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前立腺がんに多い骨転移。新薬登場にも期待
骨転移を遅らせる治療にはがんの進行を抑える効果も!

監修:桶川隆嗣 杏林大学付属病院泌尿器科准教授
取材・文:半沢裕子
発行:2012年5月
更新:2015年7月

  

桶川隆嗣さん
「前立腺がんと骨関連事象は
密接に関わっています」と話す
桶川隆嗣さん

骨転移を起こしやすい前立腺がん。治療法の1つとして、骨の痛みや骨折などといった骨関連事象を管理することが、がんの働きを抑えるために有効だという。
ここでは、前立腺がんの骨転移治療の最新トピックを紹介しよう。

骨が壊れて出てくる物質ががん細胞を活発にする

[図1 骨転移の頻度と予後]

がん種 進行がんでの頻度
(%)
生存期間
(中央値;月)
5年生存率
(%)
前立腺がん 65-75 36 25
腎がん 20-25 12 10
膀胱がん 40 6-9 <5
乳がん 65-75 24 20
甲状腺がん 60 48 40
肺がん 30-40 7 <5
Coleman RE.Cancer Treat Rev 27:165, 2001
Zekri J, et al. Int J Oncol 19:379, 2001

骨はがんが転移しやすい臓器の1つで、すべての悪性腫瘍のおよそ半分に骨転移が起きるとされている。なかでも、乳がん、肺がんなどと並んで骨転移を起こしやすいのが前立腺がんだ。

最近は腫瘍マーカー(PSA値)の普及によって、早期に発見されることが増えた。しかし、普及率は欧米に比べると不十分で、今も病気が進行してから見つかる患者さんは少なくない。

前立腺のなかにできて、尿道を圧迫する前立腺肥大と違って、前立腺の外側にできやすい前立腺がんは、症状が出にくく、発見が遅れがちだ。

事実、進行がんの65~70%に、骨への転移が見られるという(腎がんで20~25%、肺がんで30~40%)(図1)。

なかには、骨の痛みや麻痺、骨折などで整形外科を受診し、病気が見つかる人もいる。また、前立腺がんでホルモン療法を受けたあと、薬が効かなくなった人の85%に、骨転移が起きているというデータもある。杏林大学付属病院泌尿器科准教授の桶川隆嗣さんはいう。

「骨転移がある進行がんの場合、以前は痛み止めなど、緩和ケアにとどまることが多かったのですが、今日では、『骨の痛みや骨折などといった骨関連事象をきちんと管理すると、管理しなかった患者さんより予後がいい』とわかり、骨関連事象が起こるのを遅らせる治療は泌尿器科でも積極的に行っています」

[図2 骨転移が起こる仕組み]
図2 骨転移が起こる仕組み

がん細胞は、骨を壊す働きをもつ破骨細胞と呼ばれる細胞の力を借りて骨に住みつく。さらに破骨細胞の働きによって骨が壊れると、骨の中に含まれている物質が放出されて、がん細胞の働きを高めてしまう

骨関連事象(通称SRE)とは、骨の病変が進むことで生じる痛み、骨折、ひび、麻痺、脊髄圧迫、外科的手術などの総称だ。では、がんが骨に転移しても、これらの症状が起こらないようにすると、予後がいいのはなぜだろう。

1つは、骨折や麻痺が起きると生活上の困難が増し、体調が悪化するからだ。

「寝たきりになったりすると、どうしても全身状態は悪くなります」

そしてもう1つは、骨の細胞とがん細胞が協力して、病気を進行させるためだ。骨の細胞の破壊を抑えることが、がん細胞の働きを抑えることにもつながるのだ(図2)。

まずは骨関連事象の改善を

前立腺がんの骨転移に対する治療は、どのように行われるのだろう。治療は大きく分けて3つ。がんに対する治療、骨転移の進行を抑える治療、骨転移で起きる骨関連事象を改善する治療だ。

まず、優先されるのは骨関連事象の改善だ。

「麻痺が起きた場合、治療は一刻を争います。たとえば、がんが腰椎にある場合、そこの神経が圧迫されているわけですが、神経は細胞が死んだら治りませんから、極端な場合、精巣摘出術(去勢術)を行って体内の男性ホルモンのレベルを一気に落とし、腰椎の病巣に放射線をかけることもあります」

脊椎の圧迫を取るために外科手術を行う、痛みを和らげるために放射線をかける、痛み止めを投与する、神経ブロック注射を行うなどの治療もこれに入る。

男性ホルモンの分泌を抑え、がんの働きを止める

がんに対する治療としては、進行がんのため、基本は全身的なホルモン療法となる。前立腺がんは男性ホルモンの作用で増殖するため、これが働かないようにするが、現在はMABと呼ばれる療法が標準治療となっている。MABとはMaximum(最大)Androgen(アンドロゲン=男性ホルモン)Blockade(遮断)の略語。言葉通り、最大限に男性ホルモンの作用を抑える治療だ。

かつては精巣摘出術が一般的に行われたが、男性への心身の影響が大きく、今日ではほとんど行われない。代わりに、脳に働きかけ、男性ホルモンが分泌されないようにする薬と、男性ホルモンが前立腺の細胞に働くのを妨げる薬を併用し、ほぼ100%、男性ホルモンが働かない状態をつくる。

[図3 前立腺がんに対する薬物療法の一般的な治療指針(日本)]
図3 前立腺がんに対する薬物療法の一般的な治療指針(日本)

前者はLH-RHアゴニストと呼ばれる薬を、1カ月か3カ月に1度注射する。後者は抗アンドロゲン薬と呼ばれる薬で、カソデックス()、オダイン()、プロスタール()など。いずれも飲み薬となっている。

ホルモン剤が効かない場合や、効果が得られなくなった場合には、抗がん剤を投与することもある。主に使われているのはタキサン系抗がん剤のタキソテール()だ(図3)。

カソデックス=一般名ビカルタミド
オダイン=一般名フルタミド
プロスタール=一般名酢酸クロルマジノン
タキソテール=一般名ドセタキセル
LH-RHアゴニストとして、リュープリン(一般名リュープロレリン)、ゾラデックス(一般名ゴセレリン酢酸塩)があげられる


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