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治療をしないことも選択肢の1つ

正確なリスク評価で 限局性がんの過剰治療を避けることが重要

監修●古賀文隆 がん・感染症センター都立駒込病院腎泌尿器外科部長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年1月
更新:2016年3月

  

「正しいリスク評価をしてから、適切な治療法を選択することが大切です」と語る古賀文隆さん

PSA(前立腺特異抗原)検診が普及し、前立腺がんは早期発見が可能になった。限局性前立腺がん(いわゆる早期がん)は、どのような治療法があり、どう選択されるのだろう。体への負担を少なくする治療法はあるのだろうか。最先端で治療に当たる専門医に伺った。

PSA検査の普及で 早期発見が可能になった

PSA(前立腺特異抗原)の測定が普及したことで、それまで発見されなかった初期のがんが見つかるようになった。

「1990年代前半は、病期でいうとT2(転移がなく、がんが被膜内に限局する)以下は全体の2割ほどで、進行がんが6割でしたが、PSA検査が普及してからはT2以下が7割弱、進行がんが2割弱というシフトが起こりました」

前立腺がんに詳しいがん・感染症センター都立駒込病院腎泌尿器外科部長の古賀文隆さんは、PSA検査登場のインパクトをこう話す。

PSAは精液中の酵素で、精子の運動を助ける役割がある。本来は精液中にしか分泌されないため、血液検査により血中に出ていることが確認されれば、前立腺に何らかの異常があることが推察される。

一方で、長時間自転車に乗った後や射精直後にも血中の値が上がることもあるので、1度高かったからといって病状が悪いと即断してはいけない。一番低い値が本当の値なので、次の機会には自転車に乗らずに検査を受けに行くなど、複数回の検査で診断を確定する必要がある。

MRIの活用で 治療の必要ながんの診断が可能

PSA検査の普及でがんが発見されやすくなったが、古賀さんは過剰治療を避けるべきだという。

「過剰治療は患者さんの不利益になります。治療しなくてもよいがんは、見つけても治療しないというのが医療界の流れです」

T2以下は手術や放射線治療を行わないで様子を見る療法が取られる。それが可能なのは「治療しなくてもよいがん」の診断を厳しく行っているからだ。駒込病院では、前立腺がんの疑いがあれば、血液検査に加えてMRI(磁気共鳴画像)を撮る。悪性度を反映する拡散強調画像や腫瘍の大きさなどを確認し、治療が必要な「臨床的に意義のあるがん」かどうかを高い精度で予測できる。

さらに同病院では、超音波検査にMRIを合体させている。超音波検査の画面にMRIの画像を被せ、標的を定めた上で組織生検をする。世界的にもあまり行われていない先進的な方法だ。生検は針を何本も刺すので患者にも抵抗があるが、これならばピンポイントで行える。診断精度は高く、限局がんの中でも治療の必要な臨床的に意義のあるがんを診断できる。

「MRI標的生検だけで系統的多箇所生検を省略しても、97%の確率で高リスクがんを見逃しません。臨床的に意義のあるがんも87%の確率で見逃しません」

低リスクであれば待機療法、PSA監視療法という選択肢も

限局がんの治療方針はどのように決められるのか。

「NCCN(全米がん情報ネットワーク)のリスク分類(図1 グリソンスコア、表2)と、患者さんの希望、人生設計、年齢、全身状態を考えて、相談の上で決めています。前立腺がんは進行がゆっくりなので、仕事のスケジュールの都合がある場合には3年くらい様子を見てから治療しましょうか、などという柔軟さもあります」

図1 グリソンスコア

顕微鏡でがん細胞を観察し、その形態から悪性度(1~5)を判断。異型細胞の占める割合が最も多いものの評価をプライマリーパターン、次に多いものの評価をセカンダリーパターンと呼び、両者の和をグリソンスコア[GS](2~10)という。通常はプライマリーパターンとセカンダリーパターンの両方を4+3のように表記するが、両者の和のみを示す場合もある
表2 リスク分類(NCCNガイドライン)

治療方法を見ていこう。

【待機療法】

期待余命が10年を切るような年齢の患者には、一般的に手術は行わない。今の日本なら87歳くらいが平均寿命とされている。前立腺がんは進行が遅いので、高齢で見つかった場合には体に負担になるような治療はしないということだ。具体的には、77歳以上で発見された中リスク以下のがんに対しては治療を行わない。

「様子を見て、進行の兆しがあれば治療介入するというスタンスです」

治療に移る際にもコミュニケーションが欠かせないという。

「仮に転移しても6割がホルモン療法で5年以上生存できます」

【PSA監視療法】

期待余命が10年以上の低リスクの患者が対象。いずれ根治治療が必要になる可能性があるものの、当面は様子を見ても心配のない患者にはPSA監視療法がとられる。

「中リスクでも、グリソンスコア3+4 かつ最大がん長5㎜未満、T2a以下、PSA≦10、または70歳以上、T2a以下、PSA<10であれば、PSA監視療法を提示しています。病状が悪くても患者さんの仕事や定年退職の予定などの社会的状況によっても、しばらくこの療法をとることがあります」

監視療法中はPSA検診と直腸診を3~6カ月ごと、MRIを1~2年ごとに行い、いずれかの検査で増悪所見があれば生検を行う。状況により治療を開始したほうがよいと判断されたときには、適切な治療を始める。

「監視療法での5年生存率は100%近い。リスクが上がってから手術や放射線治療を行った人と、最初から治療をした人とは予後に差がありません。むしろ低リスクで手術をすると生命予後が短いという報告もあるほどです」

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