maximum Androgen Blockade 療法(最大アンドロゲン阻害療法)

去勢抵抗性はいつ、どう判断されるか

横浜市立市民病院泌尿器科科長の森山正敏さんによると、「ホルモン療法によって、血液中のテストステロン(アンドロゲンの一種)が去勢レベルの50ナノグラム(1dlあたり)未満になっているにもかかわらず、リンパ節が腫れてきたり、骨転移が増加してくるなど、病勢が悪化し、腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)値の上昇が認められた症例を “去勢抵抗性前立腺がん” と定義しています」という。

前立腺がんの診療ガイドラインでは、PSA値の上昇について「2ナノグラム以上の上昇幅で最低値から50%以上 3回連続して上昇した場合」としている。

「ただし、このとき、抗アンドロゲン薬除去症候群(AWS)の有無の確認が欠かせません。なぜなら、PSA値が上がってきたときに、LH-RHアゴニストと併用している抗アンドロゲン薬の投与を中止すると、PSA値が下がることがあるからです。これがAWSです。

それでもPSA値が上がるのであれば、抗アンドロゲン薬交替療法を行います。抗アンドロゲン薬はカソデックスかオダインのどちらかを使っていることが多いので、例えばカソデックスを使っているならオダインに替えるとか、あるいはその逆を試みます。1カ月ぐらい試して反応をみて、それでもPSA値が上がるようであれば、去勢抵抗性と判断されます」(図1)

図1 去勢抵抗性前立腺がんの定義

カソデックス=一般名ビカルタミド オダイン=一般名フルタミド

ホルモン療法が効かなくなる理由

図2 グリソン・スコア

前立腺がんの組織状況と浸潤状況から1~5の5段階で表し、最も多くの面積を占める組織像とその次の組織像をそれぞれスコアで表して合算したもの。6以下はおとなしいがん、8以上は悪性度の高いがんとされる

なぜホルモン療法が効かなくなるのか。

様々な原因が考えられているが、前立腺がんの発生や生育に不可欠なアンドロゲンは受容体(アンドロゲンレセプター)を介して作用するが、この受容体に遺伝子変異が生じてわずかなアンドロゲンにも反応したり、副腎や脂質などからのアンドロゲン生成などが原因と言われている。

多くの場合、ホルモン療法を始めてから、数年もするとがんが去勢抵抗性を持つようになるという。

「2~3年、長い人で7~8年はホルモン療法が効きますが、やがて効かなくなります。ただし、がんの性質や悪性度(グリソン・スコアと呼ばれる指標で表される)、治療開始時のステージ(病期)によっても違ってきます。長期間ホルモン療法が効く人もいれば、比較的短い人もいて、個人差があります」(図2)

タキソテールの使い方

ホルモン療法が効かなくなったらどうするか? 最近、日本でも使われるようになってきたのが、がん化学療法薬(抗がん薬)のタキソテールだ。

海外で行われた大規模臨床試験の結果、タキソテールが去勢抵抗性前立腺がんの患者さんの生存期間を延ばすことが示され、08年から日本でも使用が認められた。

ただし、抗アンドロゲン薬を中止したり、別の抗アンドロゲン薬に切り替える交替療法を試みてPSAの上昇がみられたとき、ホルモン療法からすぐにタキソテールの治療に移行するのかというと、必ずしもそうではないという。

「施設によっては、ステロイドや女性ホルモンのエストロゲンを使用したり、ホルモン療法を継続することもあります。これには色々な考え方があり、例えば抗がん薬は切り札としてできるだけ後で使い、ホルモン療法が継続できるなら継続したほうがいいという考え方。逆に、抗がん薬を早く使ったほうが効果が高いのではという考え方もあり、どちらが正解なのか明確になっていません」

この場合もやはり個人差があり、例えばグリソン・スコアが8~10というような高悪性度の人では、ホルモン療法が比較的効きにくいので、早めにタキソテールに移行するケースもあるという。

また、タキソテールについて、単剤あるいはステロイドなど他剤との併用を行うかなど投与法がまだ定まっておらず、模索が続いている段階だという(図3・4)。

図3 前立腺がんに対する現在の治療方針
図4 進行性前立腺がん治療の変化

タキソテール=一般名ドセタキセル

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