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ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん 転移のない去勢抵抗性前立腺がんに副作用の軽い新薬ニュベクオ

監修●三宅秀明 浜松医科大学泌尿器科学講座教授
取材・文●柄川昭彦
(2021年1月)

「ホルモン療法が効いているときに、効いている期間をできるだけ延長することが、大幅な予後改善を実現するのには重要です」と語る三宅秀明さん

ホルモン療法が効かなくなった「去勢抵抗性前立腺がん」の新しい治療薬が相次いで登場している。2014年には「イクスタンジ」と「ザイティガ」、2019年には「アーリーダ」が使われるようになり、2020年には「ニュベクオ」が登場した。

この新薬は、どのような薬で、去勢抵抗性前立腺がんの治療で、どのように使われていくのだろうか。浜松医科大学泌尿器科学講座教授の三宅秀明さんに聞いた。

ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん

「去勢抵抗性前立腺がん」といわれても、どんな前立腺がんなのかわからない、という人が多いに違いない。浜松医科大学泌尿器科学講座教授の三宅秀明さんは、次のように説明してくれた。

「ここでの『去勢』という言葉は、外科的に精巣を取り除くことだけではなく、『アンドロゲン(男性ホルモン)を除去する』ということを意味しています。つまり、ホルモン療法を行って、アンドロゲンの生成を抑えたり、アンドロゲンが前立腺がんに作用するのを抑えたりすることを含めて、『去勢』という言葉で表現しているわけです。したがって、『去勢抵抗性』というのは、外科的去勢を含むホルモン療法に対して抵抗性ができたということ。

細かい規定はいろいろありますが、『去勢抵抗性前立腺がん』とは、『ホルモン療法に効果を示さなくなった前立腺がん』と考えていいでしょう」

前立腺がんに対してホルモン療法が有効なのは、前立腺がんの発生や増殖にアンドロゲンが関わっているから。前立腺がんの細胞には、アンドロゲン受容体があり、ここにアンドロゲンが結合すると、がん細胞の増殖が促進されてしまう。

そこで、前立腺がんにアンドロゲンが作用しないように、アンドロゲン除去療法(ADT=Androgen Deprivation Therapy)が行われるようになった。アンドロゲン除去療法には、手術で精巣を摘出する方法もあるが、広く行われているのは内科的なホルモン療法である。

そのホルモン療法が効かなくなったがんを、去勢抵抗性前立腺がんと呼ぶわけだが、CRPC(Castration Resistant Prostate Cancer)と略されることもある。そして、去勢抵抗性前立腺がんは、「遠隔転移がある去勢抵抗性前立腺がん」と「遠隔転移がない去勢抵抗性前立腺がん」に分類されている。

「遠隔転移があるかどうかは、通常、CTおよび骨シンチグラフィによって判定します。もちろん遠隔転移があるほうが、悪性度が高く、予後(よご)も不良です」(三宅さん)

去勢抵抗性前立腺がんの治療に使われる薬

去勢抵抗性前立腺がんの治療では、次のような薬が使われている(表1)。

アーリーダは2019年5月に発売され、ニュベクオは2020年5月に発売されている。よく似た作用を持つ2つのアンドロゲン受容体阻害薬が登場してきたことになる。ここでは、最も新しい薬であるニュベクオについて、少し詳しく解説する。

ニュベクオの作用を説明するには、アンドロゲンがどのように前立腺がんを増殖させるかを説明しておく必要がある。

1)がん細胞内にあるアンドロゲン受容体にアンドロゲンが結合する
2)アンドロゲンと結合した受容体は核内に移行する
3)アンドロゲン受容体がDNAに作用して増殖を促す

このような3段階を経て、がん細胞の増殖が起こるのだ。

「イクスタンジとアーリーダも同じですが、ニュベクオもこの3つの段階すべてに働きかけます。1つ目は、アンドロゲン受容体に結合するアンドロゲンに対して、競合的阻害薬として働きます。ニュベクオが自ら結合することで、アンドロゲンが結合するのを阻害するわけです。2つ目は、アンドロゲン受容体が核内に移行するのを抑制する作用です。3つ目は、アンドロゲン受容体による転写活性を阻害する作用です。この3つの作用でがんの増殖を抑え、治療効果を発揮します」(三宅さん)(図2)

この薬の有効性と安全性は、もちろん臨床試験で証明されている。

「ニュベクオが承認される根拠となった臨床試験は、ハイリスク無転移去勢抵抗性前立腺がんを対象とした『ARAMIS試験』です。この臨床試験において、プラセボに比べて有意に、転移出現までの期間(MFS)および全生存期間(OS)を延長することが示されたのです」(三宅さん)

この臨床試験について少し紹介しておこう。ARAMIS試験は国際共同第Ⅲ相試験で、遠隔転移のない去勢抵抗性前立腺がんの患者さん1,509人が対象となった。この人たちを、ランダム(無作為)に「ニュベクオ+ADT(アンドロゲン除去療法)群」955人と、「プラセボ+ADT群」554人に割り振り、比較試験が行われた。

主要評価項目は、転移が見つかるまでの期間を示す「無転移生存期間」(MFS)だった。結果は「プラセボ+ADT群」が18.4カ月だったのに対し、「ニュベクオ+ADT群」では40.4カ月と、大幅に延長した(図3)。

副作用としては、疲労、高血圧、皮疹(ひしん)、下痢などが報告されているが、いずれも重い症状は少なかった。

以上のような結果から、ニュベクオは日本でも承認され、発売されるに至った。この薬の適応は、「遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺がん」となっている。