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新薬の効果認める

去勢抵抗性前立腺がんの治療選択 個別化・適正化で患者の利益が求められる

監修●赤倉功一郎 JCHO東京新宿メディカルセンター副院長・泌尿器科部長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年1月
更新:2016年3月

  

「前立腺がんの治療で求められているのは、患者さんの個別化と治療の適正化です」と語る赤倉さん

初回ホルモン療法が効かなくなった状態を「去勢抵抗性前立腺がん」というが、従来はそうなった際の対策は限られていた。しかし、2014年に3つの新薬が承認され、治療風景は大きく変化した。一方で、延命効果はあるものの、薬価が非常に高いという医療経済上の課題も指摘され始めている。専門医に、去勢抵抗性前立腺がん治療における2016年の展望を伺った。

ホルモン療法に抵抗性が出たら

図1 去勢抵抗性前立腺がんの定義

日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編『前立腺癌取扱い規約』第4版、金原出版、2010より一部抜粋

前立腺がんは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモンのアンドロゲンが作用してがん細胞が増殖するため、アンドロゲンの分泌や働きを抑えることが有効な治療法となる。

ホルモン療法と呼ばれ、LH-RHアゴニスト〈作動薬〉/アンタゴニスト〈拮抗薬〉製剤または去勢手術と抗アンドロゲン薬を用いて主に転移の認められる前立腺がんに対して治療が行われるが、転移のない前立腺がんでも、年齢や合併症などのために手術や放射線治療を行うことが難しいケース、また放射線治療の前後に短期間併用されることもある。

転移のある進行前立腺がんに高い効果がみられるホルモン療法だが、問題となるのは長く治療を続けていると、薬剤への反応が弱くなって病状がぶり返すことだ。この状態を「去勢抵抗性前立腺がん」という(図1)。薬剤が効かなくなるまでの期間には個人差がある。

これまで、いったん去勢抵抗性になった場合には、ホルモン療法が効かなくなるため、化学療法が選択となり、その中心がタキソテールだった。

タキソテール=一般名ドセタキセル

新薬効果は医療現場で実感

「2014年に日本で承認された3つの新薬で選択肢が大きく広がるとともに、実際によく効いているという実感があります。ある患者さんは新薬の使用により、ひどかった肝転移がほとんど消えました」

JCHO(地域医療機能推進機構)東京新宿メディカルセンター副院長で泌尿器科部長の赤倉功一郎さんはそのインパクトの大きさを話した。

14年に承認されたのは、ホルモン療法薬であるザイティガ、イクスタンジの2剤と抗がん薬のジェブタナ。それぞれの特徴を見てみよう。

【ザイティガ】

アンドロゲン合成を阻害する薬。従来のLH-RH製剤では、血液中のアンドロゲン濃度は低下するが、前立腺組織中の濃度はあまり下がっていないことがわかってきた。理由は精巣だけではなく副腎から分泌されるアンドロゲンがあるのに加え、前立腺がん細胞内でもコレステロールからアンドロゲンが産生されているためだ。

ザイティガはその産生過程に作用する合成酵素の働きを阻害する役割を持つ。アンドロゲンの産生を抑制することで、血中だけではなく前立腺内のアンドロゲン濃度も抑える。

同薬の使用にあたっては、高血圧や低カリウム血症などの副作用を防ぐためにプレドニンなどのステロイド薬の併用が必要となる。しかし、ステロイド薬には骨粗鬆症などの副作用があるので、そちらにも注意が必要となる。

【イクスタンジ】

がん細胞にアンドロゲンが結合するのをブロック(遮断)する抗アンドロゲン薬の進化版。がん細胞に存在するアンドロゲン受容体へのアンドロゲンの結合を阻害する抗アンドロゲン薬はこれまでもあったが、イクスタンジは結合をブロックするのに加え、受容体ががん細胞内の核に移動するのも防ぐ。

副作用は、海外での臨床試験ではほとんどないとされていたが、日本では倦怠感を訴える人が多い。

【ジェブタナ】

従来から使われていたタキソテールと同じタキサン系の抗がん薬。タキソテールが効かなくなった人にも効果が期待できる。タキソテールと同じく、3週間に1回の点滴静注。以前はタキソテールで治療して効果がなくなった場合、次の抗がん薬はなかった。またタキソテールはしびれなどの副作用が強く、そのことが原因で治療継続が困難になった人にも適応となる。

副作用は、骨髄抑制による好中球減少、発熱などが高い確率で発現する。

ザイティガ=一般名アビラテロン イクスタンジ=一般名エンザルタミド ジェブタナ=一般名カバジタキセル プレドニン=一般名プレドニゾロン

新薬をどう選ぶか

では、去勢抵抗性となった場合の治療選択はどのように行われるのか。赤倉さんは「医療現場での使用も広がりました。その中で、新規ホルモン療法を抗がん薬よりも先に行うという使い分けが確立されつつあります。抗がん薬よりもホルモン療法薬のほうが、一般論として副作用が少ないからです」

一方で、抗がん薬を積極的に選択するケースもある。

・急激に症状が悪化している
・前治療でのホルモン薬の効果が悪かった
・PSA(前立腺特異抗原)値の上昇速度が速い
・PSA値が高くないのに病状が悪い
・グリソンスコアで悪性度が高い

「これらの場合は、ホルモン療法が効かない可能性が高い。新薬とはいえ、ホルモン薬を使って時間が経過するうちに、全身状態(PS)が悪化して抗がん薬を使用できなくなるよりも、まず抗がん薬をやりましょうという流れになります」

では、抗がん薬の選択はどうするか。

「タキソテールが常に先で、ジェブタナはその次です。この逆の使用法では、効果に関するエビデンス(科学的根拠)がまだありませんし、保険適用もされません」(表2)

ホルモン療法薬のザイティガとイクスタンジの使用順については、「まだどちらが先か定まっていません。先般、欧州での学会でどちらを先に使うかという議論の中で医師の投票を行ったところ、それぞれ3分の1ずつときれいに割れました。残る3分の1はケースバイケースというものでした。コンセンサスは世界的にもまだ得られていなく、手探り状態と言ってよいでしょう」(図3)

表2 去勢抵抗性前立腺がんに対する新規治療薬の使い方
図3 去勢抵抗性前立腺がんに対する新規薬剤の選択

ホルモンについては、臨床段階ではないが研究も進んでいる。AR-V7という、アンドロゲンへの結合部位のないアンドロゲン受容体の変異について解明が進み、この変異があると、新規薬剤であってもホルモン療法が効かないことが判明している。

ゴナックス=一般名デガレリクス

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