がんの確定は生検で、その前に重要なのがPSA検査
前立腺がん、どんな検査でどう診断するか?
「PSA検査は治療の
指針にもなります」と語る
武藤智さん
今、最も増加が著しいがんの1つが前立腺がんです。
前立腺がんの診断にはどのような検査が必要なのか、また診断後、どのような指標で治療を続けていけばいいのでしょうか。
前立腺がんの第1検査はPSA
前立腺がんが増えている理由は、社会の高齢化や食生活の欧米化などとともに、腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)検査が普及したこともあげられています。
PSAは前立腺でつくられるタンパク質の一種ですが、前立腺の病気がなければ血中濃度は低いまま。ところが、前立腺に病気があると血液中の濃度が上昇します(図1)。
この血液中のPSAを採血して調べる検査が普及した結果、がんの可能性がある人を拾い上げることができるようになり、前立腺がんの早期発見に大きく貢献しています。
「PSA検査がなかった時代の前立腺がんの患者さんは、がんが見つかったときにはほとんどの方が転移していて、末期の方ばかりでした。それがPSAの登場によって無症状でも早い段階で見つかるようになりました」
こう語るのは帝京大学医学部付属病院泌尿器科准教授の武藤智さんです。
生検が必要かどうかをPSA検査で判断
[図3 PSA検診と前立腺がんによる死亡率]
もちろん、PSA検査だけでは前立腺がんかどうかの判断はできません。PSAは前立腺に感度の高いマーカーではあるものの、がんだけに反応して値が上昇するわけではないからです。前立腺肥大症や前立腺炎でもPSAの数値は高くなります(図2)。
「普通、20歳代では前立腺重量は10gぐらいですが、お年を召すと多くの方で肥大してきます。中には100gを超える人もいます。前立腺肥大症でもPSAの数値は上昇します。また、おしっこが出なくなったり、前立腺にばい菌がついたりすると多少PSAの値が上がります」と武藤さん。
逆に、PSAの数値が高くなくても前立腺がんになることがあります。
このため、最終的には前立腺に針を刺して組織を採り、顕微鏡で観察する生検によって確定診断を行いますが、生検が必要かどうかを判断するのがPSA検査です(図3)
PSA値が2.5を超えたら生検
一般的にはPSAの数値の正常値は4ng/ml(以下、単位略)とされてきました。つまり、PSAの値が4を超えたら前立腺がんを疑い、生検を行っていたのですが、4以下でもがんがみつかるケースが少なくありません。
「したがって、数値だけでなく、年齢や前立腺の大きさなども考慮して、がんの可能性を判断します。PSAはあくまでスクリーニング(*)であり、がんを見逃さないよう、がんの疑いのある方をできる限り生検に誘導し、そのかわり過剰な生検は避けるという観点から、当院では2.5以上の人を生検の対象にしています。海外でも2.5以上とするところが多く、標準的な流れとなっています」
PSAの数値に異常があると認められると生検が行われます。
なお、その前に、肛門から指を挿入して前立腺の状態を確認する直腸診、あるいは肛門から超音波を発する器具を挿入して前立腺の内部を画像で調べる経直腸エコーで調べる場合もあります(写真4)。
*スクリーニング=ふるい分け検査
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